白い結婚でしたので、裏切り夫とはお別れいたします

鍛高譚

文字の大きさ
27 / 35
第4章:新たな人生へ、踏み出す勇気

27話

しおりを挟む
舞踏会の夜

 そして迎えた舞踏会当日。
 会場は王都の中心にある、グラナート侯爵家の広大な屋敷だった。王族に次ぐ家柄を持つ侯爵家であり、主催する舞踏会は毎回、大規模で豪華なことで有名だ。招待状によれば、今回は“初夏の夜を彩るバラの祝宴”と銘打たれている。
 私は侍女とともに馬車で会場へ向かった。母は別の用事があって来られず、父は王宮での仕事が立て込んでいるために欠席。つまり、この日は私ひとりで舞踏会に出席することになった。
 「……久しぶりね、こんなに派手な場所に来るのは」
 うっすらと胸が高鳴っているのを感じながら、私は馬車の扉を開ける。目に飛び込んでくるのは、煌びやかにライトアップされた大きな門と、そこに列をなしている貴族たちの馬車の群れ。まるで王宮の晩餐会に次ぐような華やかさだ。
 これまでは、結婚前もよくこういった場所に参加していたのに、ギルバートとの件があってからは一切顔を出していなかった。私の「社交界復帰」としては、いささか派手すぎる場ではあるものの、これがいいきっかけになるかもしれないと思い、意を決したのだ。
 「クレア・ローランド様のご到着です!」
 案内役の従者が大きな声で名前を告げる。私はロングドレスの裾を少しつまみ、優雅に階段を上る。背筋を伸ばして姿勢を正し、自分が公爵家の令嬢であることを思い出すように——。
 会場は見渡す限り、絢爛豪華な装飾に彩られている。壁際には香り高いバラの生花が惜しみなく飾られ、中央のダンスホールには大勢の紳士淑女が集っていた。その煌びやかな光景に一瞬気が遠くなりそうだったが、私は何とか踏みとどまる。
 「おや……これはローランド公爵令嬢じゃないか。お久しぶりだね」
 そう声をかけてきたのは、何度か顔を合わせたことのある伯爵夫人。彼女は私が屋敷から出ていなかった間にさまざまな噂を耳にしていたのか、ちょっと探るような視線を向けてくる。
 「ご体調はいかが? 随分とご無沙汰だったけれど、もう平気なのね?」
 「ええ、おかげさまで。少し休養が必要だっただけです」
 私はにこやかに微笑んで返した。周囲にもちらほら私に視線を投げかける人がいるが、特に直接声をかけてくる者は少ない。どうやらみんな、今の私にどう接すればいいか少々戸惑っている様子だ。
 (みんな、私の離縁の真相をどこまで察しているのかしら……)
 そう思うと少し落ち着かないが、ここで挙動不審になれば余計に勘繰られる。私はできるだけ堂々と振る舞うことにした。「気にしない、気にしない」と、心の中で言い聞かせながら。
 さっそく食事や飲み物が振る舞われ、ホールの中央ではカップルたちが踊りを楽しみ始める。バラに囲まれた豪華な空間の中、美しい音楽が流れ、華やかなドレスを身にまとった人々が笑い合っている……。いつもならウキウキするはずの光景なのに、なぜか私は心の底から楽しめない。
 何度か知人と軽く挨拶を交わしたあと、少し疲れてきた私は会場の隅へと歩み寄った。壁際に小さなテーブルがあり、そこに並ぶ飲み物のトレーを手に取ろうと手を伸ばす。
 ——すると、そのトレーを私より先に取ろうとした人と、少し手がぶつかった。
 「……あっ、すみません」
 気まずく思って顔を上げたら、意外にもその男性が微笑みを浮かべ、軽く頭を下げるではないか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢マリオンの婚約者アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

処理中です...