婚約破棄された伯爵令嬢は、冷酷公爵に一瞬で囲われました

鍛高譚

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第三章:婚約発表の宴と“聖女”リリアナの横顔

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馬車の中、穏やかな会話

 伯爵家を出た馬車は、王都の中心にある王宮へと向かっていく。車輪の音が心地よく響く中、ソフィアは窓から外の景色を眺めながら、隣に座るアレクシスに視線を向けた。
 昨日、わざわざ迎えに来てくれると聞いたときから、ずっと気になっていたことがある。
「公爵様……本日はわたしのために、こうしていただいてありがとうございます。けれど……大丈夫なのでしょうか? 本来なら、別々に入場するのが慣例では……」
 するとアレクシスは静かに首を振る。
「構いません。私の立場であれば、多少の慣例を破っても咎められることは少ない。むしろ、私と一緒に入場したほうが、貴女に変な人が近づきにくくなるでしょう」
「……そう、ですね」
 ソフィアは思わず微笑んでしまう。頼もしい。その言葉には、エドワード王子を筆頭にした“好奇や不穏な思惑”からソフィアを守ろうとする意図が隠れている。
「ありがたいです。実は、やはり少し不安だったんです。王子やリリアナ様にどんな顔をされるか……あるいは、他の貴族の方々から何を言われるか……」
 するとアレクシスは、ふっとソフィアの手を軽く握る。馬車の狭い空間で、彼の体温がじかに伝わってきて、ソフィアの胸が一瞬にして高鳴る。
「ご安心を。今日の宴で貴女がもし嫌な思いをさせられることがあれば、私がすべて遮ります。……決して、貴女を一人にはさせません」
「――」
 短い言葉ながら、その力強い宣言にソフィアは言葉を失う。胸がドクドクと音を立て、頬が熱くなるのを自覚する。
 (ああ……わたし、こんなに頼りになる人がそばにいるなんて、幸せかもしれない)
 一方で、“一時的な優しさ”に浮かれすぎてはいけないという自制も働くが、それでもソフィアはこの安心感を手放したくないと思った。
 やがて馬車は王宮の正門に近づく。すでに多くの貴族たちの馬車が並んでおり、華やかな衣装を纏った男女が続々と宮殿内へ入っていく様子が窓から見て取れる。
 ソフィアの緊張が高まる。アレクシスがその気配を感じ取ったのか、やんわりと彼女の手を離し、柔らかい口調で言う。
「さあ、行きましょう。貴女は胸を張っていればいい。その姿を見せるだけで、周囲は黙るものです」
「……はい、ありがとうございます」
 ソフィアは決意を新たにし、馬車の扉が開けられると同時にアレクシスに手を借りながら外へ降り立った。
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