婚約破棄したあなたが処刑台に立つ頃、私は帝国将官に求婚されていました』

鍛高譚

文字の大きさ
24 / 33

25話

しおりを挟む
闇の終わり、そして光へ

 アリオンとガーレン将軍は、そのまま帝国の管理下で身柄を拘束され、軍による裁判を待つ身となる。王国の反乱分子ではなく、自国の利益を優先した末に帝国からも見放された形――何とも皮肉な結末だった。
 レイナーは父や夫と行動を共にしていたが、軍施設へ連行される際、コーラルの姿を見て憎々しげに叫んだ。

「……あなたのせいで、アリオン様はこんな目に遭っているのよ! なぜ! なぜ、あなたばかりが幸運に恵まれるの!」

 コーラルは答えない。ただ、その瞳はどこか悲しみを宿したまま、目の前を連れ去られていく人々の背中を見つめていた。アリオンがほんの少しだけ振り返ったようにも見えたが、その表情は絶望と後悔に染まっていた。

(もし、あのとき婚約を破棄せず、二人で支え合っていたら……)

 そんな想像をしても、もはや意味がない。あの日、アリオンが彼女の手を振りほどいた時点で、運命は変わり始めていたのだろう。
 帝国軍がこれから王国をどう扱うかはまだ未知数だが、少なくともコーラルの目の前に横たわる腐敗の闇は、一つの決着を見たと言える。
 やがて、ハウザーがコーラルに歩み寄り、その肩にそっと手を置く。

「貴女が背負わなくてもいい重荷だ。……これから、王国は帝国の保護下で再建を図ることになる。どうか、これまで通り人々を支えてあげてほしい。私もできる限り手を貸すつもりだ」

 その言葉は、コーラルに安堵と不安を同時にもたらす。帝国の保護下――それは、言い換えれば王国の主権を奪われることでもある。だが、ハウザーが言うように、いずれにせよ王国には自力で再起するほどの余力は残されていない。少なくとも、当面は帝国の助力に頼るしかないのだ。
 コーラルはゆっくりと頷き、ハウザーの手を見つめる。かつて敵国の将官と名乗ったときは恐れと警戒しか感じなかったが、今は違う。彼の手には、冷酷な支配ではなく、優しさと守る意志が感じられる。

(私と同じように、彼も苦しんでいる。帝国という大きな組織の中で、どうにか正しい道を探そうとしている。ならば……)

 もしかすると、この人となら、国や立場を越えて歩むことができるのではないか――そんな淡い希望がコーラルの胸に芽生える。
 こうして、再び勃発した戦争は王国の完敗という形で幕を閉じ、帝国の支配が始まろうとしていた。アリオンたちの行く末は、帝国の軍法会議次第。彼らが積み重ねた罪と裏切りの果てに、どのような結末が待ち受けるのかは明らかだ。
 そしてコーラルは、廃墟となりかけた王都で必死に人々を支えながら、ハウザーとともに新たな再建への道を探っていくことになる。そこには、ほんの小さな光が差し込んでいた。
 心を抉るような戦乱の爪痕と、敗北の痛み。けれど、その中で芽生えた絆と希望が、コーラルの胸を確かに温めている。今はまだ形をはっきりとは言葉にできないけれど、それはかつての偽りの愛よりも、ずっと力強いものに思えた。

 ――そんな予感とともに、王都の長い夜が明けていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約破棄された令嬢は、もう誰の答えも借りません

鷹 綾
恋愛
 「君との婚約は破棄する。――君は、もう必要ない」 王太子から一方的に突きつけられた婚約破棄。 その理由は、新たに寵愛する令嬢の存在と、「君は優秀すぎて扱いづらい」という身勝手な評価だった。 だが、公爵令嬢である彼女は泣かない。 怒りに任せて復讐もしない。 ただ静かに、こう告げる。 「承知しました。――もう、誰の答えも借りませんわ」 王国のために尽くし、判断を肩代わりし、失敗すら引き受けてきた日々。 だが婚約破棄を機に、彼女は“助けること”をやめる。 答えを与えない。 手を差し伸べない。 代わりに、考える機会と責任だけを返す。 戸惑い、転び、失敗しながらも、王国は少しずつ変わっていく。 依存をやめ、比較をやめ、他人の成功を羨まなくなったとき―― そこに生まれたのは、静かで確かな自立だった。 派手な断罪も、劇的な復讐もない。 けれどこれは、 「奪われたものを取り戻す物語」ではなく、 「もう取り戻す必要がなくなった物語」。 婚約破棄ざまぁの、その先へ。 知性と覚悟で未来を選び取る、静かな逆転譚。

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?

柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。  婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。  そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――  ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

処理中です...