冷たい婚約破棄?では契約結婚いたしましょう

鍛高譚

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第四章:偽りの聖女、そして真実の結婚

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 晩餐会から数日が経過しても、王都ラクリスの空気は落ち着く気配を見せなかった。
 むしろ、日を追うごとに不穏さが増している。

 街の各所では「次こそ聖女シエナが奇跡を見せるらしい」という噂が流れ、王太子派の人間たちがそれを裏付けるかのように声高に喧伝していた。
 だが、その一方で、冷静な者たちは確実に違和感を覚え始めている。

 ――なぜ、これほど焦っているのか。

 リチャードソン公爵家の応接室で、ヴァレリーは集められた報告書に目を通していた。
 向かいにはカイル・ヴァレンタインが座り、静かに状況を整理している。

「王都の宿屋が、ここ数日で妙に混み合っています。
 しかも、顔ぶれが不自然だ。商人でも職人でもない。
 身なりは揃っているのに、素性をはぐらかす連中ばかりだ」

「……巡礼者、というには統制が取れすぎていますね」

 ヴァレリーの指摘に、カイルは頷く。

「ええ。しかも彼らは、皆シエナの“儀式”の話をしている。
 『聖女を支えるために集まった』とね」

 その言葉に、ヴァレリーは小さく息を吐いた。

「やはり、次の一手を打つつもりなのですね。
 晩餐会で信用を失った以上、派手な“見せ場”を用意するしかない……」

 それは奇跡の証明という名の、最後の賭けだ。

 カイルは机の上に地図を広げ、王都中央広場を指し示す。

「第二王子殿下のもとにも情報が入っています。
 王太子派は、ここで大規模な公開儀式を行うつもりです。
 民衆を大量に集め、癒やしと祝福を与える――という触れ込みで」

「……大胆ですね」

 ヴァレリーはそう言いながらも、表情を曇らせた。

「ですが、それは同時に危険でもあります。
 もし、何か一つでも破綻すれば……」

「暴動、混乱、あるいは――」

 カイルは言葉を切り、静かに続ける。

「意図的な事故、です」

 二人の視線が交わる。
 どちらも、同じ結論に辿り着いていた。

 ――これは、ただの宗教詐欺では終わらない。

 その日の夜、ヴァレリーとカイルは第二王子のもとを訪れていた。
 公的な場ではない、小規模な密談だ。

「状況は理解した」

 第二王子は、静かな声でそう言った。

「兄は、もう後戻りできないところまで来ている。
 そしてシエナも……恐らく、本当に危険な力に手を出している」

 彼は一度言葉を切り、ヴァレリーを見つめる。

「君が感じている違和感は正しい。
 今回の儀式は、奇跡の証明ではない。
 主導権を奪うための舞台だ」

「では……止めるべきだと?」

「いや」

 第二王子は首を振った。

「止めるのではなく、暴く。
 民衆の前で、決定的に」

 その言葉に、カイルの目が鋭くなる。

「証拠は揃えます。
 仕掛け、取り巻き、資金の流れ――すべて」

「頼む」

 第二王子は深く頷いた。

「もし、ここで真実を明らかにできなければ、
 この国は“偽り”を信じたまま、分断されるだろう」

 密談を終え、公爵家へ戻る馬車の中。
 ヴァレリーは窓の外を眺めながら、静かに呟いた。

「……いよいよですね」

「ええ。
 次で決着がつく」

 カイルはそう言い、彼女に視線を向ける。

「怖いですか?」

 ヴァレリーは一瞬考え、首を横に振った。

「いいえ。
 不思議と、迷いはありません」

 それは復讐心でも、怒りでもない。
 ただ――

 間違ったものを、間違っていると示す責任。

「もし、あの場で真実が明らかになれば……
 王太子殿下は、もう逃げ場を失います」

「そして、あなたは完全に“正しかった”と証明される」

 カイルの言葉に、ヴァレリーは小さく微笑んだ。

「評価のために動いているわけではありません。
 ただ……私は、自分を切り捨てた人間が、
 国まで切り捨てるのを、見過ごせないだけです」

 その静かな言葉に、カイルは深く息を吐いた。

「……やはり、あなたは強い」

 こうして、
 偽りの聖女を暴くための準備は、すべて整った。

 あとは――
 王都中央広場で、真実が白日の下に晒されるのを待つだけだった。
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