白い結婚でしたので、裏切り夫とはお別れいたします

鍛高譚

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第1章:求められた結婚のはずが

4話

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 ところが——。
 結婚式後、新婚生活が始まってからの数週間で、私はある“違和感”に気づきはじめた。
 式の翌日からギルバートは妙に忙しそうにしており、私と二人きりで過ごす時間がほとんどなかったのだ。騎士団の仕事が立て込んでいるのかと思い、最初のうちは何も疑わなかった。しかし、夜になっても彼が帰らないことが続いたり、仮に屋敷に戻ったとしても「疲れているから」と言って自分の部屋に閉じこもってしまうことが多い。
 結婚直後というのは、本来なら新婚夫婦が一番幸せを感じられる時期だろう。少なくとも、私はそう信じていた。だが、私たちの間には夫婦らしい触れ合いや会話の時間がほとんど訪れない。せいぜい朝に食事の席で顔を合わせ、挨拶を交わす程度だ。
 「……ギルバート様は、お忙しいのかしら」
 口に出してみても、私の心に広がる不安は消えてくれない。私の実家であるローランド公爵家は、広大な敷地を誇るが、私はギルバートとの結婚を機に、王都の中心部にある彼の……正確には男爵家の“邸”に住むことになっていた。もっとも、ギルバートは次男なので、本家の屋敷とは別に小規模な屋敷が割り当てられているという形だ。その屋敷自体は決して広くはないが、彼の地位や俸給を考えれば十分立派なもので、召使いや使用人も十数人ほど雇われている。
 侍女に様子を尋ねても、「騎士団からの緊急の呼び出しがあったそうです」「夜間警備の任務があるとのことで、しばらくは遅くなるようです」などと言われるだけ。最初のうちはそれを信じていたが、不安は日に日に増していった。
 新婚生活の初夜すら、一緒に過ごさなかった。
 たった一日だけなら、どうにか心の整理もつけられる。けれど、それが何日も、何週間も続けば、誰だっておかしいと思うに違いない。私としては、公爵家の名に泥を塗るわけにはいかないという考えもあり、大きな問題として騒ぎ立てるのは避けたかったが、それでも夫婦の問題をいつまでも放置するわけにもいかなかった。
 「ねえ、ギルバート様。何か悩み事があるなら、私に話してもらえませんか?」
 ある夜、ようやく屋敷に戻ってきた彼に声をかけた。私はリビングのソファで待っていたのだ。テーブルの上には、使用人が用意してくれた温かい紅茶が湯気を立てている。
 ギルバートは私の言葉に、ほんの少しだけ表情を曇らせた。
 「……いや、何も問題はない。むしろ、君には迷惑をかけっぱなしで申し訳ないと思っているよ」
 そう言いながら、彼は私の隣ではなく、少し離れた椅子に腰かけた。夫婦の距離感としては、あまりに不自然だと思うくらいに。
 「公爵家のお嬢様が、こんな貧相な屋敷で窮屈じゃないかと心配してるんだ。もっとゆったりした生活に慣れているだろうから」
 「私はそんなこと気にしていません。むしろ、二人で新しい家庭を作っていくという実感を得られて、うれしいんです。だから……」
 そこでいったん言葉を切り、私は意を決して続けた。
 「だから、本当に何かあったら遠慮なく言ってほしい。私、あなたのためにできることがあるなら力になりたいんです」
 それは、新妻としての精一杯の気遣いであり、本心だった。だが、ギルバートは疲れた顔のまま、そっけなく答えるだけだった。
 「ありがとう。でも、いまは俺の仕事が立て込んでいるだけだから。それ以上でも以下でもない」
 私がどんなに言葉を尽くしても、彼は深く語ろうとはしない。結婚前にはあれほど熱心に想いを伝えてくれたのに、まるで別人と話しているかのようにすら感じられた。
 その夜、私は自室へ戻った後もなかなか眠れなかった。新婚生活がこんな形で始まるなんて、私は想像すらしていなかったのだ。
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