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第2章:揺れ動く王都と、隣国の誘い
10話
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離れゆく王太子と、近づく隣国の存在
アルベルトとリリアが出て行ったあと、茶会の空気はどうにも重苦しかったが、レオニスが巧みに会話をリードすることで、ほどなくして明るさを取り戻した。さすがは隣国の王子で、こういう場の雰囲気作りにも長けているらしい。
私も少し気を取り直して、周囲の客たちと談笑を続けた。先ほどまでの一触即発が嘘のように、辺りに優美な音楽が流れ、甘い菓子の香りが漂う。けれど、私の頭の中には先ほどのアルベルトとリリアの姿が焼きついていた。
「……いったい、あの人たちは何を考えているのかしら」
思わず呟いたその声は、小さくかき消える。後悔や、あるいは動揺――そんなものが胸の中を渦巻いていた。私は彼らの策略の正体を掴めていないし、具体的にどう動けばいいのかも判断がつかない。それでも一つだけ確かなことは、アルベルトとリリアの関係はもはや揺るぎないということだ。彼女は王太子の心をしっかり掴んでいるし、アルベルトも私を悪女と呼ぶことをやめてはいない。
(……いいわ。私に“悪女”のレッテルを貼りたいなら、勝手にそうすればいい。けれど、私は絶対に屈しない)
自分の中にわずかだが、強い決意の火が灯るのを感じる。そもそも、私は彼らから自由になるために、婚約破棄を受け入れたのだ。それを今さら覆すつもりもないし、ましてや逃げるつもりもない。
すると、そんな私の心を見透かしたのか、レオニスがふと近づいてきて、静かな声で話しかけた。
「大丈夫か? 先ほどは少し強引に制止したが、不本意ならすまなかった。あの場で争いが起きると、いろいろ面倒だと思ったものでね」
「いえ、殿下のお気遣いはありがたかったです。もしあそこで喧嘩をしていたら、王太子と隣国の王子という立場から、外交問題にまで発展しかねませんし……。私も望むところではありません」
レオニスは微かに微笑み、私の言葉を聞いて小さく頷く。
「そうか。……ところで、先ほどの様子を見ていて改めて思ったが、君はやはり“悪女”とは程遠い女性だな。王太子も必死に君を断罪しようとしていたが、どうも無理があるようにしか見えん。むしろ、あの聖女とやらのほうが、妙に思えるほどの落ち着きぶりだった」
リリアへの違和感。それは私も同じだ。彼女はどこか、すべてを見越したような言動をとっている。王太子の怒りを宥める振りをしているが、実際には煽っているようにも見える――そんな確信めいた思いが私の胸を掠める。
「私も、あの方の意図はよく分かりません。……ただ、殿下が仰るとおり、私は“悪女”ではありません。ですから、今後もそう見なされるのは心外ですが、まあ……こればかりはどうしようもないですね」
「いや、どうしようもなくはない。もし君が望むなら、私はいつでも君を迎え入れる。……以前にも言った通り、君の才能や生き方は、我が国でも大いに役立つと確信しているからな」
そう言って、レオニスはまっすぐに私を見つめる。まるで「いつでも手を差し伸べる用意がある」と言わんばかりに。その瞳の奥には、確かな意思が感じられた。私は心臓が高鳴るのを抑えられない。
「隣国で、私を……王子妃として迎えたいのですか?」
「それは今すぐの話ではない。けれど、私はこの国での様子を見れば見るほど、君があまりに報われていないように思えるのだ。君自身がどうしたいか――それを最優先にしてもらいたいが、もし君が居場所を求めるなら、私の国へ来るのも選択肢のひとつとして考えてほしい。私は君の“自由”を奪うつもりはない。むしろ、君の力を伸ばし、新たな人生を切り開く手伝いをしたい」
静かながら揺るぎない決意がこもった口調に、胸が熱くなる。私がずっと求めていたもの――それは、誰かに決められた結婚ではなく、自分で選び取る“未来”だ。レオニスの言葉は、それを実現できるかもしれないという希望を感じさせる。
「……ありがとうございます。殿下のお気持ちは、しっかり胸に留めておきます。今すぐお返事はできませんが、私も自分がどう生きたいのか、もう少し考えてみますわ」
「ふふ、待っているよ。君が答えを出すその時まで、私はしばらくこの国に滞在するつもりだから」
そう言ってレオニスは笑う。その笑顔はどこか涼やかで、私の心に少しだけ光を差し込んでくれたような気がした。
アルベルトとリリアが出て行ったあと、茶会の空気はどうにも重苦しかったが、レオニスが巧みに会話をリードすることで、ほどなくして明るさを取り戻した。さすがは隣国の王子で、こういう場の雰囲気作りにも長けているらしい。
私も少し気を取り直して、周囲の客たちと談笑を続けた。先ほどまでの一触即発が嘘のように、辺りに優美な音楽が流れ、甘い菓子の香りが漂う。けれど、私の頭の中には先ほどのアルベルトとリリアの姿が焼きついていた。
「……いったい、あの人たちは何を考えているのかしら」
思わず呟いたその声は、小さくかき消える。後悔や、あるいは動揺――そんなものが胸の中を渦巻いていた。私は彼らの策略の正体を掴めていないし、具体的にどう動けばいいのかも判断がつかない。それでも一つだけ確かなことは、アルベルトとリリアの関係はもはや揺るぎないということだ。彼女は王太子の心をしっかり掴んでいるし、アルベルトも私を悪女と呼ぶことをやめてはいない。
(……いいわ。私に“悪女”のレッテルを貼りたいなら、勝手にそうすればいい。けれど、私は絶対に屈しない)
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すると、そんな私の心を見透かしたのか、レオニスがふと近づいてきて、静かな声で話しかけた。
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「いえ、殿下のお気遣いはありがたかったです。もしあそこで喧嘩をしていたら、王太子と隣国の王子という立場から、外交問題にまで発展しかねませんし……。私も望むところではありません」
レオニスは微かに微笑み、私の言葉を聞いて小さく頷く。
「そうか。……ところで、先ほどの様子を見ていて改めて思ったが、君はやはり“悪女”とは程遠い女性だな。王太子も必死に君を断罪しようとしていたが、どうも無理があるようにしか見えん。むしろ、あの聖女とやらのほうが、妙に思えるほどの落ち着きぶりだった」
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「私も、あの方の意図はよく分かりません。……ただ、殿下が仰るとおり、私は“悪女”ではありません。ですから、今後もそう見なされるのは心外ですが、まあ……こればかりはどうしようもないですね」
「いや、どうしようもなくはない。もし君が望むなら、私はいつでも君を迎え入れる。……以前にも言った通り、君の才能や生き方は、我が国でも大いに役立つと確信しているからな」
そう言って、レオニスはまっすぐに私を見つめる。まるで「いつでも手を差し伸べる用意がある」と言わんばかりに。その瞳の奥には、確かな意思が感じられた。私は心臓が高鳴るのを抑えられない。
「隣国で、私を……王子妃として迎えたいのですか?」
「それは今すぐの話ではない。けれど、私はこの国での様子を見れば見るほど、君があまりに報われていないように思えるのだ。君自身がどうしたいか――それを最優先にしてもらいたいが、もし君が居場所を求めるなら、私の国へ来るのも選択肢のひとつとして考えてほしい。私は君の“自由”を奪うつもりはない。むしろ、君の力を伸ばし、新たな人生を切り開く手伝いをしたい」
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