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第3章:動き出す野望と過去との対峙
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●グランシェル侯爵家と王家の交渉進展
一方、グランシェル侯爵家では、侯爵デゼルが王家との交渉を徐々に進めていた。ラウルの立場がここまで悪化すると、国王側も“これ以上大事にせぬよう、何としてでも妥協点を探ろう”という姿勢を示し始めている。
「――陛下は、ラウル殿下による今回の婚約破棄が公に知られた以上、グランシェル侯爵家の名誉を損なったことを認めています。そこで金銭による賠償金に加え、正式な謝意を文書で示し、王城の一部施設の利用権を一定期間、グランシェル侯爵家に委譲するという案を持ちかけてきました」
グランシェル侯爵家の執務室で、デゼルはマイラに向かってそう報告した。マイラは父の言葉を聞き、「王城施設の利用権とは具体的に何を指すのかしら」と問いかける。
「音楽堂や迎賓館、あるいは王城内の庭園など、各種の催しが開かれる場所だ。それらを“イベントや催しの際、グランシェル家が優先的に使用できるよう手配する”という話らしい。……正直、金銭だけでなくこうした優遇策を提示してくるというのは、彼らがかなり焦っている証拠だろう」
これに対し、デゼルは「金額面での交渉」よりも「実際に役立つ権益」を得ることに重点を置いている。なぜなら、現状ではグランシェル家自体が財政的に苦しいわけではなく、むしろ安定しているからだ。何より、一時的な金よりも“貴族社会での発言力を強化する手段”を手に入れるほうが、長い目で見て国益にも家の益にもなると踏んでいる。
「私としては、王城施設の利用権に加えて、王家主催の大規模行事――たとえば毎年行われる“秋の謝恩祭”や“新春の祝賀式典”などの際に、グランシェル家が優遇されるように取り計らってもらいたいと思っている。もしそれが叶えば、領内の特産品や我が家の事業を広くアピールできる場を増やせるからな」
デゼルの説明を聞きながら、マイラは合点がいく。自分が進めている新たなビジネスを加速させる上でも、そうした公の場で商品の宣伝や取引先との交流を深める機会が得られるのは魅力的だ。
「なるほど。そういう形での“誠意”を引き出せれば、父の仰る通り一時の金銭よりも大きな利益を生むかもしれません。……ラウル殿下とリリアの結婚がどうなるかは分かりませんが、私たちは私たちで、王家との関係をきちんと再構築していく必要がありますね」
マイラの言葉に、デゼルはうなずく。ラウル王子の問題はもう終わったも同然だが、王家と絶縁状態になるわけにはいかない。この国において王家と大貴族が対立すれば、それこそ内乱の火種にもなりかねない。穏便に事を運ぶためにも、グランシェル家としては王家との協調を“一定の条件付き”で再確認するのが得策だ。
「……これまでのところ、話は順調に進んでいる。近々、正式な合意がなされる見込みだ。お前も事業のほうに力を入れるとよい。私は近い将来、王宮内で今回の和解を公表し、グランシェル家と王家の関係改善をアピールする場を設けるつもりだ」
そう言う父の横顔を見て、マイラは心から「父を誇りに思う」と感じた。かつては「王子との婚約」という大義名分があった自分に対し、今は父自らが“グランシェル家”という後ろ盾を用意してくれている。自分が自立し、羽ばたいていくための舞台を準備してくれる父を見上げ、マイラは深々と頭を下げる。
「お父様、ありがとうございます。私も精一杯頑張りますわ」
一方、グランシェル侯爵家では、侯爵デゼルが王家との交渉を徐々に進めていた。ラウルの立場がここまで悪化すると、国王側も“これ以上大事にせぬよう、何としてでも妥協点を探ろう”という姿勢を示し始めている。
「――陛下は、ラウル殿下による今回の婚約破棄が公に知られた以上、グランシェル侯爵家の名誉を損なったことを認めています。そこで金銭による賠償金に加え、正式な謝意を文書で示し、王城の一部施設の利用権を一定期間、グランシェル侯爵家に委譲するという案を持ちかけてきました」
グランシェル侯爵家の執務室で、デゼルはマイラに向かってそう報告した。マイラは父の言葉を聞き、「王城施設の利用権とは具体的に何を指すのかしら」と問いかける。
「音楽堂や迎賓館、あるいは王城内の庭園など、各種の催しが開かれる場所だ。それらを“イベントや催しの際、グランシェル家が優先的に使用できるよう手配する”という話らしい。……正直、金銭だけでなくこうした優遇策を提示してくるというのは、彼らがかなり焦っている証拠だろう」
これに対し、デゼルは「金額面での交渉」よりも「実際に役立つ権益」を得ることに重点を置いている。なぜなら、現状ではグランシェル家自体が財政的に苦しいわけではなく、むしろ安定しているからだ。何より、一時的な金よりも“貴族社会での発言力を強化する手段”を手に入れるほうが、長い目で見て国益にも家の益にもなると踏んでいる。
「私としては、王城施設の利用権に加えて、王家主催の大規模行事――たとえば毎年行われる“秋の謝恩祭”や“新春の祝賀式典”などの際に、グランシェル家が優遇されるように取り計らってもらいたいと思っている。もしそれが叶えば、領内の特産品や我が家の事業を広くアピールできる場を増やせるからな」
デゼルの説明を聞きながら、マイラは合点がいく。自分が進めている新たなビジネスを加速させる上でも、そうした公の場で商品の宣伝や取引先との交流を深める機会が得られるのは魅力的だ。
「なるほど。そういう形での“誠意”を引き出せれば、父の仰る通り一時の金銭よりも大きな利益を生むかもしれません。……ラウル殿下とリリアの結婚がどうなるかは分かりませんが、私たちは私たちで、王家との関係をきちんと再構築していく必要がありますね」
マイラの言葉に、デゼルはうなずく。ラウル王子の問題はもう終わったも同然だが、王家と絶縁状態になるわけにはいかない。この国において王家と大貴族が対立すれば、それこそ内乱の火種にもなりかねない。穏便に事を運ぶためにも、グランシェル家としては王家との協調を“一定の条件付き”で再確認するのが得策だ。
「……これまでのところ、話は順調に進んでいる。近々、正式な合意がなされる見込みだ。お前も事業のほうに力を入れるとよい。私は近い将来、王宮内で今回の和解を公表し、グランシェル家と王家の関係改善をアピールする場を設けるつもりだ」
そう言う父の横顔を見て、マイラは心から「父を誇りに思う」と感じた。かつては「王子との婚約」という大義名分があった自分に対し、今は父自らが“グランシェル家”という後ろ盾を用意してくれている。自分が自立し、羽ばたいていくための舞台を準備してくれる父を見上げ、マイラは深々と頭を下げる。
「お父様、ありがとうございます。私も精一杯頑張りますわ」
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