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第3章:義妹と王太子の破滅
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急展開の結末
マリアンヌが公爵家を訪ねてきた直後、彼女は結局、王宮から“自主的に退出する”形を取ったそうです。実際には、王太子をはじめとする貴族たちから“出ていけ”と追い立てられたも同然だったようですが……。その後彼女はどこへ向かったのか、わたくしは聞かされていません。たぶん、継母の実家を頼るか、遠い地でひっそりと暮らすか――いずれにせよ、王宮や社交界に戻ることはほぼ不可能でしょう。
あれほどわたくしに嫉妬し、傷つけようとした末の結末がこれ。わたくしは何も仕掛けずとも、彼女は勝手に転落していきました。人生とは皮肉なものです。
一方、王太子フィリップも、ついに正式な廃嫡処分が決まりました。表向きは「しばし療養のために王宮を離れる」という発表がなされましたが、実質的には政治の表舞台から退けられることになります。フィリップが次期国王の座に就くことは、もう二度とないでしょう。
その後、国王陛下が代わりに指名したのは、フィリップの叔父にあたる王族でした。わたくしは詳しく存じませんが、政治面で安定した手腕を持つ人物らしく、王太子の地位を無難に継ぎうる器だと言われています。国王が急に決断した背景には、当然ヴァレンティン公爵や他の有力貴族たちの後押しがあったのかもしれません。
こうして、わたくしの義妹マリアンヌと王太子フィリップの“野望”は、いずれもあっけなく崩れ去りました。思えば、わたくしを陥れようとした策略が、回り回って自分たちを破滅させる形になったのですね。
わたくしは――と言えば、ルーアン公爵との婚約発表を目前に控え、順調に準備を進めています。ヴァレンティン公爵からは「これで王宮や貴族社会の動きも落ち着きそうだ」と聞かされました。王太子の座に新たな人物が据えられれば、権力のバランスも変わりますし、彼が狙う“軍部主導の改革”とやらもよりスムーズに進めやすくなるのでしょう。わたくしは政治のことに興味がないので詳しくはわかりませんが、とにかくヴァレンティン公爵にとっても追い風が吹いているのは間違いなさそうです。
何より、公爵である彼はもう王太子(フィリップ)と対立する必要がなくなりました。いわば、勝負はついたも同然。そこにわたくしの存在がどれほど役立ったのかは知りませんが、少なくとも“王太子が捨てた女を拾った”という既成事実は、フィリップの威光を削ぐのに多少なりとも貢献したのではないでしょうか。
そう考えると、わたくしにとって王太子との婚約破棄は、まさに“最高の転機”でした。自由と甘いお菓子を愛するわたくしは、あれからずっと朝寝坊を満喫していますし、社交界に出るときにも「ルーアン公爵の婚約者」として尊重され、余計なしがらみや礼儀作法を厳しく強制されることもありません。
あの頃、王太子妃候補として毎日窮屈な思いをしていたのが嘘のよう。以前は「令嬢としてこうあるべき」などと散々言われていたのに、いまはほとんど口うるさく言われません。ヴァレンティン公爵がその辺りを上手く取り仕切ってくれているのでしょう。
王太子と義妹が破滅し、わたくしには新たな人生が開ける――。こんな展開を、いったい誰が予想していたでしょうか。わたくし自身、王太子と婚約していた頃には想像すらできなかった未来です。
そして、この先もわたくしは“ヴァレンティン・ド・ルーアン公爵の婚約者”として、のんびり悠々自適な日々を送り続ける……はず。
――もっとも、わたくしの心のどこかには、ほんの少しだけ不思議な感覚が芽生え始めてもいました。ヴァレンティン公爵はあくまで「形式的な婚約でいい」と言い張り、わたくしの自由を尊重してくれています。それはありがたいのですが、最近になって、彼が何気なく向けてくる視線に、以前には感じなかった微妙な熱を覚えるときがあるのです。
それが何なのか、わたくしはまだ明確には理解していません。自分が彼に惹かれているなどと断言するには、さすがに早すぎますし、第一、彼はあの無駄のない言動と冷徹な雰囲気をまとっている。そんな彼が甘い感情を抱くなんて、到底想像しがたいことです。
けれど、ふとした拍子に目が合ったとき、彼の黒い瞳の奥に優しいものが見えたような気がする――。実際にそんな瞬間があるのです。もしかすると、彼もまた何かを感じているのかもしれない……。そんな淡い予感が、わたくしの胸を少しだけくすぐるのです。
しかし、それはまた別のお話。今はただ、“王太子と義妹の破滅”という大事件が、わたくしに自由と安寧をもたらしてくれた事実だけが鮮明にあります。
これから先、わたくしが歩む道にどんな驚きが待っているのかはわかりません。でも、ひとまずは心を軽くして美味しいお菓子を堪能する日々を続けるつもり。そう、わたくしは“のんびり楽しく幸せ”を何よりも大切にして生きていくのです。
かくして――王太子フィリップと義妹マリアンヌは、自分たちの悪行の報いを受けて盛大に転落し、二人の思惑は跡形もなく崩れ去りました。
その一方で、わたくしはと言えば、ルーアン公爵との“白い婚約”を背景に、自由を謳歌しながらも、ほんの少しだけ“新たな感情”に揺れ動きつつあるのです。
――そう、ここからはわたくしとヴァレンティン公爵の物語へと移り変わっていくのでしょう。王太子との破談がもたらしたのは、わたくしにとっての災いではなく、むしろ幸運。それを胸に秘めながら、わたくしは今日も大好きな焼き菓子を口にし、優雅な読書を楽しんでいます。
マリアンヌが公爵家を訪ねてきた直後、彼女は結局、王宮から“自主的に退出する”形を取ったそうです。実際には、王太子をはじめとする貴族たちから“出ていけ”と追い立てられたも同然だったようですが……。その後彼女はどこへ向かったのか、わたくしは聞かされていません。たぶん、継母の実家を頼るか、遠い地でひっそりと暮らすか――いずれにせよ、王宮や社交界に戻ることはほぼ不可能でしょう。
あれほどわたくしに嫉妬し、傷つけようとした末の結末がこれ。わたくしは何も仕掛けずとも、彼女は勝手に転落していきました。人生とは皮肉なものです。
一方、王太子フィリップも、ついに正式な廃嫡処分が決まりました。表向きは「しばし療養のために王宮を離れる」という発表がなされましたが、実質的には政治の表舞台から退けられることになります。フィリップが次期国王の座に就くことは、もう二度とないでしょう。
その後、国王陛下が代わりに指名したのは、フィリップの叔父にあたる王族でした。わたくしは詳しく存じませんが、政治面で安定した手腕を持つ人物らしく、王太子の地位を無難に継ぎうる器だと言われています。国王が急に決断した背景には、当然ヴァレンティン公爵や他の有力貴族たちの後押しがあったのかもしれません。
こうして、わたくしの義妹マリアンヌと王太子フィリップの“野望”は、いずれもあっけなく崩れ去りました。思えば、わたくしを陥れようとした策略が、回り回って自分たちを破滅させる形になったのですね。
わたくしは――と言えば、ルーアン公爵との婚約発表を目前に控え、順調に準備を進めています。ヴァレンティン公爵からは「これで王宮や貴族社会の動きも落ち着きそうだ」と聞かされました。王太子の座に新たな人物が据えられれば、権力のバランスも変わりますし、彼が狙う“軍部主導の改革”とやらもよりスムーズに進めやすくなるのでしょう。わたくしは政治のことに興味がないので詳しくはわかりませんが、とにかくヴァレンティン公爵にとっても追い風が吹いているのは間違いなさそうです。
何より、公爵である彼はもう王太子(フィリップ)と対立する必要がなくなりました。いわば、勝負はついたも同然。そこにわたくしの存在がどれほど役立ったのかは知りませんが、少なくとも“王太子が捨てた女を拾った”という既成事実は、フィリップの威光を削ぐのに多少なりとも貢献したのではないでしょうか。
そう考えると、わたくしにとって王太子との婚約破棄は、まさに“最高の転機”でした。自由と甘いお菓子を愛するわたくしは、あれからずっと朝寝坊を満喫していますし、社交界に出るときにも「ルーアン公爵の婚約者」として尊重され、余計なしがらみや礼儀作法を厳しく強制されることもありません。
あの頃、王太子妃候補として毎日窮屈な思いをしていたのが嘘のよう。以前は「令嬢としてこうあるべき」などと散々言われていたのに、いまはほとんど口うるさく言われません。ヴァレンティン公爵がその辺りを上手く取り仕切ってくれているのでしょう。
王太子と義妹が破滅し、わたくしには新たな人生が開ける――。こんな展開を、いったい誰が予想していたでしょうか。わたくし自身、王太子と婚約していた頃には想像すらできなかった未来です。
そして、この先もわたくしは“ヴァレンティン・ド・ルーアン公爵の婚約者”として、のんびり悠々自適な日々を送り続ける……はず。
――もっとも、わたくしの心のどこかには、ほんの少しだけ不思議な感覚が芽生え始めてもいました。ヴァレンティン公爵はあくまで「形式的な婚約でいい」と言い張り、わたくしの自由を尊重してくれています。それはありがたいのですが、最近になって、彼が何気なく向けてくる視線に、以前には感じなかった微妙な熱を覚えるときがあるのです。
それが何なのか、わたくしはまだ明確には理解していません。自分が彼に惹かれているなどと断言するには、さすがに早すぎますし、第一、彼はあの無駄のない言動と冷徹な雰囲気をまとっている。そんな彼が甘い感情を抱くなんて、到底想像しがたいことです。
けれど、ふとした拍子に目が合ったとき、彼の黒い瞳の奥に優しいものが見えたような気がする――。実際にそんな瞬間があるのです。もしかすると、彼もまた何かを感じているのかもしれない……。そんな淡い予感が、わたくしの胸を少しだけくすぐるのです。
しかし、それはまた別のお話。今はただ、“王太子と義妹の破滅”という大事件が、わたくしに自由と安寧をもたらしてくれた事実だけが鮮明にあります。
これから先、わたくしが歩む道にどんな驚きが待っているのかはわかりません。でも、ひとまずは心を軽くして美味しいお菓子を堪能する日々を続けるつもり。そう、わたくしは“のんびり楽しく幸せ”を何よりも大切にして生きていくのです。
かくして――王太子フィリップと義妹マリアンヌは、自分たちの悪行の報いを受けて盛大に転落し、二人の思惑は跡形もなく崩れ去りました。
その一方で、わたくしはと言えば、ルーアン公爵との“白い婚約”を背景に、自由を謳歌しながらも、ほんの少しだけ“新たな感情”に揺れ動きつつあるのです。
――そう、ここからはわたくしとヴァレンティン公爵の物語へと移り変わっていくのでしょう。王太子との破談がもたらしたのは、わたくしにとっての災いではなく、むしろ幸運。それを胸に秘めながら、わたくしは今日も大好きな焼き菓子を口にし、優雅な読書を楽しんでいます。
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