婚約破棄された令嬢ですが、新たな幸せを掴みます!

鍛高譚

文字の大きさ
3 / 20
第一章:婚約破棄と裏切り

1-3

しおりを挟む
 そこへ、ミレイアが意味深な笑みを浮かべながら、静かに口を開いた。
「アレクシス様、そういうことでしたら、きちんと家同士で協議する必要があるのではなくて?」
 彼女の声音は、どこか余裕を感じさせる。アレクシスは「もちろんです」と答えたが、ミレイアと視線を交わすその瞬間――確かに、微かな微笑みを交わしたように見えた。

 シェラの背筋に冷たいものが走る。まさかとは思いたくないが、アレクシスはミレイアと……? あり得ない、と自分を強く叱咤するものの、浮かんだ疑念は消えない。
 そして、アレクシスは決定的な言葉を口にした。
「実は、僕はミレイアを愛しています。これまで黙っていましたが、もう偽りを抱えたままシェラと結婚するわけにはいきません。そういうわけですから、今日のところはこれで――」

 一気に血の気が引く。使用人たちも息をのんでいる。父と母は驚愕から怒りに転じ、声を張り上げようとしたが、アレクシスはそれを制するように言葉を続けた。
「こちらからの条件は、追って正式に書簡をお送りいたします。どうか、シェラにはこの場で婚約解消を納得していただきたい」

 あまりに一方的だ。シェラは言葉も出ずに目を見開いたまま、じっとアレクシスを見つめる。それに耐えられなくなったのか、彼は視線を外し、やや乱暴に立ち上がる。
「失礼します」
 彼はそう告げると、まるでこの屋敷から逃げるように、足早に応接室を去っていった。

 残されたのは、凍りついた空気と沈黙。そして、静かな嘲笑が部屋の片隅から聞こえた。ミレイアが、唇に薄い笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がる。
「まさか、こんな場で婚約破棄が宣言されるなんて……驚きましたわね、シェラ」
 その言葉には、どこか愉悦すら含まれていた。シェラは呆然としながらも、言い返したい気持ちがこみ上げる。が、頭の中が真っ白で、適切な言葉が見つからない。

「あなた……最初からアレクシス様と通じていたの?」
 やっとの思いで絞り出した言葉は、震えを帯びていた。ミレイアはあからさまに目を伏せ、そして甘ったるい声で応じる。
「まあ、そうかもしれませんわ。アレクシス様は私を選んだ。それだけのことよ。あなたに魅力が足りなかったのではなくって?」

 そう言い残すと、ミレイアはくるりと踵を返し、部屋を出ていく。彼女が去った後、シェラは無意識に両手を強く握り締めていた。母がそっと肩に手を置くが、慰めの言葉をかけることもできず、ただ震えている娘の姿を見つめることしかできない。父はひどく沈んだ面持ちで、唇を噛みしめていた。

「どういうことだ……私たちの家を……こんな形で侮辱するなんて……」
 父の声には、怒りと屈辱がにじむ。侯爵家として、公爵家との婚姻は家格の面からも大きな意味を持つ。いきなり破棄されるとなれば、世間体や今後の立場にも悪影響が及ぶのは必至だった。
 それに加えて、アレクシスの言葉――「愛していない」という宣告は、シェラの心を容赦なく傷つける。婚約は政略にすぎないと頭では理解していても、少しずつ愛情らしき思いを育んでいた自分が、馬鹿らしく思えてくる。

「シェラ……大丈夫かい?」
 母が再び声をかけるが、シェラは何も答えられない。瞳からは大粒の涙がこぼれそうになるが、必死で耐えようとする。侯爵家の令嬢として、こんな場で涙など見せるわけにはいかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アプリリア・フォン・ロズウェルは、王太子ルキノ・エドワードとの幸せな婚約生活を夢見ていた。 しかし、王宮のパーティーで突然、ルキノから公衆の面前で婚約破棄を宣告される。 理由は「性格が悪い」「王妃にふさわしくない」という、にわかには信じがたいもの。 さらに、新しい婚約者候補として名指しされたのは、アプリリアの異母妹エテルナだった。 絶望の淵に突き落とされたアプリリア。 破棄の儀式の最中、突如として前世の記憶が蘇り、 彼女の中に眠っていた「真の聖女の力」――強力な治癒魔法と予知能力が覚醒する。 王宮を追われ、辺境の荒れた領地へ左遷されたアプリリアは、 そこで自立を誓い、聖女の力で領民を癒し、土地を豊かにしていく。 そんな彼女の前に現れたのは、王国最強の冷徹騎士団長ガイア・ヴァルハルト。 魔物の脅威から領地を守る彼との出会いが、アプリリアの運命を大きく変えていく。 一方、王宮ではエテルナの「偽りの聖女の力」が露呈し始め、 ルキノの無能さが明るみに出る。 エテルナの陰謀――偽手紙、刺客、魔物の誘導――が次々と暴かれ、 王国は混乱の渦に巻き込まれる。 アプリリアはガイアの愛を得て、強くなっていく。 やがて王宮に招かれた彼女は、聖女の力で王国を救い、 エテルナを永久追放、ルキノを王位剥奪へと導く。 偽りの妹は孤独な追放生活へ、 元婚約者は権力を失い後悔の日々へ、 取り巻きの貴族令嬢は家を没落させ貧困に陥る。 そしてアプリリアは、愛するガイアと結婚。 辺境の領地は王国一の繁栄地となり、 二人は子に恵まれ、永遠の幸せを手にしていく――。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。

青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。 その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。 あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。 一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。 婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。 婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。 アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。 「小説家になろう」でも連載中です。 修正が入っている箇所もあります。 タグはこの先ふえる場合があります。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄された令嬢、冷酷騎士の最愛となり元婚約者にざまぁします

腐ったバナナ
恋愛
婚約者である王太子から「平民の娘を愛した」と婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリアナ。 周囲の貴族たちに嘲笑され、絶望の淵に立たされる。 だがその場に現れた冷酷無比と噂される黒騎士団長・アレクシスが、彼女を抱き寄せて宣言する。 「リリアナ嬢は、私が妻に迎える。二度と誰にも侮辱はさせない」 それは突然の求婚であり、同時にざまぁの始まりだった。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...