白い結婚でしたので、裏切り夫とはお別れいたします

鍛高譚

文字の大きさ
22 / 35
第3章:交わされる偽りの弁明、そして決裂

22話

しおりを挟む
 新たな始まりを信じて

 離縁が成立したあと、私はローランド公爵家の邸でゆったりとした日々を過ごしていた。
 最初はまだ心の整理がつかず、ギルバートとの結婚生活を思い出して落ち込むことも多かった。何かをしようと手に取っても集中できず、うっかり物を落としてしまうこともある。でも、父や母、そして使用人たちは温かく私を見守ってくれる。
 「クレア様、今日はいかがなさいますか? お庭でティータイムをなさるのも良いかと……」
 「それとも、少し読書のお手伝いをいたしましょうか?」
 皆が私を気遣ってくれる。その優しさがありがたい反面、申し訳なさも感じる。けれど、母が「あなたは何も悪くないんだから、遠慮なく甘えなさい」と言ってくれたので、私は素直に「うん」と頷いた。
 気づけばもう、あの“白い結婚”から幾分か日が経っている。離婚したという事実は重いが、それで人生が終わるわけではないのだ。
 王都では、相変わらず私の“体調不良”説が続いているらしい。正式な離縁手続きが終わったにもかかわらず、世間にはほとんど情報が流れていないという。これは、父と母、そして王宮の意向によるものだ。ギルバートとの対立が大きなスキャンダルとなって国中を混乱させることは、王家としても望ましくないらしい。
 もっとも、騎士団の一部にはすでに真相が知れ渡っているはずだが、そちらから大きく話が外に漏れることはない。公爵家を敵に回すリスクを考えれば当然だろう。
 私は屋敷の図書室で何冊か本を借り、客間に戻った。久しぶりにゆっくり読書するつもりだ。外は気持ちの良い天候だが、まだ外出する気分にはなれない。でも、こうやって本に集中していると、すこしずつ心が落ち着いてくる。
 以前は、いつか自分もギルバートと一緒に「王国に貢献する夫婦」になれると信じていた。それが無残に砕け散った今、私には新しい夢や目標を見つける必要がある。家で静養しつつ、次に歩むべき道を考えてみよう——そう思っていた矢先、母がニコニコしながら部屋に入ってきた。
 「クレア、いいお茶菓子をいただいたの。使用人が用意してくれたから一緒に食べましょう」
 母の朗らかな声に、私まで少しだけ気分が明るくなる。
 「ありがとう、母様。じゃあ、ちょっと息抜きに……」
 そう答えて立ち上がると、ふわりとカーテンの隙間から優しい風が吹き込んできた。遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。
 私はそのささやかな温もりを感じながら、母とお茶菓子を味わう。
 心の痛みは、まだ完全には消えていない。ギルバートの裏切りで負った傷は深く、当分は癒えないだろう。けれど、こうして穏やかに過ごしているうちに、少しずつ前を向ける気がしていた。
 「私の人生は、これからなんだから……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢マリオンの婚約者アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

処理中です...