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第三章:氷の令嬢、王宮の晩餐会で微笑む
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控え室に通されると、そこには数名の貴族令嬢たちが既に待機していた。だが、その顔ぶれを見た瞬間、ヴァレリーは一瞬だけ眉を寄せる。
――そこに、聖女シエナがいるのだ。
いつも通り、純白のドレスを身にまとい、髪には花の髪飾りをあしらっている。表面上は慈愛に満ちた笑顔を浮かべているが、その瞳にはどこか挑発的な光が混じっている。
「あら、リチャードソン令嬢。ご機嫌いかがですか?」
シエナはわざわざ立ち上がり、ヴァレリーの方へ近づいてくる。その動作はさも優雅に見せようとしているのかもしれないが、微妙に洗練されておらず、かえって不自然な印象を与える。
周囲の令嬢たちも気づいているのか、苦笑いを浮かべたり微妙に視線を逸らしたりしている。
「ええ、特に変わりはありません。シエナ様こそ、王太子殿下と幸せにお過ごしのようですね」
ヴァレリーが当たり障りのない言葉を返すと、シエナはわざとらしく頬を染めてうつむいた。
「はい……。エドワード様とは、毎日が夢のようです。彼は私にとって運命の方。リチャードソン令嬢には申し訳ないのですけれど、やはり神のご意思には逆らえないというか……」
それを聞いた令嬢たちが顔を見合わせる。明らかに嫌味である。しかしヴァレリーは表情ひとつ変えない。
「まあ、神がどうこうは存じ上げませんが、運命なら仕方ないですね。王太子殿下が自ら選んだのであれば、私はそれを阻むつもりはありませんよ」
「ふふ、そう仰っていただけると助かります。……そういえば、最近いろいろと悪い噂が飛び交っていますけれど、ご自分のことを気に病んだりはしていないのですか?」
――悪い噂。
おそらく、シエナが言及しているのは「ヴァレリーが婚約破棄の腹いせに、王太子派を陥れようとしている」などというデマであろう。実際には王太子側から一方的に契約を破棄した事実があるのに、勝手な憶測で噂を広める連中がいるらしい。
ヴァレリーは少し息をついて、涼やかな笑みを浮かべた。
「何か噂があるなら、どうぞご自由に。私には関係のない話です。公爵家の名誉は確固たるものですし、そもそも王太子殿下のほうが私との契約を破棄したわけですから」
「あら……そうですわね。確かに“契約”という意味では、そうなのかもしれません」
まるで揚げ足を取るような言い方に、周囲の令嬢たちは一層居心地の悪そうな表情になる。明らかにこれはヴァレリーを挑発している。
しかし、ヴァレリーはまったく動じない。むしろ、冷たい微笑を湛えたまま、相手の口数を増やすほうが得策だと悟っていた。
「それより、あなたと殿下が今晩、何か“特別なこと”を披露すると聞いていますが?」
「あら、そうなんです。実は……皆さんの前で、ほんの少しだけ奇跡の儀式をお見せしようかと考えております。わたくし、神の啓示を受けておりますので……」
シエナはそう言って、周囲に聞こえるようわざとらしく声を張る。その場にいた令嬢たちが興味深そうに振り返るが、どこか冷めた視線も混じっている。
奇跡の儀式――とは言っても、いままでシエナが行ってきた“奇跡”とやらは、どれもこれも胡散臭いものばかりだ。以前、王宮の広場で“聖水”を配った際には、単なる水道水だったとバレて騒ぎになったと聞くし、病人を治したという話も具体的な証拠は出ていない。
にもかかわらず、王太子エドワードは彼女に心酔しており、反対する者には「愛を理解できない」と罵る有様らしい。
ヴァレリーは心の中で呆れつつも、淡々と応じる。
「そう。では私も楽しみにしておりますね。どうか皆様に神の恵みをお授けくださいますように」
「はい……。必ずや奇跡をお見せしますわ。……うふふ」
シエナは気味の悪い笑みを浮かべて、そそくさと部屋を出て行った。どうやら、王太子エドワードのもとに向かうらしい。
彼女が去ったあと、残された令嬢たちが一斉に安堵の息をつく。
「リチャードソン令嬢、さすがのご対応ですね……。私たち、あの聖女様の前ではどうにも気まずくて……」
「ええ、少しでも不用意な言葉を口にすれば、噂を広められるかもしれませんし。あの人、王太子殿下が全力で庇っていますから……」
皆、畏怖と嫌悪が入り混じったような表情を見せる。
ヴァレリーは軽く首を振り、静かに言う。
「お気になさらず。私も婚約破棄直後に同じ部屋にいるのは気まずいですし……。晩餐会が始まれば、いずれ嫌でも顔を合わせることになるでしょう。それまではごゆっくりなさってくださいね」
そう伝え、ヴァレリーもまた一旦部屋を辞した。彼女は誰かと無為に会話するよりも、自分なりに気持ちを落ち着けておきたかった。
この晩餐会、何かが起こる――そんな予感がする。シエナの“奇跡の儀式”が一体どんな内容なのかは不明だが、王太子が横で応援している以上、ろくでもないパフォーマンスに終わる可能性が高い。
――そこに、聖女シエナがいるのだ。
いつも通り、純白のドレスを身にまとい、髪には花の髪飾りをあしらっている。表面上は慈愛に満ちた笑顔を浮かべているが、その瞳にはどこか挑発的な光が混じっている。
「あら、リチャードソン令嬢。ご機嫌いかがですか?」
シエナはわざわざ立ち上がり、ヴァレリーの方へ近づいてくる。その動作はさも優雅に見せようとしているのかもしれないが、微妙に洗練されておらず、かえって不自然な印象を与える。
周囲の令嬢たちも気づいているのか、苦笑いを浮かべたり微妙に視線を逸らしたりしている。
「ええ、特に変わりはありません。シエナ様こそ、王太子殿下と幸せにお過ごしのようですね」
ヴァレリーが当たり障りのない言葉を返すと、シエナはわざとらしく頬を染めてうつむいた。
「はい……。エドワード様とは、毎日が夢のようです。彼は私にとって運命の方。リチャードソン令嬢には申し訳ないのですけれど、やはり神のご意思には逆らえないというか……」
それを聞いた令嬢たちが顔を見合わせる。明らかに嫌味である。しかしヴァレリーは表情ひとつ変えない。
「まあ、神がどうこうは存じ上げませんが、運命なら仕方ないですね。王太子殿下が自ら選んだのであれば、私はそれを阻むつもりはありませんよ」
「ふふ、そう仰っていただけると助かります。……そういえば、最近いろいろと悪い噂が飛び交っていますけれど、ご自分のことを気に病んだりはしていないのですか?」
――悪い噂。
おそらく、シエナが言及しているのは「ヴァレリーが婚約破棄の腹いせに、王太子派を陥れようとしている」などというデマであろう。実際には王太子側から一方的に契約を破棄した事実があるのに、勝手な憶測で噂を広める連中がいるらしい。
ヴァレリーは少し息をついて、涼やかな笑みを浮かべた。
「何か噂があるなら、どうぞご自由に。私には関係のない話です。公爵家の名誉は確固たるものですし、そもそも王太子殿下のほうが私との契約を破棄したわけですから」
「あら……そうですわね。確かに“契約”という意味では、そうなのかもしれません」
まるで揚げ足を取るような言い方に、周囲の令嬢たちは一層居心地の悪そうな表情になる。明らかにこれはヴァレリーを挑発している。
しかし、ヴァレリーはまったく動じない。むしろ、冷たい微笑を湛えたまま、相手の口数を増やすほうが得策だと悟っていた。
「それより、あなたと殿下が今晩、何か“特別なこと”を披露すると聞いていますが?」
「あら、そうなんです。実は……皆さんの前で、ほんの少しだけ奇跡の儀式をお見せしようかと考えております。わたくし、神の啓示を受けておりますので……」
シエナはそう言って、周囲に聞こえるようわざとらしく声を張る。その場にいた令嬢たちが興味深そうに振り返るが、どこか冷めた視線も混じっている。
奇跡の儀式――とは言っても、いままでシエナが行ってきた“奇跡”とやらは、どれもこれも胡散臭いものばかりだ。以前、王宮の広場で“聖水”を配った際には、単なる水道水だったとバレて騒ぎになったと聞くし、病人を治したという話も具体的な証拠は出ていない。
にもかかわらず、王太子エドワードは彼女に心酔しており、反対する者には「愛を理解できない」と罵る有様らしい。
ヴァレリーは心の中で呆れつつも、淡々と応じる。
「そう。では私も楽しみにしておりますね。どうか皆様に神の恵みをお授けくださいますように」
「はい……。必ずや奇跡をお見せしますわ。……うふふ」
シエナは気味の悪い笑みを浮かべて、そそくさと部屋を出て行った。どうやら、王太子エドワードのもとに向かうらしい。
彼女が去ったあと、残された令嬢たちが一斉に安堵の息をつく。
「リチャードソン令嬢、さすがのご対応ですね……。私たち、あの聖女様の前ではどうにも気まずくて……」
「ええ、少しでも不用意な言葉を口にすれば、噂を広められるかもしれませんし。あの人、王太子殿下が全力で庇っていますから……」
皆、畏怖と嫌悪が入り混じったような表情を見せる。
ヴァレリーは軽く首を振り、静かに言う。
「お気になさらず。私も婚約破棄直後に同じ部屋にいるのは気まずいですし……。晩餐会が始まれば、いずれ嫌でも顔を合わせることになるでしょう。それまではごゆっくりなさってくださいね」
そう伝え、ヴァレリーもまた一旦部屋を辞した。彼女は誰かと無為に会話するよりも、自分なりに気持ちを落ち着けておきたかった。
この晩餐会、何かが起こる――そんな予感がする。シエナの“奇跡の儀式”が一体どんな内容なのかは不明だが、王太子が横で応援している以上、ろくでもないパフォーマンスに終わる可能性が高い。
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