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13話
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商会間の連携
一方、パステル商会は順調に業務を拡大していた。
先日の「ブラック家の求婚拒否」以来、パステル商会の評判はむしろ上がっている。多くの商人や貴族が「パステル商会はブレない」「筋を通している」と評価し、新たな取引依頼が舞い込むようになっていた。
だが、その影響で忙しさは増し、一筋縄ではいかない案件もちらほら出てくる。そんな中、クレオは新たな“協力者”を得ていた。
「クレオさん、こちらの領地特産品の取り扱いについて、具体的に案が固まったわ。あなたの商会ルートで流通させれば、かなり面白いビジネスになりそう」
そう言ってにこやかに資料を広げているのは、ブレンディ公爵令嬢――ココアだ。
ココアが持参したのは、ブレンディ領で取れる上質なハーブや植物由来の香料についての試作品。今までは貴族趣味の一環として、ごく限られた範囲でやり取りされていたが、ココアはこれを本格的に商業ベースに乗せたいと考えている。
クレオはその試作品を手に取り、香りを確かめながら感心したように頷く。
「なるほど。この香料、花の香りとハーブの爽やかさが両立していて、かなり高級感がありますね。これなら貴族にも一般層にも訴求力があるかもしれません」
「でしょ? ただ、今までうちの領地では、加工技術や輸送ルートが弱くて大規模展開ができなかったの」
「そこをパステル商会で支援するわけですね。加工場との提携、それから輸送経路の確保……あとは広報も必要でしょう」
「ええ。それに、クレオさんのところには既存の販路があるはずだから、そこに乗せてもらえれば試験的に市場を作れる。まずは王都から始めて、需要の伸びを確認しながら徐々に地方都市にも販路を広げるのがいいと思ってるの」
二人は、まるで長年来のビジネスパートナーのように意気投合していた。
クレオには商売のノウハウがあるし、ココアにはブレンディ家の名と領地の産物がある。利害も方向性もピタリと合っている以上、このタッグが成功しないはずがない。
そして、彼女たちはもはや“ただの友達”という関係を超え、互いの才能を認め合う“盟友”になりつつあった。
「それにしても、ココア様って本当に貴族なの? 私の知る貴族とはずいぶん違う印象ですが」
クレオが微笑ましげに問いかけると、ココアは苦笑いを浮かべる。
「そうね。私もあんまり“貴族らしさ”が得意じゃないの。昔から、領地をちゃんと経営したいとか、社交界の仮面舞踏会みたいな駆け引きは面倒とか、そんなことばかり考えてた」
「そこがいいんですよ。“貴族だから偉い”という態度じゃなくて、『一緒にやりましょう』と言ってくれるから、商人としても話しやすい」
「私もあなたみたいに、ビジネスの可能性を信じられる人がいてうれしいわ。――そういえば、クレオさんはブラック家からの融資依頼、どうするの?」
最後の一言に、クレオは少しばかり眉をひそめた。
「今のところ、条件がまったく折り合わないので、保留です。そもそも、あのやり方で無理に押し込まれた経緯がある以上、私としても積極的に関わりたいとは思わないですね」
「……だよね。結局、あの家は“家柄”を振りかざして自分たちの都合を押し付けるしか知らないのかもしれない」
「ええ。しかも、平民を舐めている節がある。本当に真摯な交渉をしたいなら、あんな乱暴なやり方はしないはずです。――ま、あちらが態度を改めるなら別ですが、望み薄でしょう」
二人は顔を見合わせ、苦笑する。
そこに、クレオの秘書がやって来て小声で耳打ちした。「ブラック家の執事が、また面会を求めている」と。
クレオは呆れたように息をつき、顔をしかめる。
「はあ……また来たんですね。どうせ『改めて婚約を』とか言い出すんでしょうけど」
「会うの?」
「さすがに、もう会う価値はない気がします。ただ、ここで追い返すだけでは退屈ですし……ココア様、どうします? わざわざ話を聞く必要もないと思うんですが」
すると、ココアは扇子を閉じる仕草でニヤリと笑みを浮かべた。
「うーん……そうね、追い払うだけじゃ面白くないわ。ちょっと“教育”してあげるのもいいかもしれない。平民がどうとか偉そうに言ってたのがどれだけ間違いだったか、思い知らせる方法があるでしょ?」
「ふふ。さすが、ココア様。私もまったく同感です。――では、一度応接室へ通しますが、別室で少しだけ待たせてから対応しましょう。適当に焦らしておけば、あちらも自尊心が傷つくでしょうし」
「いいわね。それで、私も同席していいかしら? “元婚約者”として顔を出したら、どんな反応をするかしら」
「歓迎します。あちらの思惑通りにならないよう、しっかり牽制しましょう」
二人は目を合わせ、くすくすと笑った。
こうして、ブラック家の使者は思わぬ“返り討ち”に遭う運命を刻一刻と迎えていた。
一方、パステル商会は順調に業務を拡大していた。
先日の「ブラック家の求婚拒否」以来、パステル商会の評判はむしろ上がっている。多くの商人や貴族が「パステル商会はブレない」「筋を通している」と評価し、新たな取引依頼が舞い込むようになっていた。
だが、その影響で忙しさは増し、一筋縄ではいかない案件もちらほら出てくる。そんな中、クレオは新たな“協力者”を得ていた。
「クレオさん、こちらの領地特産品の取り扱いについて、具体的に案が固まったわ。あなたの商会ルートで流通させれば、かなり面白いビジネスになりそう」
そう言ってにこやかに資料を広げているのは、ブレンディ公爵令嬢――ココアだ。
ココアが持参したのは、ブレンディ領で取れる上質なハーブや植物由来の香料についての試作品。今までは貴族趣味の一環として、ごく限られた範囲でやり取りされていたが、ココアはこれを本格的に商業ベースに乗せたいと考えている。
クレオはその試作品を手に取り、香りを確かめながら感心したように頷く。
「なるほど。この香料、花の香りとハーブの爽やかさが両立していて、かなり高級感がありますね。これなら貴族にも一般層にも訴求力があるかもしれません」
「でしょ? ただ、今までうちの領地では、加工技術や輸送ルートが弱くて大規模展開ができなかったの」
「そこをパステル商会で支援するわけですね。加工場との提携、それから輸送経路の確保……あとは広報も必要でしょう」
「ええ。それに、クレオさんのところには既存の販路があるはずだから、そこに乗せてもらえれば試験的に市場を作れる。まずは王都から始めて、需要の伸びを確認しながら徐々に地方都市にも販路を広げるのがいいと思ってるの」
二人は、まるで長年来のビジネスパートナーのように意気投合していた。
クレオには商売のノウハウがあるし、ココアにはブレンディ家の名と領地の産物がある。利害も方向性もピタリと合っている以上、このタッグが成功しないはずがない。
そして、彼女たちはもはや“ただの友達”という関係を超え、互いの才能を認め合う“盟友”になりつつあった。
「それにしても、ココア様って本当に貴族なの? 私の知る貴族とはずいぶん違う印象ですが」
クレオが微笑ましげに問いかけると、ココアは苦笑いを浮かべる。
「そうね。私もあんまり“貴族らしさ”が得意じゃないの。昔から、領地をちゃんと経営したいとか、社交界の仮面舞踏会みたいな駆け引きは面倒とか、そんなことばかり考えてた」
「そこがいいんですよ。“貴族だから偉い”という態度じゃなくて、『一緒にやりましょう』と言ってくれるから、商人としても話しやすい」
「私もあなたみたいに、ビジネスの可能性を信じられる人がいてうれしいわ。――そういえば、クレオさんはブラック家からの融資依頼、どうするの?」
最後の一言に、クレオは少しばかり眉をひそめた。
「今のところ、条件がまったく折り合わないので、保留です。そもそも、あのやり方で無理に押し込まれた経緯がある以上、私としても積極的に関わりたいとは思わないですね」
「……だよね。結局、あの家は“家柄”を振りかざして自分たちの都合を押し付けるしか知らないのかもしれない」
「ええ。しかも、平民を舐めている節がある。本当に真摯な交渉をしたいなら、あんな乱暴なやり方はしないはずです。――ま、あちらが態度を改めるなら別ですが、望み薄でしょう」
二人は顔を見合わせ、苦笑する。
そこに、クレオの秘書がやって来て小声で耳打ちした。「ブラック家の執事が、また面会を求めている」と。
クレオは呆れたように息をつき、顔をしかめる。
「はあ……また来たんですね。どうせ『改めて婚約を』とか言い出すんでしょうけど」
「会うの?」
「さすがに、もう会う価値はない気がします。ただ、ここで追い返すだけでは退屈ですし……ココア様、どうします? わざわざ話を聞く必要もないと思うんですが」
すると、ココアは扇子を閉じる仕草でニヤリと笑みを浮かべた。
「うーん……そうね、追い払うだけじゃ面白くないわ。ちょっと“教育”してあげるのもいいかもしれない。平民がどうとか偉そうに言ってたのがどれだけ間違いだったか、思い知らせる方法があるでしょ?」
「ふふ。さすが、ココア様。私もまったく同感です。――では、一度応接室へ通しますが、別室で少しだけ待たせてから対応しましょう。適当に焦らしておけば、あちらも自尊心が傷つくでしょうし」
「いいわね。それで、私も同席していいかしら? “元婚約者”として顔を出したら、どんな反応をするかしら」
「歓迎します。あちらの思惑通りにならないよう、しっかり牽制しましょう」
二人は目を合わせ、くすくすと笑った。
こうして、ブラック家の使者は思わぬ“返り討ち”に遭う運命を刻一刻と迎えていた。
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