43 / 71
43「賢哲さんを……」
しおりを挟む「よ……良人……」
「傷自体は大した事はない! すぐに治してやる!」
わ、わっちの……わっちのせいだ!
わっちは二人を守るためにいてるのに……シチ見て逆上、二人そっちのけで攻撃しちゃ――
あれ? そうだっけ?
あ、違うか。若い娘だからって不用意にいきなり近付いてった賢哲さんが悪いんじゃないかなぁ――なんてぼんやり考えてたら――
「兎どの! 少しの間その者を頼みます!」
――良庵せんせの声にビクッとしちゃったよ。
バカみたいな事考えてる場合じゃないね、任せといて!
兎の姿のままで人のような姿に変化します。背丈は小さめ、子供の大きさだけどきちんと二足歩行。
わっちが睨む前方、シチの奴は余裕の素振りで佇んでる。
「ワタシの左目……やられちゃった。でもね、怒ったりなんてしないわ」
わっちが抉った左目を片手で押さえるシチだったけど、痛そうにするどころか微笑んでそんなこと言ってる。はっきり言ってちょっとキショい。
対して後ろはばたばたと、袂から新たに取り出した呪符をせんせが賢哲さんの胸に押し当ててるんだけど、賢哲さんがびくんびくんと体を跳ねさせるもんだから上手くいかない様子。
賢哲さん……妖魔になっちゃうのかな……
なっちゃうんだろうな……
でも平気!
良庵せんせが呪符使ってど突けば治るんだから! 昨日のオイナリおじさんの時みたいに!
「うふふふふふ。もうお止しなさいな。その禿頭の男前、たとえ傷が治ったところで妖魔になるのは――」
「賢哲! 傷は癒えたぞ! しっかりしろ!」
いやらしく喋るシチを遮るように良庵せんせの檄が飛びます。けれど気にせず喋り続けるシチ。
「――妖魔になるのは止められないわ。その針はヨル様特製。人の悪意を戟へと変えて人を妖魔足らしめる、ヨル様の特別な呪が籠められてるんだもの」
妖魔になったって平気だもーん!
こっちにゃ良庵せんせの巫と呪符があるもーん!
シチのばーかばーか!
なんてわっちは安易に考えてたんだけど、ちょっと思ってたのとは違う展開になったんだ。
「賢哲! しっかりしろ! 菜々緒さんが帰ってくるんだろ!」
「……う、うる……うるっせぇなバカ! 耳元でぎゃんぎゃん言うな!」
……あ、あれ? しれっといつも通りの賢哲さんだよ?
「賢哲? なんともないのか?」
「なんともあったっての。凄え痛かった。けど良人が治してくれたんだろ?」
何事もなかったかのように、ぱんぱんぱんっと僧衣についた砂埃を手で払いながら、普通に賢哲さんが立ち上がっちゃった。
なんで? お坊さんには効かないとか、なんかそんなの?
「――ばかな! そんな訳が……そんな……そんなちゃちな術で阻止なんて……!」
少し大きく叫んだあと、シチがまたなんかぶつぶつ言ってるのを盗み聞き。わっち耳が良いウサ。
間違いなく針に呪は籠められていた……だとか。
その身に入ったヨル様の呪が散らされる筈がない……だとか。
まさか悪意を全く持たない人なのか……だとか。
いやぁ、わっちは賢哲さんに限ってそんな事ないと思うなぁ。なんか別の理由があるんだよきっと。
けど、どうせだったら乗っかっとこっか。
『お嬢さんよ。この町一番の美僧にして高僧、賢哲さんを……この賢哲さんを舐めるんじゃねぇ! この俺に悪意なんざぁ一欠片もありゃしねえ! そんなちゃちな呪効くわきゃねぇんだ!』
コレわっちです。賢哲さんの声音で叫んでやりました。
身に覚えのない自分の声にきょろきょろ辺りを見回した賢哲さんが少し首を捻ったあと、腕を組んでふんぞり返ってシチを睨め付けました。
賢哲さんのそういうとこ、ノリが良くってわっちは好きだよ。
シチの目前にはわっち、そして木刀を構えた良庵せんせ。
さらにその後ろ、調子に乗ってふんぞり返る賢哲さん。
尻尾巻いて逃げ去るか、それとも破れかぶれで向かってくるかと思いきや、シチのやつってば挙動不審に視線を彷徨わせ、賢哲さんで視点を止めるといきなり怯える様に頭抱えて蹲っちゃいました。
「シチ悪くないもん! あんた達が――あの女狐が悪いんだぁぁ! ヨル様に……ヨル様に嫌われちゃうじゃないかぁぁぁ!」
…………思ってたんと違うなぁ……
蹲ったシチは小さな子供がするように、えぐっえぐっと鼻を啜ってはビエェェっと泣き、ひぃっと息を蓄えまたビエェェェっ。
なんかこっちが悪いことしてる気がして男二人を見遣るとおんなじ様に困惑顔。
うん、ここは大人に任せよ。
わっちは無言で前足に姿を変えて、良庵せんせの腰に戻ってぶらぶら揺れとくから。ごめんけどよろしくね。
「あ、おいウサちゃんずるいぞ――……ま良っか、働いて貰ったしな」
「助かりました。兎どの、ありがとう」
木刀を逆手に持ち替えた良庵せんせが逆の手でわっちをひと撫で。ぞくぞくしちゃうね。
「で、だ。どうする良人?」
「放っておく訳にもいかないだろう。連れて帰るしかないな」
「だよなぁ」
泣き止む様子のないシチに向かって歩み寄った二人だったけど、罠だとしてもわっちが飛び出すから大丈夫だよ。いつでも噛み付ける様に覚悟してるからね。
「なぁお嬢さん……お嬢、さ、ん? お嬢ちゃん?」
賢哲さんの不思議そうな声も当然だよ。シチのやつ、いつの間にか小さな女の子になってるんだもん。
わっちが化けた人の姿みたいでなんだか急に親近感湧いちゃうなぁ。
「ほら立って。いい加減に泣き止んでくれよ」
シチの手を引き立ち上がらせて優しくそう言う賢哲さんとは対照的に、良庵せんせは厳しい顔付きでシチへ手を差し出し言いました。
「出しなさい」
けっこう怖いです。良庵せんせのこんな声聞いたことないもん。
実はシチのやつ、悪意が全くない賢哲さんに対して本能的に怯えてたらしいんだけど、今は良庵せんせに怯えてるみたい。
「な、なにを……?」
「さっきの針! 全部出しなさい!」
口を固く引き結び、タレ目を精一杯吊り上げてるつもりらしい良庵せんせが言いました。そんなに吊りあがってないのが可愛いよね。
「だ、だってこれ……ヨル様の――」
「そんな顔してもだめ。それは危ないんだから。全部出しなさい」
渋々といった感じのシチが袂を弄って、取り出した数本の針をせんせに手渡しました。
針を受け取ったせんせも袂から一枚の呪符を取り出し、それで針を包んで袂に戻しちゃいました。
「これで良い。上手く戟が散ってくれると良いんだがな」
「おうおう、ほんといっぱしの妖魔退治じゃねえの」
「茶化すなって。そんな事より予備の提灯を頼むよ」
いっけね、なんて言いながら、賢哲さんが燃え尽きそうな提灯へ駆け寄ったんだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる