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しおりを挟む「ウィーラン夫人に、ロシータ夫人。結婚式以来ですね」
「本日はお招きいただきありがとうございますテンパートン卿」
「………えぇ、お久しぶりです」
ニコリと微笑みながらカーテーシを行うメリッサと少し顔がこわばったお義姉様
そんな2人に向けるアレクの顔は普段取引先の相手と話している時のアレクの顔だった
「……おかえりになられるのですね」
「…えぇ。天気が悪くなる前に自宅に帰りませんと思いまして」
お義姉様の言葉を聞いて私はアレクの腕に囲まれながらも顔を上に向ける
先程まで晴れ渡っていた空はいつの間にか雲が増えてきて、遠くの空はどんよりとしていた
「雨が降る前に帰った方がよさそうですね」
「フィーの言う通りだね。お二人とも自宅まで車で送りましょう」
アレクの提案に「いや、大丈夫です」と声を上げたお義姉様の言葉は興奮したメリッサの声にかき消された
「自動車に乗れるなんて幸せだわ!ありがとうございますテンパートン卿」
「いえいえ」
邸宅の門前で車に乗り込む2人を見送る
初めて車に乗るというメリッサは始終楽しそうにソワソワしている
2人の屋敷は間反対なため用意された車は2つ
私がメリッサにまたね。と告げている間にアレクはお義姉様の車に近づいて窓越しに何かを話していた
「お義姉様と何を話してたの?」
「ウィーラン伯爵、フィーのお父さんに伝言を頼んだだけだよ」
「ふーん」
「中に入ろうか」
2人が乗ったそれぞれの車を見送り、アレクのエスコートで邸宅内に足を進める
まだ遠いと思っていたどんよりとした雲はすぐそこに迫ってきていた
ーー
「雨、やまないわね」
「梅雨に入ったみたいですよ」
2人とのお茶会が終わったあの日から1週間
あの日から降り出した雨はずっと降っている
庭園を散歩することもできず私は自室でアイラと共に刺繍ばかりをしている
アレクに頼まれてアレクの持っているすべてのハンカチとネクタイに刺繍をしているところだ
四季折々のデナム国は初夏の前に梅雨が始まる
ただでさえ運動不足な私は梅雨のせいでさらに運動不足に陥っている
そんな話をアレクにしたら「良い運動があるよ」と言われ連れてこられたのはいつもの寝室
「え?」って言ったその瞬間にはベッドに押し倒されてまだ陽が明るいのに事に及んだのは恥ずかしい思い出だ
「出来た!」
「素敵ですね!」
あれからチクチクと一心不乱に刺していた刺繍が終わった
超大作のそれは3日前から作られていた膝掛けだ
「はい。アイラにあげる」
「え?!私にですか?!」
「うん。いつもお世話になってるから」
超大作のそれをアイラに渡す
アイラには本当にお世話になっている
私の身の回りのことから、果ては私たちが使ったベッドの掃除まで
あげればキリがないほど彼女は私の中で大きな存在となっていた
そんな彼女へのほんのお礼の気持ちで作った膝掛けをアイラは目に涙を溜めて嬉しそうに握りしめながら「ありがとうございます」と喜んでくれた
ふふふ、と2人で笑い合ってるといつもは全くと言ってほど静かにしている廊下が俄に騒がしくなったのを感じた
「何かな?アイラ、確認してきてくれる?」
「はい。奥様はこちらでお待ちくださいね」
膝掛けを綺麗に畳んで机の上に置いたアイラは私に頭を下げると廊下への扉を開けて外に出ていった
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