偽聖女と断罪された私、帝国で真の力に目覚めました  ――王国はもう、救いません

鍛高譚

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第2章:出会いと覚醒――真なる力を知る時

18話

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 ある日の夕暮れ。
 あたりは赤く染まり、日の入りが近い。二人は小さな村に辿り着き、その村で今夜を過ごそうと考えていた。村の入り口に立つ木製の柵の門をくぐると、子どもたちの声が聞こえ、焚き火の煙が立ち上る家々が見える。
 しかし、どこか空気が重い。村人たちの顔には疲れが滲み、どこか殺伐とした雰囲気すらあった。
「……どうしたのかしら。みんな辛そうな顔をしているわ」
「本当ですね。病気でも流行っているんでしょうか……?」

 そう思った矢先、村の広場と思しき場所に人が集まっているのが見えた。何やら大きな馬車が一台止まっていて、その周囲にずらりと武装した男たちが立っている。
「おい、明日はもっと税を納めてもらうぞ。王国の命令でな」
「そんな……これ以上どうやって払えってんだよ……!」
「黙れ。払えなきゃ、お前らの畑や家畜を没収するまでだ」

 どうやら徴税官らしき者たちが、村人を脅しているようだ。その姿は粗野で、まるでならず者の集団に見える。
 アストリッドは唇を噛む。――ここは辺境だ。王国の役人がきちんと見回るよりも、悪辣な地元の権力者や自警団が大手を振っている可能性もある。
 しかし、聞こえてきた言葉には“王国の命令”というフレーズが混じっていた。つまり、これは正式な徴税かもしれない。
「くっ……王都を追い出された私だけど、こういうのは見ていられないわね」
「お嬢様、どうされるんです? 下手に口を出すと、今度は私たちが敵視されるかも……」

 クラリッサの警告も尤もだ。だが、アストリッドはどうにも放っておけない。彼女はかつて“聖女”として多くの民衆を救ってきたからこそ、虐げられる人々の姿に黙っていられないのだ。
 もっとも――今の自分にどこまでのことができるだろうか。大した力は出せないし、ましてや王国の権力に楯突くのはリスクが大きい。
 それでも……。

「少し、話を聞きましょう。状況によっては助けられるかもしれないし」
「わ、わかりました……」

 二人は村人たちが集まる広場へ近づく。すると、案の定、武装した徴税官の一人がこちらに目を向けて、「何だ、お前たちは?」と威圧的な態度をとってきた。
 村の古老と思われる年配の男性が「この二人は旅人だ。関係ないじゃろ」と取りなそうとするが、徴税官は鼻で笑う。
「ふん、いいや。関係ないとは言わせねえ。お前らもここを通るなら、通行税を払ってもらおうか。今は辺境警備のために増税中だ。旅人だろうが構わねえ」

 周囲の村人がざわざわとする。こんな悪質なやり方がまかり通るのか――確かに辺境では、自称“徴税官”が非道を働くこともあると聞く。
 アストリッドは冷えた目でその男を見つめる。
「通行税? ここはまだ王国の管轄かもしれないけれど、こんな村一つ通るだけで大金を取るなんて、正規の徴税ではあり得ないわ」
「ほう、口の利き方がわからん嬢ちゃんだな。だったら、王城へ直接文句を言いに行ったらどうだ? ……ま、その足が折れてなけりゃあの世まで歩けるならな」

 男の卑劣な視線がアストリッドを舐め回す。明らかに相手を威嚇して、言い分を通そうという魂胆だ。
 一方、村人たちは青ざめた顔で「やめておけ……」と言いたげに声を殺す。彼らはこの武装集団を恐れている。
「いいわ。通行税ね。いくらなの?」
 アストリッドはあえて毅然とした態度で尋ねる。男はニヤリと笑い、アストリッドの身なりをじろじろ見る。
「そうだな……一人銀貨十枚ってとこか」
 それは田舎の宿屋に十泊分はできる大金だ。町や村を通るたびにそんな金を毟り取られていては、すぐに破産するだろう。
 まして、ここで踏み倒そうものなら、命の保証もない。村人がやられているのも、まさにそういう構図だ。

 アストリッドは唇を結び、「なら、証拠となる領収書を書いてもらおうかしら」と返す。
「領収書……? はは、なんだそりゃあ。そんなもんいらねえだろ。俺たちは正式な命令でやってんだぞ」
「正式な命令なら、余計にそういう手続きが必要でしょう?」

 男は途端に不機嫌な顔になり、刀の鞘を掴んで脅す。
「いいか、嬢ちゃん。俺たちはこの辺り一帯の徴税も警備も任されてんだよ。これ以上グダグダ言うなら、その小賢しい口を塞ぐぞ」
 周囲の空気が一気に張り詰め、クラリッサが「お嬢様……!」と震える声を出す。

 ――どうする。
 このまま払ってやり過ごすか? それとも一悶着起こしてでも正当性を主張するか?
 ……どちらにしろ、王国にかかわるならず者に手を出すのは危険だ。が、すでにアストリッドの怒りは抑えがたいところまで来ていた。

 ――今や自分は“偽りの聖女”として追放された存在。こんな連中を恐れて屈しても、得られるものなど何もない。

(だったら、私の力を見せてやるのも手かもしれないわね。たとえほんの少しの奇跡であっても。……いや、下手をすれば事が大きくなるかもしれない。でももう構わない)

 アストリッドは静かに深呼吸する。王都を出てから芽生え始めた、黒い感情。そして少しずつ蘇る奇跡の力。それが今、入り混じって不思議な昂揚感を生んでいた。
 男が刀を抜こうとする。周囲の取り巻きも構える。村人たちは怯え、後ずさる。クラリッサが縋(すが)りつくように「お嬢様、そんな……戦うんですか?」と囁く。
 しかし、アストリッドは凛とした態度で男をまっすぐ見据えた。

「……あなたたちのようなならず者が、王国の名を語るなど笑止の極みね。……ええ、払わないわ。あなたたちは嘘つきよ。今すぐその馬車に乗って消えなさい」

 男は怒りで頬を引き攣らせる。
「上等だ、嬢ちゃん。斬り伏せてやるから覚悟しろ!」

 ――そう言って、振り下ろされる刀。
 アストリッドは瞬時に両手を掲げる。今なら、少しは治癒以外の力を引き出せるかもしれない――そう信じて、思い切り魔力を込める。

「(私の力が本当なら、せめてこの程度……!)」

 すると、彼女の手のひらに再び青白い光が宿る。先日、魔獣を一瞬怯ませたあの光。
 バチンッと火花が散り、男の刀は空中で弾かれるように逸れた。男は「なにぃ!?」と驚愕の声を上げ、よろめく。
 周囲の取り巻きたちも目を丸くし、「魔法使いか……!」とざわつく。

 だが、問題はここからだ。男は怯んだが、こちらもそんなに何度も光を放てるわけではない。いざとなれば、また武器を抜かれたり、複数人に囲まれれば分が悪い。
 ――そこで、アストリッドはすかさず凛とした声で言い放つ。

「これ以上、私に剣を向けるなら――次は命を保証しないわよ。さあ、どうするの?」

 実際、そこまでの力は持っていないかもしれない。けれど、思い切り虚勢を張ることによって、相手に隙を与えないのだ。
 これまでは貴族としての威圧感や聖女としての権威があったからこそ、こんな台詞(せりふ)を吐くことはなかった。だが、追放された今はもう何も失うものがない。
 男たちの中には、アストリッドの一撃にビビっている者もいる。「下手に手を出すとまずいんじゃ」と顔を引きつらせ、互いに視線を交わす。
「くそっ……! おい、もういい。こんな魔法使い相手に傷モノにされるのは割に合わん」
 リーダー格らしき男は苛立ちまぎれに吐き捨て、馬車の方へ引き返す。

「覚えてろよ! その力がどこで通用するか分からねえが……俺たちには王国の後ろ盾があるんだ。どこへ逃げてもただじゃおかねえぞ!」

 捨て台詞を残し、徴税官の一団は馬車に乗り込んで村から出て行く。
 ……村人たちはポカンと口を開けて、遠ざかる馬車を見送っていた。やがて古老の男性が、震える声でアストリッドに近寄る。
「た、助かった……。あんな連中が最近はずっと居座っていて、我々を苦しめていたんです。まさか追い払ってくれる人がいるなんて……本当にありがとう」
「いいえ。こちらも、危ないところだったのは確かです。今後も奴らが戻ってくる恐れはあるでしょう。……私にはどうすることもできません」

 アストリッドは低い声で答える。事実、今回の件はあくまでその場しのぎに過ぎない。連中が本当に王国の命令を受けているなら、王国との繋がりをたどって仕返しを企む可能性もある。
 しかし、村の人々は口々に感謝を述べ、アストリッドを迎え入れた。せめて今夜は泊まっていってほしい、少しでも礼をしたい、と。
 クラリッサは安堵した表情で、「すごいです、お嬢様。やっぱりお嬢様の力は本物です」と囁く。アストリッドは「まだ微弱だけどね」と苦笑いを返す。
 ――それでも、こうして少しでも“自分にしかできないこと”があると感じられれば、心は救われる。
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