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12話
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ブラック公爵家、焦りの色
王都の街に、またひとつ新たな噂が駆け巡っていた。
――「ブラック公爵家が、あちこちの商会に融資を打診しているらしい」
――「財政難を隠しきれず、ついに金策に走っているらしい」
もともと名門と謳われてきたブラック家が、ここまであからさまな資金繰りに奔走しているのは異例の事態だ。
だが、その影にははっきりとした理由がある。
ブラック公爵家の嫡男・カフェが「真実の愛」に浮かれて、パステル商会のクレオへ強引な求婚を仕掛けた――そして、きっぱり拒絶された。
その一件で商人たちは「ブラック家はパステル商会を利用しようとした」と感づき始めている。ここで迂闊にブラック家に関わって、パステル商会との取引を失うのは得策ではない。
結果として、ブラック家は融資をどこへ頼んでも妙に足元を見られ、条件は悪くなる一方。あるいは、最初から門前払いされることさえあった。
「いったいどうなっているのだ! 我がブラック家がこんな扱いを受けるとは……」
豪奢な調度品が並ぶブラック家の応接室で、当主であるブラック公爵――つまりカフェの父親が、苛立ちを隠さずに机を叩いた。
その前には、少し居心地悪そうに立っているカフェの姿がある。以前の余裕など微塵もなく、肩を縮こまらせている。
「……父上、その……パステル商会との話がうまくいっていれば、こんなことには……」
「お前が『真実の愛』とか馬鹿げたことを言い出すからだろうが! 何を考えているのだ、まったく!」
怒声が部屋に響く。
ブラック公爵家は、かつて領地の豊かな資源と伝統ある家系で高い地位を保っていた。しかし時代が移り変わるにつれ、経営のやり方を更新できず、徐々に財政が逼迫していたのだ。
そこへ目をつけたのが、名門を取り繕うための“金づる”としてのパステル商会との婚姻話。もともとはもっと穏やかな段取りで、正式な縁談を水面下で進める予定だった。
だが、カフェが勝手に「一目惚れ」と称して突っ走り、さらにすでに婚約していたブレンディ公爵令嬢(ココア)との破談を先に公表したことで、事態はめちゃくちゃになってしまったのである。
「……とにかく、お前が責任を取るのだ。クレオ嬢にもう一度会って、何とか納得してもらえ!」
「そ、それは以前に試みましたが……完全に拒否されてしまって。むしろ怒りを買ったというか……」
「ならば手を替え品を替え、方法はいくらでもあるだろう! たとえば……彼女を上流の社交界へ招待するとか、周りから固めていくとか……」
ブラック公爵は矢継ぎ早に指示を出すが、そのどれもが今さら感のある策ばかり。商人であるクレオは社交界に興味などないし、むしろその“周りを固める”やり方こそ彼女が嫌う押し付けの手法だ。
カフェもそれは分かっているが、父親の剣幕に押され、何も言い返せない。
「……分かりました。もう一度、クレオ嬢に手紙を出してみます……」
「そうしろ。もし話がまとまらなければ、今度は当主として私が直接出向くことになる。そのときは……分かっているな?」
最後の一言には脅しめいた響きがあった。カフェはただ深く頭を垂れ、部屋を出ていくしかない。
――こうしてブラック公爵家は、さらに迷走を深めていく。
その姿は、名門の威光をかなぐり捨て、資金を求める守銭奴のようにも見えた。
王都の街に、またひとつ新たな噂が駆け巡っていた。
――「ブラック公爵家が、あちこちの商会に融資を打診しているらしい」
――「財政難を隠しきれず、ついに金策に走っているらしい」
もともと名門と謳われてきたブラック家が、ここまであからさまな資金繰りに奔走しているのは異例の事態だ。
だが、その影にははっきりとした理由がある。
ブラック公爵家の嫡男・カフェが「真実の愛」に浮かれて、パステル商会のクレオへ強引な求婚を仕掛けた――そして、きっぱり拒絶された。
その一件で商人たちは「ブラック家はパステル商会を利用しようとした」と感づき始めている。ここで迂闊にブラック家に関わって、パステル商会との取引を失うのは得策ではない。
結果として、ブラック家は融資をどこへ頼んでも妙に足元を見られ、条件は悪くなる一方。あるいは、最初から門前払いされることさえあった。
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その前には、少し居心地悪そうに立っているカフェの姿がある。以前の余裕など微塵もなく、肩を縮こまらせている。
「……父上、その……パステル商会との話がうまくいっていれば、こんなことには……」
「お前が『真実の愛』とか馬鹿げたことを言い出すからだろうが! 何を考えているのだ、まったく!」
怒声が部屋に響く。
ブラック公爵家は、かつて領地の豊かな資源と伝統ある家系で高い地位を保っていた。しかし時代が移り変わるにつれ、経営のやり方を更新できず、徐々に財政が逼迫していたのだ。
そこへ目をつけたのが、名門を取り繕うための“金づる”としてのパステル商会との婚姻話。もともとはもっと穏やかな段取りで、正式な縁談を水面下で進める予定だった。
だが、カフェが勝手に「一目惚れ」と称して突っ走り、さらにすでに婚約していたブレンディ公爵令嬢(ココア)との破談を先に公表したことで、事態はめちゃくちゃになってしまったのである。
「……とにかく、お前が責任を取るのだ。クレオ嬢にもう一度会って、何とか納得してもらえ!」
「そ、それは以前に試みましたが……完全に拒否されてしまって。むしろ怒りを買ったというか……」
「ならば手を替え品を替え、方法はいくらでもあるだろう! たとえば……彼女を上流の社交界へ招待するとか、周りから固めていくとか……」
ブラック公爵は矢継ぎ早に指示を出すが、そのどれもが今さら感のある策ばかり。商人であるクレオは社交界に興味などないし、むしろその“周りを固める”やり方こそ彼女が嫌う押し付けの手法だ。
カフェもそれは分かっているが、父親の剣幕に押され、何も言い返せない。
「……分かりました。もう一度、クレオ嬢に手紙を出してみます……」
「そうしろ。もし話がまとまらなければ、今度は当主として私が直接出向くことになる。そのときは……分かっているな?」
最後の一言には脅しめいた響きがあった。カフェはただ深く頭を垂れ、部屋を出ていくしかない。
――こうしてブラック公爵家は、さらに迷走を深めていく。
その姿は、名門の威光をかなぐり捨て、資金を求める守銭奴のようにも見えた。
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