悪女に仕立てたのはあなたでしょう?〜婚約破棄は歓迎ですわ、後悔なさいませ〜

鍛高譚

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第2章:揺れ動く王都と、隣国の誘い

9話

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それぞれの思惑、そして再会の火花

 こうして、王太子とリリアを加えた「異様な茶会」は続いた。とはいえ、アルベルトも場の手前、むやみに乱そうとはしない。リリアとともに席につき、レオニスや近くの貴族たちと形式的な会話を交わしている。

 私もなるべく目立たないよう、端のほうで紅茶を飲んでいたが、どうしてもアルベルトの存在が気になってしまう。先ほどから、彼は私を盗み見るような仕草を繰り返しているのだ。リリアもまた、私の様子をうかがっているのがわかる。――まるで、私が「何らかの行動」を取ることを期待しているかのようにも見えた。

(何が目的……? 私に謝罪を求めるでも、妃に戻れと言うでもない。なのに、わざわざここへ来て……)

 考えを巡らせていると、ふいに大きな物音が聞こえた。どうやら、客の一人が誤ってテーブルを倒しかけたらしい。慌てた使用人が片付けに走る。私も少し手伝おうかと腰を浮かせたその瞬間、アルベルトの声が響いた。

「……貴様は、いつまでそこに座っているつもりだ? セイラ・フォン・アークライト」

 見れば、彼は私に向かって鋭い視線を注いでいる。その金色の瞳に宿るのは、苛立ちとも怒りともつかぬ感情。私はそっと息をのみ、反射的に答えた。

「特に何か問題でも? 殿下が私に用がないのであれば、このままおとなしくしていますわ」

「…………」

 一瞬、アルベルトは言葉を失ったように口をつぐむ。すると、リリアが悲しそうな声で割って入った。

「アルベルト様、あまりセイラ様を責めないでくださいまし。きっと、セイラ様にもお考えがあるのですわ……。私たちがそれを理解しようとしなければ、いつまで経っても誤解は解けません……」

 まるで聖母のようなその口ぶりに、周囲の貴族たちは感心したように頷く。だが私は、その裏に潜む意図を感じずにはいられない。――「リリアは何も悪くない、むしろ私を理解しようとしてくれている」という姿を作り上げることで、あくまで私が孤立するように仕向けているのではないだろうか。

 案の定、アルベルトはリリアの手を取って大げさに溜め息をついた。

「そうだな……。だが、私には理解しがたい。貴様は悪女だと判明したはずなのに、こうして隣国の王子の茶会にのこのこ現れて……恥という概念はないのか?」

 それを言われて黙っているほど、私もお人形ではない。いくら周囲の空気があるとはいえ、これ以上言われっぱなしでは場の居たたまれなさが増すだけだ。

「殿下、いまだに具体的な証拠をお示しいただいておりませんが? 私は悪事を働いた覚えなどございません。それでも殿下が私を断罪なさるなら、その根拠を今ここで説明していただきたいわ」

 ピンと張り詰めた空気が広間を包む。茶会に来ていた客たちは息を飲んで様子を見守っている。レオニスは一見クールな顔を保っているが、その瞳には静かな警戒心が宿っているようだった。

 一方、アルベルトは余裕げだった表情を一変させ、悔しげに唇を噛む。すぐに反論する言葉を見つけられないらしい。リリアもまた、あの悲しげな顔を崩さぬまま、そっとアルベルトの腕に触れて促すように微笑んでいた。

「アルベルト様、今はそのような……ここはレオニス王子殿下の場ですし、あまり追及なさると……」

 その姿はあたかも「貴方が怒りを抑えられないなら、私が止めて差し上げる」という慈悲深い恋人といったところか。しかし、私から見れば、彼女は巧みにアルベルトの怒りを煽っているようにも見える。

(このまま黙っていたら、私だけが損をするような気がするわね……)

 そう感じた矢先、レオニスがゆっくりと席を立った。

「お二人とも、少し落ち着いてはどうかな。あまり声を荒らげると、他の客にも迷惑というものだろう。……アルベルト殿下、私がここを借りて茶会を開いているのは外交の一環でもある。そちらの内輪もめを公衆の面前で披露されるのは困るのだが」

 その言い方には淡々とした調子があるが、明らかに「これ以上茶会を混乱させるな」との警告が含まれていた。アルベルトはそれに苛立つように眉をひそめたが、さすがに隣国の王子に直接喧嘩を売るわけにもいかないのだろう。

「……ふん、そうだな。ここで喧嘩をしては礼を欠く。私もリリアも、もともと挨拶だけのつもりで来たのだ。……少し長居をしすぎたな」

 そう言うと、アルベルトはリリアの手を取り、唐突に踵を返した。リリアもそれに合わせて軽く頭を下げる。

「……失礼いたします。皆さま、楽しいひとときを妨げてしまい、申し訳ありませんでした。セイラ様も、どうかご無理はなさらないでくださいましね……」

 私に向けられる、その上品な笑顔を、どう受け取ればいいのか。私には底知れぬ寒気を覚えさせるものだった。結局、アルベルトもリリアも私への断罪を改めて主張することはなく、そのまま茶会を後にする。――だが、それは今後の嵐を予感させる静寂でしかなかった。
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