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第一章:婚約破棄と新たな婚約者
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ソフィア・エレナは王都の郊外に広大な領地を持つ、グランヴェル伯爵家の令嬢である。生まれながらにして上品な立ち振る舞いを身につけ、控えめながらも凛とした美しさを漂わせる彼女は、どこへ行っても人々の羨望を集める存在だった。
だが、そんなソフィアにも悩みがあった。それは、幼い頃から国王家の王子との婚約が決まっていたこと――そして、その婚約の裏に政治的思惑がうずまいていることだった。
彼女の婚約者であるエドワード王子は、王国の第二王子にあたる。第一王子である兄が病弱で、いつ王位を継承できなくなるか分からない――その可能性を考慮した国王が、急遽エドワードの将来を確固たるものにすべく、最も血筋の良い公爵家や伯爵家から花嫁を選定しようとした。そこに白羽の矢が立ったのが、当時まだ幼かったソフィアだったのである。
幼いソフィアは、「王子様のお嫁さんになる」ことを周りに祝福され、漠然とした憧れとともにその立場を受け入れてきた。けれど、歳を重ねるにつれて感じ始めたのは、王宮の中でも特に権力を握る貴族や王族の男性には、王家の『駒』として従わなくてはならないという窮屈さだった。いまだに父であるグランヴェル伯爵は、国王や王子に媚びへつらうように家門を支えている。その様子を見れば見るほど、ソフィアはこの結婚が何のために用意されたものなのかを考えてしまう。
ソフィアはただ、『愛されるために結婚したい』と願っていた。しかし生まれた家柄と、王国が置かれた複雑な政治情勢。これらを乗り越えて純粋な愛を手にすることが、どれほど難しいか。幼少期は無邪気に王子に憧れていたが、成長するにつれその憧れがどこか歪んだ現実に呑み込まれていくのを、彼女ははっきりと感じ取っていた。
それでもソフィアは、エドワード王子が優しい人間であってほしいと信じていたし、王子が賢く、誰かを思いやれる人物であるならば、それなりに幸せになれるのではないかとも思っていた。――少なくとも、数日前までは。
現在、彼女は奇妙な胸騒ぎに苛まれている。ここ数日でエドワード王子の様子が明らかにおかしかった。
いつもは定期的に贈り物が届くのだが、それがぱったり止んだ。王子の侍従からの連絡も滞り、文通の返事もこない。何かあったのではないか――そう考えるには十分な兆候がいくつもあったが、ソフィアの周囲は「大丈夫、きっとご公務が忙しいのでしょう」と気休めの言葉をかけるばかりだった。
しかし、本能的にソフィアは分かっていた。「これは何かある」と。その予感は的中することになる。
だが、そんなソフィアにも悩みがあった。それは、幼い頃から国王家の王子との婚約が決まっていたこと――そして、その婚約の裏に政治的思惑がうずまいていることだった。
彼女の婚約者であるエドワード王子は、王国の第二王子にあたる。第一王子である兄が病弱で、いつ王位を継承できなくなるか分からない――その可能性を考慮した国王が、急遽エドワードの将来を確固たるものにすべく、最も血筋の良い公爵家や伯爵家から花嫁を選定しようとした。そこに白羽の矢が立ったのが、当時まだ幼かったソフィアだったのである。
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ソフィアはただ、『愛されるために結婚したい』と願っていた。しかし生まれた家柄と、王国が置かれた複雑な政治情勢。これらを乗り越えて純粋な愛を手にすることが、どれほど難しいか。幼少期は無邪気に王子に憧れていたが、成長するにつれその憧れがどこか歪んだ現実に呑み込まれていくのを、彼女ははっきりと感じ取っていた。
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しかし、本能的にソフィアは分かっていた。「これは何かある」と。その予感は的中することになる。
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