殺し屋さんとの最後の一日

シュレディンガーのうさぎ

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ハンバーガーショップまで行く途中、私は様々なお店に目を奪われてしまっていた。幾度となく寄り道をする私を責めることもなく、にこやかに笑いながら殺し屋さんはついてきてくれた。
映画館を出てからというものの、彼が私に銃口を突きつける回数は減っていき、いつの間にかなくなっていた。そのため、私も比較的自由に行動することが出来た。
(わ!この服、殺し屋さんに似合いそう!)
ショーウインドウに飾ってあったマネキンの服と殺し屋さんを見比べる。
「すみません、ちょっと隣に立っていただいてもいいですか?」
殺し屋さんは少しも面倒な顔をせず私の言うことを聞いてくれた。マネキンの隣に立った彼を目に焼き付け、そのまま顔をスライドし服を見る。
(やっぱり似合う……!)
そう脳内で着せ替えを楽しむ私を彼が笑みを作って見つめていた。
彼に臆せず話しかけられる自分が、私には不思議でたまらなかった。これが会社の同僚の男性だったら、もっと緊張していたに違いない。
(なんだろう、殺し屋さんと一緒にいるとあんまり緊張しないな。私のことを殺そうとしているのに、どうしてだろ?)
そう疑問に思ってからふと思いついた。
(……そっか、自分の素を見せてたとえ嫌われたとしても、今日が最後だからだ。幻滅されたらどうしようとか思わなくて済むからありのままの自分でいられるんだ)
そう思うとなんだか心が軽くなった。どうなろうと今日が最後なのだ。思い切り楽しまねばもったいない。
(他にはどんなお店があるのだろう?)と私はきょろきょろと辺りを見回しながら胸を躍らせた。

やっとハンバーガーショップにつき、注文を終え、私たちは机に座って番号が呼ばれるのを待っていた。順番待ちをする間、彼と世間話でもしようと口を開いた。
「あなたは昔からこの仕事を?」
あまり裏社会のことを探るのはよくないと分かっていても、思わず気になって聞いてしまう。
「……まあね。特に子供の頃は『習い事』ばかりしていたから、遊ぶ暇もなくて」
彼の言う『習い事』は、私には想像もつかないものだろう。……まあ、つきたくもないのだけど。
「そっか、じゃあ私とは真逆ですね。私はずっと遊んでましたよ」
そう言って笑う私を、口元に笑みを浮かべながら頬杖をついて殺し屋さんが見る。
ただそれだけの格好なのに、彼の容姿のせいか、なんだかかっこよく見える。
「あの……あなたって俗にいうイケメンだと思うんですけど……。それも仕事の上で重要なことなんですか?」
そう遠慮がちに尋ねると殺し屋さんが笑った。
「まあね。こういうふうに恋人を演じてターゲットに近づくこともあるし。運良くこの顔は女性受けするから助かってるよ」
彼の言葉にそうなのか、と納得する。
(中々人を殺すのも一筋縄じゃいかないんだなあ)
水のグラスに口をつける殺し屋さんを見ながら考える。人を殺すとき躊躇うことはないのだろうか。昔からしている仕事だからもう慣れてしまっているのだろうか。そう考えて、ふと頭に疑問が浮かんだ。
「あの……仕事が終わった後っていつもどうしているんですか?後処理が一番面倒くさいって聞いたんですけど……」
そうぼかしながら尋ねると彼が笑った。
「方法は色々あるよ。焼いたり切って埋めたりして隠したり……事故や自殺に見せかけたり、とかね」
最後の言葉だけ声を潜めて言う。彼が妖しく笑うのを見て背筋が寒くなるのがわかった。
(聞かなきゃよかった)
聞いたことを後悔していると番号が呼ばれた。立ち上がろうとするのを彼が制す。
「僕が行ってくるよ」
「あ、ありがとうございます」
(こういうところもスマートだなあ)
顔も好みだし、優しいし、殺し屋じゃなかったら本気で付き合いたいくらいだ。まあ、それはどうやっても叶う願いではないし、そもそも彼が殺し屋でなかったら出会うことすらなかったのだろうけれど。
彼が人混みに消えたかと思うとすぐに戻ってくる。とんでもない早業だ。
(あれも殺し屋の技なのかな……)
私はこっそり舌を巻きながらトレーを受け取った。
久しぶりのハンバーガーに舌鼓を打ちつつポテトに手を伸ばす。喉が渇いてジュースを飲もうと手を伸ばしながら殺し屋さんを見れば、もくもくとファストフードを味わっていた。
ハンバーガーを片手にポテトをつまむ彼がなんだか幼く見えて思わず微笑む。
その視線に気づいて殺し屋さんが怪訝な顔をした。
「なに?さっきから僕のことを見て」
「あ、いえ!なんでもないです」
気まずくなって視線を落とす。下手な行動をとると誤解されかねない。
(気をつけないと……)
いつ発砲されてもいいように、心の準備をしておこうと私は自分に強く言い聞かせた。
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