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第1章:突然の婚約破棄
5話
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王城に着くと、大広間にはすでに多くの貴族や王族が集まっていました。わたしは辺りを見回し、こんなに大勢が集まっているなんて、まるで式典かなにかがあるかのようだと感じました。そして、その中心には、エドワード殿下が立っていたのです。しかし、殿下の隣には、初めて見る女性がいました。金色の髪と透き通った碧眼をもつ、美しく華やかな雰囲気の女性です。噂話の中で名前を聞いたことがある――レイラという、平民出身の女性でした。
「どうして殿下の隣に、あの女性が……?」
わたしが混乱していると、殿下はわたしに目を向けることなく、集まった貴族たちを見回しました。そして、低くはっきりとした声で、こう告げたのです。
「皆の前で言うことになるが、ルシアとの婚約は、今ここで破棄することにした。」
――婚約破棄。
その言葉が耳に届いた瞬間、わたしは頭が真っ白になりました。周囲の貴族たちがいっせいにざわめくのが聞こえましたが、そのざわめきが遠く感じられます。婚約破棄などという言葉、わたしは生まれてこのかた聞いたことがありませんでした。それを、まさか王太子殿下が、こんな大勢の前で口にするなんて……。
わたしは必死に震えを抑えながら、殿下を見つめました。殿下は平然とした表情で、わたしの方に視線を戻します。そして、まるで用意していた台本を読み上げるかのように言葉を継ぎました。
「理由は単純だ。僕はレイラを愛している。彼女は優しくて純粋で、僕が求める理想の女性なんだ。ルシアとの婚約は、王家の都合で一方的に決められたことだったからね。悪いが、君のように頑なで冷たい印象のある女性は、僕には合わないと思ったんだよ。」
殿下の言葉に、大広間はさらに大きくざわつきました。周りの貴族たちはわたしに同情する者もいれば、面白がっている者もいるようでした。なかには、レイラ嬢に興味津々といった様子で、「平民出身と聞くが、どうやって王太子の心を射止めたのだろう」などと囁き合う者もいました。
わたしはというと、ただ唇をかみしめ、震えをこらえるのが精一杯でした。悔しい、悲しい、腹立たしい――いろいろな感情が胸の中で渦を巻きます。でも、ここで感情をあらわにしてしまえば、伯爵家の名誉に傷がつくかもしれない。父と母がどんなに驚き、悲しむことか。それを思うと、わたしは泣き出すことも、怒鳴ることもできませんでした。
「殿下、お言葉ですが……」
なんとか言葉を紡ごうとしましたが、殿下はわたしの声に耳を貸す気もないかのように顔をそむけ、隣のレイラ嬢の手を取って見せました。レイラ嬢は申し訳なさそうな表情を作っていましたが、その目はどこか勝ち誇ったように見えます。わたしと視線がぶつかると、まるで挑発するような笑みを浮かべた気がしました。
もはや、これ以上言葉を重ねても無意味だと悟ったわたしは、深く息をつきました。頭の中は混乱したままですが、ここで取り乱すのはわたしらしくありません。何年もかけて身につけてきた貴族としての礼儀を、こんな場所で捨て去るわけにはいかないのです。
「……承知いたしました。では、婚約破棄をお受けいたします。」
わたしはそう言って、ぎこちなく一礼をしました。誰かが息をのむのが聞こえます。きっと、わたしが泣き叫んだり、王太子にすがったりする姿を期待していた人も多かったのでしょう。けれど、わたしはあくまで伯爵令嬢としての誇りを捨てないように振る舞うことを選びました。
「どうして殿下の隣に、あの女性が……?」
わたしが混乱していると、殿下はわたしに目を向けることなく、集まった貴族たちを見回しました。そして、低くはっきりとした声で、こう告げたのです。
「皆の前で言うことになるが、ルシアとの婚約は、今ここで破棄することにした。」
――婚約破棄。
その言葉が耳に届いた瞬間、わたしは頭が真っ白になりました。周囲の貴族たちがいっせいにざわめくのが聞こえましたが、そのざわめきが遠く感じられます。婚約破棄などという言葉、わたしは生まれてこのかた聞いたことがありませんでした。それを、まさか王太子殿下が、こんな大勢の前で口にするなんて……。
わたしは必死に震えを抑えながら、殿下を見つめました。殿下は平然とした表情で、わたしの方に視線を戻します。そして、まるで用意していた台本を読み上げるかのように言葉を継ぎました。
「理由は単純だ。僕はレイラを愛している。彼女は優しくて純粋で、僕が求める理想の女性なんだ。ルシアとの婚約は、王家の都合で一方的に決められたことだったからね。悪いが、君のように頑なで冷たい印象のある女性は、僕には合わないと思ったんだよ。」
殿下の言葉に、大広間はさらに大きくざわつきました。周りの貴族たちはわたしに同情する者もいれば、面白がっている者もいるようでした。なかには、レイラ嬢に興味津々といった様子で、「平民出身と聞くが、どうやって王太子の心を射止めたのだろう」などと囁き合う者もいました。
わたしはというと、ただ唇をかみしめ、震えをこらえるのが精一杯でした。悔しい、悲しい、腹立たしい――いろいろな感情が胸の中で渦を巻きます。でも、ここで感情をあらわにしてしまえば、伯爵家の名誉に傷がつくかもしれない。父と母がどんなに驚き、悲しむことか。それを思うと、わたしは泣き出すことも、怒鳴ることもできませんでした。
「殿下、お言葉ですが……」
なんとか言葉を紡ごうとしましたが、殿下はわたしの声に耳を貸す気もないかのように顔をそむけ、隣のレイラ嬢の手を取って見せました。レイラ嬢は申し訳なさそうな表情を作っていましたが、その目はどこか勝ち誇ったように見えます。わたしと視線がぶつかると、まるで挑発するような笑みを浮かべた気がしました。
もはや、これ以上言葉を重ねても無意味だと悟ったわたしは、深く息をつきました。頭の中は混乱したままですが、ここで取り乱すのはわたしらしくありません。何年もかけて身につけてきた貴族としての礼儀を、こんな場所で捨て去るわけにはいかないのです。
「……承知いたしました。では、婚約破棄をお受けいたします。」
わたしはそう言って、ぎこちなく一礼をしました。誰かが息をのむのが聞こえます。きっと、わたしが泣き叫んだり、王太子にすがったりする姿を期待していた人も多かったのでしょう。けれど、わたしはあくまで伯爵令嬢としての誇りを捨てないように振る舞うことを選びました。
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