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第二章:氷の令嬢、契約結婚の提案を受ける
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「お嬢様、失礼いたします」
控えめなノックの音とともに、侍女のクロエが部屋へ入ってくる。クロエはヴァレリーより少し年下で、幼少期からずっと彼女に仕えてきた。ヴァレリーが人前で表情を出さない分、クロエは感情をそのまま表す子犬のような性格だ。
クロエは少し上ずった声で、興奮を抑えきれない様子を見せながら口を開く。
「お嬢様、大変です……というか、もうご存じかもしれませんが、今朝の新聞にも王太子殿下の件が――」
「ええ、もう読んだわ。朝食前に目を通しておいたから」
ヴァレリーが淡々と応じると、クロエは 「やはり……」 という顔をする。
地方の新聞までもが、昨日の舞踏会の一部始終を面白おかしく伝えている。
「王太子、熱愛の庶民聖女のために公爵家へ領地譲渡を約束」
「真実の愛か? それともただの愚行か?」
どの新聞も、嘲笑と好奇の目を隠さない見出しばかりで、王家の立場が一気に危うくなるのではとさえ思わせる内容だった。
「それで、お父様のご様子は?」
ヴァレリーの問いかけに、クロエはかしこまって返答する。
「はい、公爵様は早朝から執務室にこもって、王宮の使者や法務担当の方々と打ち合わせをなさっています。お嬢様を呼びに行くよう仰せつかったので……」
「わかったわ。すぐに行くと伝えてちょうだい」
クロエは一礼すると、急ぎ足で部屋を出て行く。その足取りには、彼女が王宮関係者の来訪に相当な緊張を覚えている様子がうかがえた。
一方のヴァレリーはといえば、少しも動揺を見せず、鏡台に残していた銀細工のブラシをゆっくりと置く。すでに髪は整えてあるため、メイドたちが整えてくれたシンプルなエメラルド色のドレスを軽く直しただけで、すぐに部屋を出た。
廊下を歩く際も、彼女の歩調は乱れない。王都でも屈指の広さを誇る公爵家の屋敷にはいくつもの客間や応接室があるが、今回は政治的要件ということもあって、公爵の執務室が使われるようだ。
扉の前にたどり着くと、侍者がヴァレリーを認め、静かに扉を開ける。
「お嬢様、どうぞお入りくださいませ」
控えめなノックの音とともに、侍女のクロエが部屋へ入ってくる。クロエはヴァレリーより少し年下で、幼少期からずっと彼女に仕えてきた。ヴァレリーが人前で表情を出さない分、クロエは感情をそのまま表す子犬のような性格だ。
クロエは少し上ずった声で、興奮を抑えきれない様子を見せながら口を開く。
「お嬢様、大変です……というか、もうご存じかもしれませんが、今朝の新聞にも王太子殿下の件が――」
「ええ、もう読んだわ。朝食前に目を通しておいたから」
ヴァレリーが淡々と応じると、クロエは 「やはり……」 という顔をする。
地方の新聞までもが、昨日の舞踏会の一部始終を面白おかしく伝えている。
「王太子、熱愛の庶民聖女のために公爵家へ領地譲渡を約束」
「真実の愛か? それともただの愚行か?」
どの新聞も、嘲笑と好奇の目を隠さない見出しばかりで、王家の立場が一気に危うくなるのではとさえ思わせる内容だった。
「それで、お父様のご様子は?」
ヴァレリーの問いかけに、クロエはかしこまって返答する。
「はい、公爵様は早朝から執務室にこもって、王宮の使者や法務担当の方々と打ち合わせをなさっています。お嬢様を呼びに行くよう仰せつかったので……」
「わかったわ。すぐに行くと伝えてちょうだい」
クロエは一礼すると、急ぎ足で部屋を出て行く。その足取りには、彼女が王宮関係者の来訪に相当な緊張を覚えている様子がうかがえた。
一方のヴァレリーはといえば、少しも動揺を見せず、鏡台に残していた銀細工のブラシをゆっくりと置く。すでに髪は整えてあるため、メイドたちが整えてくれたシンプルなエメラルド色のドレスを軽く直しただけで、すぐに部屋を出た。
廊下を歩く際も、彼女の歩調は乱れない。王都でも屈指の広さを誇る公爵家の屋敷にはいくつもの客間や応接室があるが、今回は政治的要件ということもあって、公爵の執務室が使われるようだ。
扉の前にたどり着くと、侍者がヴァレリーを認め、静かに扉を開ける。
「お嬢様、どうぞお入りくださいませ」
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