悪女に仕立てたのはあなたでしょう?〜婚約破棄は歓迎ですわ、後悔なさいませ〜

鍛高譚

文字の大きさ
10 / 26
第2章:揺れ動く王都と、隣国の誘い

10話

しおりを挟む
離れゆく王太子と、近づく隣国の存在

 アルベルトとリリアが出て行ったあと、茶会の空気はどうにも重苦しかったが、レオニスが巧みに会話をリードすることで、ほどなくして明るさを取り戻した。さすがは隣国の王子で、こういう場の雰囲気作りにも長けているらしい。

 私も少し気を取り直して、周囲の客たちと談笑を続けた。先ほどまでの一触即発が嘘のように、辺りに優美な音楽が流れ、甘い菓子の香りが漂う。けれど、私の頭の中には先ほどのアルベルトとリリアの姿が焼きついていた。

「……いったい、あの人たちは何を考えているのかしら」

 思わず呟いたその声は、小さくかき消える。後悔や、あるいは動揺――そんなものが胸の中を渦巻いていた。私は彼らの策略の正体を掴めていないし、具体的にどう動けばいいのかも判断がつかない。それでも一つだけ確かなことは、アルベルトとリリアの関係はもはや揺るぎないということだ。彼女は王太子の心をしっかり掴んでいるし、アルベルトも私を悪女と呼ぶことをやめてはいない。

(……いいわ。私に“悪女”のレッテルを貼りたいなら、勝手にそうすればいい。けれど、私は絶対に屈しない)

 自分の中にわずかだが、強い決意の火が灯るのを感じる。そもそも、私は彼らから自由になるために、婚約破棄を受け入れたのだ。それを今さら覆すつもりもないし、ましてや逃げるつもりもない。

 すると、そんな私の心を見透かしたのか、レオニスがふと近づいてきて、静かな声で話しかけた。

「大丈夫か? 先ほどは少し強引に制止したが、不本意ならすまなかった。あの場で争いが起きると、いろいろ面倒だと思ったものでね」

「いえ、殿下のお気遣いはありがたかったです。もしあそこで喧嘩をしていたら、王太子と隣国の王子という立場から、外交問題にまで発展しかねませんし……。私も望むところではありません」

 レオニスは微かに微笑み、私の言葉を聞いて小さく頷く。

「そうか。……ところで、先ほどの様子を見ていて改めて思ったが、君はやはり“悪女”とは程遠い女性だな。王太子も必死に君を断罪しようとしていたが、どうも無理があるようにしか見えん。むしろ、あの聖女とやらのほうが、妙に思えるほどの落ち着きぶりだった」

 リリアへの違和感。それは私も同じだ。彼女はどこか、すべてを見越したような言動をとっている。王太子の怒りを宥める振りをしているが、実際には煽っているようにも見える――そんな確信めいた思いが私の胸を掠める。

「私も、あの方の意図はよく分かりません。……ただ、殿下が仰るとおり、私は“悪女”ではありません。ですから、今後もそう見なされるのは心外ですが、まあ……こればかりはどうしようもないですね」

「いや、どうしようもなくはない。もし君が望むなら、私はいつでも君を迎え入れる。……以前にも言った通り、君の才能や生き方は、我が国でも大いに役立つと確信しているからな」

 そう言って、レオニスはまっすぐに私を見つめる。まるで「いつでも手を差し伸べる用意がある」と言わんばかりに。その瞳の奥には、確かな意思が感じられた。私は心臓が高鳴るのを抑えられない。

「隣国で、私を……王子妃として迎えたいのですか?」

「それは今すぐの話ではない。けれど、私はこの国での様子を見れば見るほど、君があまりに報われていないように思えるのだ。君自身がどうしたいか――それを最優先にしてもらいたいが、もし君が居場所を求めるなら、私の国へ来るのも選択肢のひとつとして考えてほしい。私は君の“自由”を奪うつもりはない。むしろ、君の力を伸ばし、新たな人生を切り開く手伝いをしたい」

 静かながら揺るぎない決意がこもった口調に、胸が熱くなる。私がずっと求めていたもの――それは、誰かに決められた結婚ではなく、自分で選び取る“未来”だ。レオニスの言葉は、それを実現できるかもしれないという希望を感じさせる。

「……ありがとうございます。殿下のお気持ちは、しっかり胸に留めておきます。今すぐお返事はできませんが、私も自分がどう生きたいのか、もう少し考えてみますわ」

「ふふ、待っているよ。君が答えを出すその時まで、私はしばらくこの国に滞在するつもりだから」

 そう言ってレオニスは笑う。その笑顔はどこか涼やかで、私の心に少しだけ光を差し込んでくれたような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

天然と言えば何でも許されると思っていませんか

今川幸乃
恋愛
ソフィアの婚約者、アルバートはクラスの天然女子セラフィナのことばかり気にしている。 アルバートはいつも転んだセラフィナを助けたり宿題を忘れたら見せてあげたりとセラフィナのために行動していた。 ソフィアがそれとなくやめて欲しいと言っても、「困っているクラスメイトを助けるのは当然だ」と言って聞かず、挙句「そんなことを言うなんてがっかりだ」などと言い出す。 あまり言い過ぎると自分が悪女のようになってしまうと思ったソフィアはずっともやもやを抱えていたが、同じくクラスメイトのマクシミリアンという男子が相談に乗ってくれる。 そんな時、ソフィアはたまたまセラフィナの天然が擬態であることを発見してしまい、マクシミリアンとともにそれを指摘するが……

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

処理中です...