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第一章:婚約破棄と新たな婚約者
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ある日の朝、いつになく慌ただしい空気をまとったグランヴェル伯爵が、ソフィアの部屋を訪れた。父は普段の落ち着きを失い、まるで幽霊を見たかのように青ざめた表情をしている。
「……お父さま、どうなさいましたの?」
ソフィアが問いかけると、伯爵は痛ましそうに眉間にしわを寄せながら、娘をまっすぐに見つめた。
「ソフィア……。話があるのだ。実は、先ほど王宮から正式な書簡が届いた。そこには、お前とエドワード王子の……婚約を破棄する、と」
「……! 婚約、破棄……ですか?」
一瞬、意味が理解できなかった。高貴な身分である王子が、一方的に婚約破棄を宣言するなど、あり得ない話だと思っていたからだ。だが、父の顔を見れば、それが現実に起きていることなのだと理解せざるを得ない。
「どうして……どうしてそんなことに?」
「詳しくは書かれていなかった。だが、国王陛下の御印が押されている以上、正式なものであることは間違いない……。おそらく、最近王宮で囁かれている“聖女”に関する話と関係しているのだろう」
「聖女……?」
この国では、定期的に“聖女の伝承”が噂になることがあった。神から選ばれた存在であり、その者が国を救済する力を持つのだという。近年、王都で“新たな聖女”を名乗る令嬢が現れたらしく、王子がそれに熱を上げている――そんな噂話はソフィアの耳にも届いていた。だが、まさかそれが自分の婚約の破棄に関係しているなどとは、思いも寄らなかった。
「そんな馬鹿な……。だって私は……」
「ソフィア、落ち着きなさい。今はまだ混乱しているだろうが、事実を受け止めるしかない。わたしも王宮に掛け合ってはみる。しかし、国王が自ら認めてしまった以上、わが伯爵家がひっくり返せる話ではないかもしれない。なんと無礼で、無責任な……」
伯爵は激昂しかけるが、やがてソフィアを気遣うように静かな声になる。
「お前が傷つく姿を見るのは、親として本当に胸が痛む。すまない……力になれなくて」
ソフィアは、そんな父の言葉すらどこか遠くに聞こえていた。頭の中が真っ白になり、自分が今どこにいるのかすら分からないほどの衝撃。だが、一方で、どこか納得している自分もいる。
(やっぱり……そういうことなのね)
エドワードのあの急な変化、突然の連絡の絶え間。すべてはこの結末を匂わせていたのだ。今更「嘘でした」と言われても、ソフィアは信じられないし、もはや動揺する気力もわいてこない。
ただただ、胸の奥が痛む。これまで「王子の婚約者」として生きてきた自分の存在意義が、根こそぎ否定されたような心地がした。
婚約破棄の知らせを受け取った日から、ソフィアは部屋に閉じこもりがちになった。表面上は平静を装っていても、心の中ではやはり大きな衝撃に打ちひしがれていたのだ。だが、この国の貴族社会は容赦なく、当人の心情などお構いなしに動き続ける。
次に彼女のもとへ舞い込んできたのは、なんと「新たな縁談」の話だった。
「……お父さま、どうなさいましたの?」
ソフィアが問いかけると、伯爵は痛ましそうに眉間にしわを寄せながら、娘をまっすぐに見つめた。
「ソフィア……。話があるのだ。実は、先ほど王宮から正式な書簡が届いた。そこには、お前とエドワード王子の……婚約を破棄する、と」
「……! 婚約、破棄……ですか?」
一瞬、意味が理解できなかった。高貴な身分である王子が、一方的に婚約破棄を宣言するなど、あり得ない話だと思っていたからだ。だが、父の顔を見れば、それが現実に起きていることなのだと理解せざるを得ない。
「どうして……どうしてそんなことに?」
「詳しくは書かれていなかった。だが、国王陛下の御印が押されている以上、正式なものであることは間違いない……。おそらく、最近王宮で囁かれている“聖女”に関する話と関係しているのだろう」
「聖女……?」
この国では、定期的に“聖女の伝承”が噂になることがあった。神から選ばれた存在であり、その者が国を救済する力を持つのだという。近年、王都で“新たな聖女”を名乗る令嬢が現れたらしく、王子がそれに熱を上げている――そんな噂話はソフィアの耳にも届いていた。だが、まさかそれが自分の婚約の破棄に関係しているなどとは、思いも寄らなかった。
「そんな馬鹿な……。だって私は……」
「ソフィア、落ち着きなさい。今はまだ混乱しているだろうが、事実を受け止めるしかない。わたしも王宮に掛け合ってはみる。しかし、国王が自ら認めてしまった以上、わが伯爵家がひっくり返せる話ではないかもしれない。なんと無礼で、無責任な……」
伯爵は激昂しかけるが、やがてソフィアを気遣うように静かな声になる。
「お前が傷つく姿を見るのは、親として本当に胸が痛む。すまない……力になれなくて」
ソフィアは、そんな父の言葉すらどこか遠くに聞こえていた。頭の中が真っ白になり、自分が今どこにいるのかすら分からないほどの衝撃。だが、一方で、どこか納得している自分もいる。
(やっぱり……そういうことなのね)
エドワードのあの急な変化、突然の連絡の絶え間。すべてはこの結末を匂わせていたのだ。今更「嘘でした」と言われても、ソフィアは信じられないし、もはや動揺する気力もわいてこない。
ただただ、胸の奥が痛む。これまで「王子の婚約者」として生きてきた自分の存在意義が、根こそぎ否定されたような心地がした。
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