「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

鍛高譚

文字の大きさ
16 / 26
第3章:動き出す野望と過去との対峙

3-5

しおりを挟む
新たな軋轢とマイラの苦悩

そんな折、マイラは週に数回のペースで王都の商会や工房を訪れ、ルシアン・ベルナールと取引計画を詰めていた。
ベルナール商会との連携により、グランシェル領で新しく採取・生産する特産品や加工品を、近隣諸国や大都市へ売り出す準備が整いつつある。特に、以前まで休眠状態だった小規模鉱山を再稼働させる計画や、山間部の木材を活かした建材・家具製造の拡大など、やるべきことは山ほどある。
「マイラ様、今日の打ち合わせでは、隣国の商人ギルドとの協力体制について確認したいと思います。こちらでお渡しする資金のうち、どの程度を初期投資に回すのか、その振り分けを決めておく必要があるんです」
ベルナール商会の応接室で、ルシアンは書類を見せながら穏やかな口調で説明する。マイラは熱心にメモを取り、「分かりました。領地からの人材派遣や労務管理の体制についても、早めに固める必要がありますね」と返す。

打ち合わせ自体は順調に進むが、時折マイラの耳には“余計な噂”が飛び込んでくる。最近は社交界だけでなく、商人の間にも「グランシェル侯爵令嬢は婚約を破棄されて落ち込んでいる」「実業家に取り入って必死に立ち回っている」などと揶揄する声があるらしい。中には「ラウル王子と平民リリアに完敗した哀れな女」と嘲笑する者もいるという。
マイラは表向き毅然とした態度を貫いているが、心のどこかで小さな痛みを感じていた。自分がこれほどまでに懸命に動いている理由を、周囲は決して理解してくれるとは限らない。ましてや、ラウルの破談が“マイラの欠点”を原因とするかのように受け止める人もいる。
(――私はただ、自分の道を歩んでいるだけ。それでも、私のことを笑う人はいるのね)
そう思うと、以前ラウルが言った「君は感情を見せないから息苦しい」という言葉が、ふと頭をよぎる。もし本当に自分にそういう一面があるのだとしたら、周囲の誤解を招く原因になっているのかもしれない。けれども、今さら感情をむき出しにして訴えるような真似はできないし、するつもりもなかった。

ある日の夕方。打ち合わせが終わり、商会のビルから出てきたマイラを見送るルシアンが、「マイラ様、最近お疲れのようですが、大丈夫ですか?」と声をかけてきた。
「……ルシアン様にはご迷惑をかけていませんか? 私の“婚約破棄”の噂が、商会の評判に悪影響を及ぼしていないか心配です」
マイラがそう問うと、ルシアンは慌てたように首を振る。
「いいえ、そんなことは決して。むしろ、グランシェル侯爵家と大々的に取引を進めることで、私たちベルナール商会はさらなる信頼を得ています。どんな噂があろうと、最終的には“実績”が全てを物語るものですよ」
そう言って優しい笑みを浮かべるルシアンの言葉に、マイラは救われる思いだった。そして、彼の真摯な態度に心がほんのり温まる。
(――この人は、私をありのまま受け止めてくれているのかもしれない)
そう感じてしまう自分に気づき、少し頬が熱くなるのを覚えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす

青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。 幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。 スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。 ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族 物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました

masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。 エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。 エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。 それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。 エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。 妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。 そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。 父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。 釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。 その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。 学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、 アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

処理中です...