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第一章:婚約破棄と裏切り
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そこへ、ミレイアが意味深な笑みを浮かべながら、静かに口を開いた。
「アレクシス様、そういうことでしたら、きちんと家同士で協議する必要があるのではなくて?」
彼女の声音は、どこか余裕を感じさせる。アレクシスは「もちろんです」と答えたが、ミレイアと視線を交わすその瞬間――確かに、微かな微笑みを交わしたように見えた。
シェラの背筋に冷たいものが走る。まさかとは思いたくないが、アレクシスはミレイアと……? あり得ない、と自分を強く叱咤するものの、浮かんだ疑念は消えない。
そして、アレクシスは決定的な言葉を口にした。
「実は、僕はミレイアを愛しています。これまで黙っていましたが、もう偽りを抱えたままシェラと結婚するわけにはいきません。そういうわけですから、今日のところはこれで――」
一気に血の気が引く。使用人たちも息をのんでいる。父と母は驚愕から怒りに転じ、声を張り上げようとしたが、アレクシスはそれを制するように言葉を続けた。
「こちらからの条件は、追って正式に書簡をお送りいたします。どうか、シェラにはこの場で婚約解消を納得していただきたい」
あまりに一方的だ。シェラは言葉も出ずに目を見開いたまま、じっとアレクシスを見つめる。それに耐えられなくなったのか、彼は視線を外し、やや乱暴に立ち上がる。
「失礼します」
彼はそう告げると、まるでこの屋敷から逃げるように、足早に応接室を去っていった。
残されたのは、凍りついた空気と沈黙。そして、静かな嘲笑が部屋の片隅から聞こえた。ミレイアが、唇に薄い笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がる。
「まさか、こんな場で婚約破棄が宣言されるなんて……驚きましたわね、シェラ」
その言葉には、どこか愉悦すら含まれていた。シェラは呆然としながらも、言い返したい気持ちがこみ上げる。が、頭の中が真っ白で、適切な言葉が見つからない。
「あなた……最初からアレクシス様と通じていたの?」
やっとの思いで絞り出した言葉は、震えを帯びていた。ミレイアはあからさまに目を伏せ、そして甘ったるい声で応じる。
「まあ、そうかもしれませんわ。アレクシス様は私を選んだ。それだけのことよ。あなたに魅力が足りなかったのではなくって?」
そう言い残すと、ミレイアはくるりと踵を返し、部屋を出ていく。彼女が去った後、シェラは無意識に両手を強く握り締めていた。母がそっと肩に手を置くが、慰めの言葉をかけることもできず、ただ震えている娘の姿を見つめることしかできない。父はひどく沈んだ面持ちで、唇を噛みしめていた。
「どういうことだ……私たちの家を……こんな形で侮辱するなんて……」
父の声には、怒りと屈辱がにじむ。侯爵家として、公爵家との婚姻は家格の面からも大きな意味を持つ。いきなり破棄されるとなれば、世間体や今後の立場にも悪影響が及ぶのは必至だった。
それに加えて、アレクシスの言葉――「愛していない」という宣告は、シェラの心を容赦なく傷つける。婚約は政略にすぎないと頭では理解していても、少しずつ愛情らしき思いを育んでいた自分が、馬鹿らしく思えてくる。
「シェラ……大丈夫かい?」
母が再び声をかけるが、シェラは何も答えられない。瞳からは大粒の涙がこぼれそうになるが、必死で耐えようとする。侯爵家の令嬢として、こんな場で涙など見せるわけにはいかない。
「アレクシス様、そういうことでしたら、きちんと家同士で協議する必要があるのではなくて?」
彼女の声音は、どこか余裕を感じさせる。アレクシスは「もちろんです」と答えたが、ミレイアと視線を交わすその瞬間――確かに、微かな微笑みを交わしたように見えた。
シェラの背筋に冷たいものが走る。まさかとは思いたくないが、アレクシスはミレイアと……? あり得ない、と自分を強く叱咤するものの、浮かんだ疑念は消えない。
そして、アレクシスは決定的な言葉を口にした。
「実は、僕はミレイアを愛しています。これまで黙っていましたが、もう偽りを抱えたままシェラと結婚するわけにはいきません。そういうわけですから、今日のところはこれで――」
一気に血の気が引く。使用人たちも息をのんでいる。父と母は驚愕から怒りに転じ、声を張り上げようとしたが、アレクシスはそれを制するように言葉を続けた。
「こちらからの条件は、追って正式に書簡をお送りいたします。どうか、シェラにはこの場で婚約解消を納得していただきたい」
あまりに一方的だ。シェラは言葉も出ずに目を見開いたまま、じっとアレクシスを見つめる。それに耐えられなくなったのか、彼は視線を外し、やや乱暴に立ち上がる。
「失礼します」
彼はそう告げると、まるでこの屋敷から逃げるように、足早に応接室を去っていった。
残されたのは、凍りついた空気と沈黙。そして、静かな嘲笑が部屋の片隅から聞こえた。ミレイアが、唇に薄い笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がる。
「まさか、こんな場で婚約破棄が宣言されるなんて……驚きましたわね、シェラ」
その言葉には、どこか愉悦すら含まれていた。シェラは呆然としながらも、言い返したい気持ちがこみ上げる。が、頭の中が真っ白で、適切な言葉が見つからない。
「あなた……最初からアレクシス様と通じていたの?」
やっとの思いで絞り出した言葉は、震えを帯びていた。ミレイアはあからさまに目を伏せ、そして甘ったるい声で応じる。
「まあ、そうかもしれませんわ。アレクシス様は私を選んだ。それだけのことよ。あなたに魅力が足りなかったのではなくって?」
そう言い残すと、ミレイアはくるりと踵を返し、部屋を出ていく。彼女が去った後、シェラは無意識に両手を強く握り締めていた。母がそっと肩に手を置くが、慰めの言葉をかけることもできず、ただ震えている娘の姿を見つめることしかできない。父はひどく沈んだ面持ちで、唇を噛みしめていた。
「どういうことだ……私たちの家を……こんな形で侮辱するなんて……」
父の声には、怒りと屈辱がにじむ。侯爵家として、公爵家との婚姻は家格の面からも大きな意味を持つ。いきなり破棄されるとなれば、世間体や今後の立場にも悪影響が及ぶのは必至だった。
それに加えて、アレクシスの言葉――「愛していない」という宣告は、シェラの心を容赦なく傷つける。婚約は政略にすぎないと頭では理解していても、少しずつ愛情らしき思いを育んでいた自分が、馬鹿らしく思えてくる。
「シェラ……大丈夫かい?」
母が再び声をかけるが、シェラは何も答えられない。瞳からは大粒の涙がこぼれそうになるが、必死で耐えようとする。侯爵家の令嬢として、こんな場で涙など見せるわけにはいかない。
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