冷徹公爵と契約妻 〜捨てられるはずが、なぜか溺愛されています〜

鍛高譚

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第2章:陰謀と罠

2-1:噂と挑発

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2-1:噂と挑発

公爵家の大広間では、アレクサンダーが主催する小さな茶会が開かれていた。領地内の名門貴族たちが招かれ、華やかな衣装を身にまとった令嬢たちが一堂に会している。ヴィヴィアンもまた、公爵夫人としてその場に参加していた。彼女の周囲にはいつも通り冷たい視線が集まり、その視線の多くは嫉妬や侮蔑に満ちていた。

「彼女が公爵夫人ね。あの冷徹な公爵が選んだ相手が、こんな没落寸前の伯爵家の娘だなんて。」

広間の隅で囁かれる声はヴィヴィアンの耳にも届いていた。しかし、彼女はその言葉を意に介さず、完璧な微笑みを浮かべていた。それが彼女の矜持だった。

そのとき、大広間の扉が開き、一人の女性が颯爽と現れた。華やかなドレスを身にまとい、深い緑の瞳が自信に満ちた光を放っている。その姿を見た周囲の空気が一瞬で変わった。

「セリーナ・モーガンよ。」

低い声で囁かれる名前に、ヴィヴィアンの指先がわずかに震えた。この女性こそがアレクサンダーの「本命」と噂される存在だった。美貌と名家の出身を兼ね備え、誰もが羨む貴族令嬢。公爵家の次期夫人にふさわしいと評されていた。

セリーナは広間を見渡しながら、まっすぐヴィヴィアンの方へ歩いてきた。その姿は挑発そのものであり、周囲の視線が二人に集中する。

「初めまして、公爵夫人様。」

セリーナの声は柔らかかったが、その言葉の端々には冷たい棘があった。

「セリーナ・モーガン様ですね。お噂はかねがね伺っています。」

ヴィヴィアンは礼儀正しく頭を下げた。その態度に隙はなく、セリーナの目に挑発されてもなお毅然とした立ち振る舞いを見せていた。

「まあ、私の噂を耳にしてくださっているなんて光栄ですわ。でも、どうしてかしら?公爵様が私のことをよくお話しになっていたからかしら?」

セリーナはわざとらしく微笑みながら言った。その言葉に周囲の貴族たちがざわめく。

「そうですか。公爵様がセリーナ様のことをお話になる機会はなかったように思いますが……。」

ヴィヴィアンの言葉は丁寧だったが、その微笑みには静かな反撃の意図が込められていた。セリーナの瞳が一瞬だけ鋭さを増したが、すぐにまた柔らかい表情に戻った。

「まあ、そうですの。けれど、あなたもご存じの通り、公爵様と私は長い付き合いがありますのよ。子供の頃から、ずっと一緒に過ごしてきましたわ。」

セリーナはわざとらしくため息をつき、視線を周囲の貴族たちに移した。

「正直申し上げて、公爵夫人としての務めはさぞ大変でしょうね。突然こんな立場に押し上げられて、お困りではありません?」

「ご心配ありがとうございます。でも、公爵夫人としての務めはすでに慣れております。それに、公爵様は私に十分なご配慮をくださっていますので、不自由はありません。」

ヴィヴィアンは落ち着いた声で応じた。その一言に、セリーナの笑みが微かに引きつるのが分かった。

茶会の後、ヴィヴィアンは自室に戻る途中、廊下で執事から耳打ちされた。

「奥様、最近公爵夫人に関する妙な噂が広まっているようです。」

「妙な噂、ですか?」

執事は眉をひそめながら続けた。

「ウィンザー伯爵家が没落寸前だという話や、奥様がその借金を盾に公爵様に無理やり結婚を迫ったという内容です。」

ヴィヴィアンの胸が冷たく締め付けられるような感覚を覚えた。それは完全に事実無根だったが、そのような噂が広まれば彼女の立場は危うくなる。

「誰がそんなことを……。」

「噂の発端は分かりませんが、広間でセリーナ様がそれとなく話題にしたことで、さらに拡散しているようです。」

その言葉に、ヴィヴィアンの瞳が冷たく光った。

「分かりました。ご報告ありがとうございます。」

彼女は冷静を装ってその場を去ったが、胸の中では怒りが燃え上がっていた。

その夜、ヴィヴィアンは執務室で書類に目を通すアレクサンダーのもとを訪れた。

「公爵様、少しお時間をいただけますか。」

アレクサンダーは書類から顔を上げ、彼女を見た。その視線にはいつも通りの冷静さが漂っている。

「何の用だ?」

ヴィヴィアンは一歩踏み出し、彼にまっすぐ目を向けた。

「セリーナ様が私に対する根も葉もない噂を広めています。この件について、公爵様としてのご意見を伺いたいのです。」

アレクサンダーは一瞬眉をひそめたが、すぐに興味を失ったように再び書類に目を戻した。

「くだらない噂だ。それに君は公爵夫人として完璧に振る舞っている。それ以上は何も問題ない。」

「ですが――」

「気にするな。」

彼の言葉は冷たく、それ以上の議論を拒絶するものであった。

ヴィヴィアンはその場を立ち去りながら、自分の無力さに唇を噛み締めた。アレクサンダーは彼女に干渉しない。それが契約結婚の条件だった。しかし、彼の冷淡な態度に隠された意図を、彼女はまだ知らなかった。

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