20 / 23
第四章:偽りの聖女、そして真実の結婚
4-3
しおりを挟む
晩餐会から数日が経過しても、王都ラクリスの空気は落ち着く気配を見せなかった。
むしろ、日を追うごとに不穏さが増している。
街の各所では「次こそ聖女シエナが奇跡を見せるらしい」という噂が流れ、王太子派の人間たちがそれを裏付けるかのように声高に喧伝していた。
だが、その一方で、冷静な者たちは確実に違和感を覚え始めている。
――なぜ、これほど焦っているのか。
リチャードソン公爵家の応接室で、ヴァレリーは集められた報告書に目を通していた。
向かいにはカイル・ヴァレンタインが座り、静かに状況を整理している。
「王都の宿屋が、ここ数日で妙に混み合っています。
しかも、顔ぶれが不自然だ。商人でも職人でもない。
身なりは揃っているのに、素性をはぐらかす連中ばかりだ」
「……巡礼者、というには統制が取れすぎていますね」
ヴァレリーの指摘に、カイルは頷く。
「ええ。しかも彼らは、皆シエナの“儀式”の話をしている。
『聖女を支えるために集まった』とね」
その言葉に、ヴァレリーは小さく息を吐いた。
「やはり、次の一手を打つつもりなのですね。
晩餐会で信用を失った以上、派手な“見せ場”を用意するしかない……」
それは奇跡の証明という名の、最後の賭けだ。
カイルは机の上に地図を広げ、王都中央広場を指し示す。
「第二王子殿下のもとにも情報が入っています。
王太子派は、ここで大規模な公開儀式を行うつもりです。
民衆を大量に集め、癒やしと祝福を与える――という触れ込みで」
「……大胆ですね」
ヴァレリーはそう言いながらも、表情を曇らせた。
「ですが、それは同時に危険でもあります。
もし、何か一つでも破綻すれば……」
「暴動、混乱、あるいは――」
カイルは言葉を切り、静かに続ける。
「意図的な事故、です」
二人の視線が交わる。
どちらも、同じ結論に辿り着いていた。
――これは、ただの宗教詐欺では終わらない。
その日の夜、ヴァレリーとカイルは第二王子のもとを訪れていた。
公的な場ではない、小規模な密談だ。
「状況は理解した」
第二王子は、静かな声でそう言った。
「兄は、もう後戻りできないところまで来ている。
そしてシエナも……恐らく、本当に危険な力に手を出している」
彼は一度言葉を切り、ヴァレリーを見つめる。
「君が感じている違和感は正しい。
今回の儀式は、奇跡の証明ではない。
主導権を奪うための舞台だ」
「では……止めるべきだと?」
「いや」
第二王子は首を振った。
「止めるのではなく、暴く。
民衆の前で、決定的に」
その言葉に、カイルの目が鋭くなる。
「証拠は揃えます。
仕掛け、取り巻き、資金の流れ――すべて」
「頼む」
第二王子は深く頷いた。
「もし、ここで真実を明らかにできなければ、
この国は“偽り”を信じたまま、分断されるだろう」
密談を終え、公爵家へ戻る馬車の中。
ヴァレリーは窓の外を眺めながら、静かに呟いた。
「……いよいよですね」
「ええ。
次で決着がつく」
カイルはそう言い、彼女に視線を向ける。
「怖いですか?」
ヴァレリーは一瞬考え、首を横に振った。
「いいえ。
不思議と、迷いはありません」
それは復讐心でも、怒りでもない。
ただ――
間違ったものを、間違っていると示す責任。
「もし、あの場で真実が明らかになれば……
王太子殿下は、もう逃げ場を失います」
「そして、あなたは完全に“正しかった”と証明される」
カイルの言葉に、ヴァレリーは小さく微笑んだ。
「評価のために動いているわけではありません。
ただ……私は、自分を切り捨てた人間が、
国まで切り捨てるのを、見過ごせないだけです」
その静かな言葉に、カイルは深く息を吐いた。
「……やはり、あなたは強い」
こうして、
偽りの聖女を暴くための準備は、すべて整った。
あとは――
王都中央広場で、真実が白日の下に晒されるのを待つだけだった。
むしろ、日を追うごとに不穏さが増している。
街の各所では「次こそ聖女シエナが奇跡を見せるらしい」という噂が流れ、王太子派の人間たちがそれを裏付けるかのように声高に喧伝していた。
だが、その一方で、冷静な者たちは確実に違和感を覚え始めている。
――なぜ、これほど焦っているのか。
リチャードソン公爵家の応接室で、ヴァレリーは集められた報告書に目を通していた。
向かいにはカイル・ヴァレンタインが座り、静かに状況を整理している。
「王都の宿屋が、ここ数日で妙に混み合っています。
しかも、顔ぶれが不自然だ。商人でも職人でもない。
身なりは揃っているのに、素性をはぐらかす連中ばかりだ」
「……巡礼者、というには統制が取れすぎていますね」
ヴァレリーの指摘に、カイルは頷く。
「ええ。しかも彼らは、皆シエナの“儀式”の話をしている。
『聖女を支えるために集まった』とね」
その言葉に、ヴァレリーは小さく息を吐いた。
「やはり、次の一手を打つつもりなのですね。
晩餐会で信用を失った以上、派手な“見せ場”を用意するしかない……」
それは奇跡の証明という名の、最後の賭けだ。
カイルは机の上に地図を広げ、王都中央広場を指し示す。
「第二王子殿下のもとにも情報が入っています。
王太子派は、ここで大規模な公開儀式を行うつもりです。
民衆を大量に集め、癒やしと祝福を与える――という触れ込みで」
「……大胆ですね」
ヴァレリーはそう言いながらも、表情を曇らせた。
「ですが、それは同時に危険でもあります。
もし、何か一つでも破綻すれば……」
「暴動、混乱、あるいは――」
カイルは言葉を切り、静かに続ける。
「意図的な事故、です」
二人の視線が交わる。
どちらも、同じ結論に辿り着いていた。
――これは、ただの宗教詐欺では終わらない。
その日の夜、ヴァレリーとカイルは第二王子のもとを訪れていた。
公的な場ではない、小規模な密談だ。
「状況は理解した」
第二王子は、静かな声でそう言った。
「兄は、もう後戻りできないところまで来ている。
そしてシエナも……恐らく、本当に危険な力に手を出している」
彼は一度言葉を切り、ヴァレリーを見つめる。
「君が感じている違和感は正しい。
今回の儀式は、奇跡の証明ではない。
主導権を奪うための舞台だ」
「では……止めるべきだと?」
「いや」
第二王子は首を振った。
「止めるのではなく、暴く。
民衆の前で、決定的に」
その言葉に、カイルの目が鋭くなる。
「証拠は揃えます。
仕掛け、取り巻き、資金の流れ――すべて」
「頼む」
第二王子は深く頷いた。
「もし、ここで真実を明らかにできなければ、
この国は“偽り”を信じたまま、分断されるだろう」
密談を終え、公爵家へ戻る馬車の中。
ヴァレリーは窓の外を眺めながら、静かに呟いた。
「……いよいよですね」
「ええ。
次で決着がつく」
カイルはそう言い、彼女に視線を向ける。
「怖いですか?」
ヴァレリーは一瞬考え、首を横に振った。
「いいえ。
不思議と、迷いはありません」
それは復讐心でも、怒りでもない。
ただ――
間違ったものを、間違っていると示す責任。
「もし、あの場で真実が明らかになれば……
王太子殿下は、もう逃げ場を失います」
「そして、あなたは完全に“正しかった”と証明される」
カイルの言葉に、ヴァレリーは小さく微笑んだ。
「評価のために動いているわけではありません。
ただ……私は、自分を切り捨てた人間が、
国まで切り捨てるのを、見過ごせないだけです」
その静かな言葉に、カイルは深く息を吐いた。
「……やはり、あなたは強い」
こうして、
偽りの聖女を暴くための準備は、すべて整った。
あとは――
王都中央広場で、真実が白日の下に晒されるのを待つだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢アリスは他に想う人のいる相手と結婚した。
政略結婚ではあったものの、家族から愛されず、愛に飢えていた彼女は生まれて初めて優しくしてくれる夫をすぐに好きになった。
しかし、結婚してから三年。
夫の初恋の相手である王女殿下が国に帰って来ることになり、アリスは愛する夫から離婚を告げられてしまう。
絶望の中でアリスの前に現れたのはとある人物で……!?
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる