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第4章:新たな人生へ、踏み出す勇気
27話
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舞踏会の夜
そして迎えた舞踏会当日。
会場は王都の中心にある、グラナート侯爵家の広大な屋敷だった。王族に次ぐ家柄を持つ侯爵家であり、主催する舞踏会は毎回、大規模で豪華なことで有名だ。招待状によれば、今回は“初夏の夜を彩るバラの祝宴”と銘打たれている。
私は侍女とともに馬車で会場へ向かった。母は別の用事があって来られず、父は王宮での仕事が立て込んでいるために欠席。つまり、この日は私ひとりで舞踏会に出席することになった。
「……久しぶりね、こんなに派手な場所に来るのは」
うっすらと胸が高鳴っているのを感じながら、私は馬車の扉を開ける。目に飛び込んでくるのは、煌びやかにライトアップされた大きな門と、そこに列をなしている貴族たちの馬車の群れ。まるで王宮の晩餐会に次ぐような華やかさだ。
これまでは、結婚前もよくこういった場所に参加していたのに、ギルバートとの件があってからは一切顔を出していなかった。私の「社交界復帰」としては、いささか派手すぎる場ではあるものの、これがいいきっかけになるかもしれないと思い、意を決したのだ。
「クレア・ローランド様のご到着です!」
案内役の従者が大きな声で名前を告げる。私はロングドレスの裾を少しつまみ、優雅に階段を上る。背筋を伸ばして姿勢を正し、自分が公爵家の令嬢であることを思い出すように——。
会場は見渡す限り、絢爛豪華な装飾に彩られている。壁際には香り高いバラの生花が惜しみなく飾られ、中央のダンスホールには大勢の紳士淑女が集っていた。その煌びやかな光景に一瞬気が遠くなりそうだったが、私は何とか踏みとどまる。
「おや……これはローランド公爵令嬢じゃないか。お久しぶりだね」
そう声をかけてきたのは、何度か顔を合わせたことのある伯爵夫人。彼女は私が屋敷から出ていなかった間にさまざまな噂を耳にしていたのか、ちょっと探るような視線を向けてくる。
「ご体調はいかが? 随分とご無沙汰だったけれど、もう平気なのね?」
「ええ、おかげさまで。少し休養が必要だっただけです」
私はにこやかに微笑んで返した。周囲にもちらほら私に視線を投げかける人がいるが、特に直接声をかけてくる者は少ない。どうやらみんな、今の私にどう接すればいいか少々戸惑っている様子だ。
(みんな、私の離縁の真相をどこまで察しているのかしら……)
そう思うと少し落ち着かないが、ここで挙動不審になれば余計に勘繰られる。私はできるだけ堂々と振る舞うことにした。「気にしない、気にしない」と、心の中で言い聞かせながら。
さっそく食事や飲み物が振る舞われ、ホールの中央ではカップルたちが踊りを楽しみ始める。バラに囲まれた豪華な空間の中、美しい音楽が流れ、華やかなドレスを身にまとった人々が笑い合っている……。いつもならウキウキするはずの光景なのに、なぜか私は心の底から楽しめない。
何度か知人と軽く挨拶を交わしたあと、少し疲れてきた私は会場の隅へと歩み寄った。壁際に小さなテーブルがあり、そこに並ぶ飲み物のトレーを手に取ろうと手を伸ばす。
——すると、そのトレーを私より先に取ろうとした人と、少し手がぶつかった。
「……あっ、すみません」
気まずく思って顔を上げたら、意外にもその男性が微笑みを浮かべ、軽く頭を下げるではないか。
そして迎えた舞踏会当日。
会場は王都の中心にある、グラナート侯爵家の広大な屋敷だった。王族に次ぐ家柄を持つ侯爵家であり、主催する舞踏会は毎回、大規模で豪華なことで有名だ。招待状によれば、今回は“初夏の夜を彩るバラの祝宴”と銘打たれている。
私は侍女とともに馬車で会場へ向かった。母は別の用事があって来られず、父は王宮での仕事が立て込んでいるために欠席。つまり、この日は私ひとりで舞踏会に出席することになった。
「……久しぶりね、こんなに派手な場所に来るのは」
うっすらと胸が高鳴っているのを感じながら、私は馬車の扉を開ける。目に飛び込んでくるのは、煌びやかにライトアップされた大きな門と、そこに列をなしている貴族たちの馬車の群れ。まるで王宮の晩餐会に次ぐような華やかさだ。
これまでは、結婚前もよくこういった場所に参加していたのに、ギルバートとの件があってからは一切顔を出していなかった。私の「社交界復帰」としては、いささか派手すぎる場ではあるものの、これがいいきっかけになるかもしれないと思い、意を決したのだ。
「クレア・ローランド様のご到着です!」
案内役の従者が大きな声で名前を告げる。私はロングドレスの裾を少しつまみ、優雅に階段を上る。背筋を伸ばして姿勢を正し、自分が公爵家の令嬢であることを思い出すように——。
会場は見渡す限り、絢爛豪華な装飾に彩られている。壁際には香り高いバラの生花が惜しみなく飾られ、中央のダンスホールには大勢の紳士淑女が集っていた。その煌びやかな光景に一瞬気が遠くなりそうだったが、私は何とか踏みとどまる。
「おや……これはローランド公爵令嬢じゃないか。お久しぶりだね」
そう声をかけてきたのは、何度か顔を合わせたことのある伯爵夫人。彼女は私が屋敷から出ていなかった間にさまざまな噂を耳にしていたのか、ちょっと探るような視線を向けてくる。
「ご体調はいかが? 随分とご無沙汰だったけれど、もう平気なのね?」
「ええ、おかげさまで。少し休養が必要だっただけです」
私はにこやかに微笑んで返した。周囲にもちらほら私に視線を投げかける人がいるが、特に直接声をかけてくる者は少ない。どうやらみんな、今の私にどう接すればいいか少々戸惑っている様子だ。
(みんな、私の離縁の真相をどこまで察しているのかしら……)
そう思うと少し落ち着かないが、ここで挙動不審になれば余計に勘繰られる。私はできるだけ堂々と振る舞うことにした。「気にしない、気にしない」と、心の中で言い聞かせながら。
さっそく食事や飲み物が振る舞われ、ホールの中央ではカップルたちが踊りを楽しみ始める。バラに囲まれた豪華な空間の中、美しい音楽が流れ、華やかなドレスを身にまとった人々が笑い合っている……。いつもならウキウキするはずの光景なのに、なぜか私は心の底から楽しめない。
何度か知人と軽く挨拶を交わしたあと、少し疲れてきた私は会場の隅へと歩み寄った。壁際に小さなテーブルがあり、そこに並ぶ飲み物のトレーを手に取ろうと手を伸ばす。
——すると、そのトレーを私より先に取ろうとした人と、少し手がぶつかった。
「……あっ、すみません」
気まずく思って顔を上げたら、意外にもその男性が微笑みを浮かべ、軽く頭を下げるではないか。
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