2 / 12
2時間目
しおりを挟む
放課後、ちらほらと帰宅していく教師達を横目にアオイは漢字の小テストの丸付けに勤しんでいた。次第に外が暗くなってきて、全員の小テストの丸付けが終わった頃、それを見計らったかのように隣からナツメが肘をつついてきた。
「もうそろそろ行こうか?あんまり遅くなっても嫌だしね」
ナツメに言われ時計を見る。短針は八を指そうとしていた。
「そうですね」とアオイも賛同する。こんなに遅くまで学校に残ったのは初めてだった。
ナツメと共に肝試しに行こうと立ち上がる。採点で同じ姿勢をしていたためすっかり体が凝り固まっていた。ほぐすために伸びをすると、「お疲れ様」とナツメが笑った。
「アオイ先生、先に廊下に出ててくれる?私もすぐに追いつくから!」
ナツメに言われ、アオイは頷くと扉の方に向かって歩き始めた。
廊下に出ようとしたとき、ツカサとすれ違った。いつも放課後になるとさっさといなくなってしまう彼がこんなに遅い時間までいるのが珍しく、アオイは足を止めツカサに話しかける。
「ツカサ先生、今日は随分と遅くまで残っているんですね」
話しかけられ、ツカサも足を止めアオイを見つめる。
「……ここ数日金魚が調子悪くて、薬をやっていたら遅くなっちゃってね」
「そうなんですか?それで、金魚は大丈夫なんですか?」
そう尋ねるとツカサが「まあなんとか」と答えた。それを聞いてアオイは胸をなで下ろした。そんなアオイを見てツカサが再び口を開く。
「アオイ先生こそ、やけに遅いけどどうかしたの?」
「私は、小テストの丸付けをしていて……」
そう笑うとツカサがちらりとアオイの後ろを見た。振り向けばこちらにナツメが歩いてくるのが見える。
ツカサはこれ以上アオイと会話したくないようで、横を通り過ぎると去って行ってしまった。それとほぼ同時にナツメがアオイの隣に立つ。
「それじゃ、行こうか」
そう意気込むように言うナツメに頷いてみせた。
廊下に出てすぐに、アオイの横でナツメが小さく「うわ」と声をあげた。
「どうしたんですか?」
そう尋ねるとナツメが小さい動作で指をさした。その方向を見れば懐中電灯を持ったヒジリがこちらに背を向けて廊下を歩いていくのが見えた。
「ヒジリ先生がいる……。もしかしたら、今日宿直だったのかな?肝試しってばれないようにしないと……」
そう苦い顔で言うナツメを見てなるほどと思う。ヒジリは生徒にも教師にも厳しいのだ。遊びで学校に残っていることを知られたら何を言われるか分からない。
「アオイ先生、早いところ肝試しに行っちゃおうか」
ナツメに小声で言われ「そうですね」とアオイも小声で頷いた。
春だというのに、夜の学校は肌寒かった。カーディガンを持ってきて良かったと、アオイは前のボタンを留めながら体を震わせた。
「夜の学校って不気味だよね……」
そうナツメがおっかなびっくりしながら歩く。確かに生徒達のにぎやかな声が響く昼間と違って、物音一つしない夜の学校は別の空間に入り込んでしまったかのようなえもいわれぬ不気味さがあった。
不意に水が落ちる音が辺りに響いて、ナツメが悲鳴をあげてアオイにしがみついた。アオイが視線を巡らせれば、すぐ近くに手洗い場があるのが見えた。
「なんだ、蛇口から水が落ちただけか……」
そう胸をなで下ろすナツメを見て思わずアオイは笑みをもらす。
「ふふっ。ナツメ先生、あんなに張り切っていたのに、怖いの苦手なんですね」
そう言われナツメが恥ずかしそうに唇をとがらせる。
「うう~、怖いのは好きだけど、怖いものはやっぱり怖いのよ。だから、怖い話はつい見ちゃうけど、トイレに行けなくなっちゃうの」
「分かります」と笑って賛同する。しかし、今のところただ暗いだけで特に怪奇現象が起こるような気配はない。
(まあ、夜の学校だからってお化けが出るとは限らないしな……)
建てられてからそこまで長い時間が経っていないからか、この学校にはいわゆる七不思議なるものは存在していなかった。
(特に怖いものを見ることなく肝試しを終えられるかも)と考えて、一年前に自殺した教師のことを思い出した。彼女の幽霊は出てもおかしくない。そう思うと窓を揺らす風の音に、少し寒気を感じた。
ゆっくり一階の廊下を歩き、階段で二階にのぼった。二階の廊下を端から端まで歩き、さらに階段で三階へのぼる。特に何か起こることも変な音が聞こえることもなく、緊張感が消え昼の疲れからアオイが眠気を感じ始めていた時、不意にピアノの音が静かな廊下に響いた。
「ひっ!?」とナツメが体を震わせる。不思議に思いアオイが思わず足を止めた。
三階の突き当たりは音楽室だった。ピアノの音がしてもおかしくはない場所だが、今は最終下校もとっくに過ぎた夜中だ。
(なんだろう……)
しばらく廊下で立ち止まって様子を見ていたが、あれ以来音は聞こえてこなかった。
(さっき聞こえたピアノの音は気のせいだったのかな……)
そう思い、背を向け立ち去ろうとするアオイたちを引き留めるようにまたピアノの音が鳴った。
またナツメが震え、アオイにしがみついた。アオイは不思議そうに音楽室の方を振り返る。
(誰かいるのかしら?)
そう思って音楽室に近づこうとするアオイをふんばってナツメが止める。
「や、やめよう、アオイ先生!」
「でも、もし誰かが残っているのなら帰らせないと」
そう言うとナツメがぶんぶんと首を振った。
「電気がついてないし、生徒じゃないよ、絶対!」
「生徒じゃないならなおさら見ないといけません」
アオイがそうはっきりと言いきった。そう言い終わる前にもまたピアノの音が鳴って、ナツメは悲鳴を上げるとその場にへたりこんだ。
不思議なことに、アオイは恐怖をまったく感じていなかった。むしろ、そのピアノの音がアオイを呼んでいるような気さえしたのだ。
アオイはへたりこんでいるナツメにここで待っているよう伝えると音楽室に向かって歩き出した。
手をかけるとすんなりと扉が開いた。顔だけを中に入れ、室内を見渡す。
「誰かいるの?」
そう声をかけるが、音楽室は静まりかえって何も返ってこなかった。今日は新月のせいか、電気がついていない音楽室は真っ暗で何も見えなかった。手探りでスイッチを探し、電気をつける。
ピアノの鍵盤が見える位置に回りこんでみたが、誰もいなかった。じっとピアノを見つめてみたが、もう音はならなかった。
(どういうことだろう……?本当にお化けだったのかな)
音楽室に置いてあるのはグランドピアノなので、誰かが鍵盤を叩かなければ音が鳴ることはない。不思議に思いながらさらにピアノに近づくと、椅子の上に小さな紙が落ちているのが目に入った。
それに手を伸ばし拾い上げる。二つに折りたたまれた紙を開くと、そこには鉛筆でこう書かれていた。
『私を殺した犯人を捜して』
(犯人を捜す?どういうこと?)
書かれた文言に思わず首をひねる。すると扉の方から
「アオイ先生、大丈夫?」と不安そうなナツメの声が聞こえてきた。
「あ、はい!」
振り向けばびくびくしながらナツメがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「だ、誰かいた?」
そう辺りを見回すナツメに「いいえ」と首を振る。
「けれど、こんなものが椅子の上に落ちていました」
そう言って紙を開いたままナツメに見せる。
「何?」
そう言ってそれに目を走らせていたナツメが急に顔を真っ青にした。
「? ナツメ先生、どうしたんですか?」
ナツメは紙に目を釘つけにしたまま、すっかり青ざめて震えていた。
「カ……エデ……」
そう放心したように呟く。彼女の様子がおかしいことに気づき、アオイは紙を放り出すとナツメに駆け寄った。
「ナツメ先生!どうしたんですか?しっかりしてください!」
そうナツメの体を支えた瞬間、彼女の全身の力が抜けて床に座り込んだ。彼女の全体重がアオイの腕にかかり、思わずアオイもその場にしゃがみ込む。
「ナツメ先生!」
震えているナツメの背中をさすりながら、どうしようと辺りを見回す。アオイ一人で脱力したナツメをここから運び出すのは難しそうだ。
「誰か!誰かいませんか!?」
そう駄目元で声をはりあげる。しかし、自分の声がむなしく音楽室に響くだけだ。何度声をあげようとそのたびに自分の声が夜の闇に吸い込まれていくような気がして、アオイが焦りを感じていると「どうしたのですか?」と聞き慣れた男の声が返ってきた。
はっとして扉の方を見れば、ヒジリが立っていた。ヒジリは座り込んでいるナツメを見ると表情を険しくして駆け寄ってきた。
「何があったのですか?」
そう早口で尋ねるヒジリにアオイは混乱しながらも起こったことを彼に伝える。
「ナツメ先生が、突然座り込んでしまって……」
ヒジリはそれを聞いて顔をしかめたまま、
「ナツメ先生を保健室に運びます。あなたは職員室から保健室の鍵を持ってきてくれませんか」と早口で言った。
「分かりました」とアオイも早口で言うと立ち上がり、音楽室を飛び出した。
職員室に向かって一直線に走る。すぐに息が上がって苦しくなってきたが足を止めることは出来なかった。ナツメが大丈夫かどうか不安でたまらなかった。
ようやく職員室にたどり着いたときには、まるで校庭を三周したかのようにどっぷりと疲れていた。
息を整えながら鍵置き場に向かう。
(えーっと、保健室の鍵は……)
そう心の中で呟きながら保健室の鍵を探していると、不意に手元が暗くなった。振り返れば手元を覗き込む形でツカサが立っていた。
「アオイ先生、どうしたの?やけに息が荒いけど」
「あ、えっと……」
どぎまぎしながら先ほどまでに起こったことを述べるとツカサが考え込んだ。
「ふうん、そんなことが……」
何かを思案しているツカサの隣でようやく鍵を見つけたアオイが立ち上がる。
「私、保健室に行ってきます!」
そう言って走り出そうとしたアオイにツカサが声をかける。
「俺も行くよ」
「え?」
振り返ればツカサが笑みを作った。
「なんだか面白いことになりそうだからさ」
人が一人倒れているというのに不謹慎なことを言うツカサを怪訝に思いながら、アオイはツカサと共に保健室へと急いだ。
「もうそろそろ行こうか?あんまり遅くなっても嫌だしね」
ナツメに言われ時計を見る。短針は八を指そうとしていた。
「そうですね」とアオイも賛同する。こんなに遅くまで学校に残ったのは初めてだった。
ナツメと共に肝試しに行こうと立ち上がる。採点で同じ姿勢をしていたためすっかり体が凝り固まっていた。ほぐすために伸びをすると、「お疲れ様」とナツメが笑った。
「アオイ先生、先に廊下に出ててくれる?私もすぐに追いつくから!」
ナツメに言われ、アオイは頷くと扉の方に向かって歩き始めた。
廊下に出ようとしたとき、ツカサとすれ違った。いつも放課後になるとさっさといなくなってしまう彼がこんなに遅い時間までいるのが珍しく、アオイは足を止めツカサに話しかける。
「ツカサ先生、今日は随分と遅くまで残っているんですね」
話しかけられ、ツカサも足を止めアオイを見つめる。
「……ここ数日金魚が調子悪くて、薬をやっていたら遅くなっちゃってね」
「そうなんですか?それで、金魚は大丈夫なんですか?」
そう尋ねるとツカサが「まあなんとか」と答えた。それを聞いてアオイは胸をなで下ろした。そんなアオイを見てツカサが再び口を開く。
「アオイ先生こそ、やけに遅いけどどうかしたの?」
「私は、小テストの丸付けをしていて……」
そう笑うとツカサがちらりとアオイの後ろを見た。振り向けばこちらにナツメが歩いてくるのが見える。
ツカサはこれ以上アオイと会話したくないようで、横を通り過ぎると去って行ってしまった。それとほぼ同時にナツメがアオイの隣に立つ。
「それじゃ、行こうか」
そう意気込むように言うナツメに頷いてみせた。
廊下に出てすぐに、アオイの横でナツメが小さく「うわ」と声をあげた。
「どうしたんですか?」
そう尋ねるとナツメが小さい動作で指をさした。その方向を見れば懐中電灯を持ったヒジリがこちらに背を向けて廊下を歩いていくのが見えた。
「ヒジリ先生がいる……。もしかしたら、今日宿直だったのかな?肝試しってばれないようにしないと……」
そう苦い顔で言うナツメを見てなるほどと思う。ヒジリは生徒にも教師にも厳しいのだ。遊びで学校に残っていることを知られたら何を言われるか分からない。
「アオイ先生、早いところ肝試しに行っちゃおうか」
ナツメに小声で言われ「そうですね」とアオイも小声で頷いた。
春だというのに、夜の学校は肌寒かった。カーディガンを持ってきて良かったと、アオイは前のボタンを留めながら体を震わせた。
「夜の学校って不気味だよね……」
そうナツメがおっかなびっくりしながら歩く。確かに生徒達のにぎやかな声が響く昼間と違って、物音一つしない夜の学校は別の空間に入り込んでしまったかのようなえもいわれぬ不気味さがあった。
不意に水が落ちる音が辺りに響いて、ナツメが悲鳴をあげてアオイにしがみついた。アオイが視線を巡らせれば、すぐ近くに手洗い場があるのが見えた。
「なんだ、蛇口から水が落ちただけか……」
そう胸をなで下ろすナツメを見て思わずアオイは笑みをもらす。
「ふふっ。ナツメ先生、あんなに張り切っていたのに、怖いの苦手なんですね」
そう言われナツメが恥ずかしそうに唇をとがらせる。
「うう~、怖いのは好きだけど、怖いものはやっぱり怖いのよ。だから、怖い話はつい見ちゃうけど、トイレに行けなくなっちゃうの」
「分かります」と笑って賛同する。しかし、今のところただ暗いだけで特に怪奇現象が起こるような気配はない。
(まあ、夜の学校だからってお化けが出るとは限らないしな……)
建てられてからそこまで長い時間が経っていないからか、この学校にはいわゆる七不思議なるものは存在していなかった。
(特に怖いものを見ることなく肝試しを終えられるかも)と考えて、一年前に自殺した教師のことを思い出した。彼女の幽霊は出てもおかしくない。そう思うと窓を揺らす風の音に、少し寒気を感じた。
ゆっくり一階の廊下を歩き、階段で二階にのぼった。二階の廊下を端から端まで歩き、さらに階段で三階へのぼる。特に何か起こることも変な音が聞こえることもなく、緊張感が消え昼の疲れからアオイが眠気を感じ始めていた時、不意にピアノの音が静かな廊下に響いた。
「ひっ!?」とナツメが体を震わせる。不思議に思いアオイが思わず足を止めた。
三階の突き当たりは音楽室だった。ピアノの音がしてもおかしくはない場所だが、今は最終下校もとっくに過ぎた夜中だ。
(なんだろう……)
しばらく廊下で立ち止まって様子を見ていたが、あれ以来音は聞こえてこなかった。
(さっき聞こえたピアノの音は気のせいだったのかな……)
そう思い、背を向け立ち去ろうとするアオイたちを引き留めるようにまたピアノの音が鳴った。
またナツメが震え、アオイにしがみついた。アオイは不思議そうに音楽室の方を振り返る。
(誰かいるのかしら?)
そう思って音楽室に近づこうとするアオイをふんばってナツメが止める。
「や、やめよう、アオイ先生!」
「でも、もし誰かが残っているのなら帰らせないと」
そう言うとナツメがぶんぶんと首を振った。
「電気がついてないし、生徒じゃないよ、絶対!」
「生徒じゃないならなおさら見ないといけません」
アオイがそうはっきりと言いきった。そう言い終わる前にもまたピアノの音が鳴って、ナツメは悲鳴を上げるとその場にへたりこんだ。
不思議なことに、アオイは恐怖をまったく感じていなかった。むしろ、そのピアノの音がアオイを呼んでいるような気さえしたのだ。
アオイはへたりこんでいるナツメにここで待っているよう伝えると音楽室に向かって歩き出した。
手をかけるとすんなりと扉が開いた。顔だけを中に入れ、室内を見渡す。
「誰かいるの?」
そう声をかけるが、音楽室は静まりかえって何も返ってこなかった。今日は新月のせいか、電気がついていない音楽室は真っ暗で何も見えなかった。手探りでスイッチを探し、電気をつける。
ピアノの鍵盤が見える位置に回りこんでみたが、誰もいなかった。じっとピアノを見つめてみたが、もう音はならなかった。
(どういうことだろう……?本当にお化けだったのかな)
音楽室に置いてあるのはグランドピアノなので、誰かが鍵盤を叩かなければ音が鳴ることはない。不思議に思いながらさらにピアノに近づくと、椅子の上に小さな紙が落ちているのが目に入った。
それに手を伸ばし拾い上げる。二つに折りたたまれた紙を開くと、そこには鉛筆でこう書かれていた。
『私を殺した犯人を捜して』
(犯人を捜す?どういうこと?)
書かれた文言に思わず首をひねる。すると扉の方から
「アオイ先生、大丈夫?」と不安そうなナツメの声が聞こえてきた。
「あ、はい!」
振り向けばびくびくしながらナツメがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「だ、誰かいた?」
そう辺りを見回すナツメに「いいえ」と首を振る。
「けれど、こんなものが椅子の上に落ちていました」
そう言って紙を開いたままナツメに見せる。
「何?」
そう言ってそれに目を走らせていたナツメが急に顔を真っ青にした。
「? ナツメ先生、どうしたんですか?」
ナツメは紙に目を釘つけにしたまま、すっかり青ざめて震えていた。
「カ……エデ……」
そう放心したように呟く。彼女の様子がおかしいことに気づき、アオイは紙を放り出すとナツメに駆け寄った。
「ナツメ先生!どうしたんですか?しっかりしてください!」
そうナツメの体を支えた瞬間、彼女の全身の力が抜けて床に座り込んだ。彼女の全体重がアオイの腕にかかり、思わずアオイもその場にしゃがみ込む。
「ナツメ先生!」
震えているナツメの背中をさすりながら、どうしようと辺りを見回す。アオイ一人で脱力したナツメをここから運び出すのは難しそうだ。
「誰か!誰かいませんか!?」
そう駄目元で声をはりあげる。しかし、自分の声がむなしく音楽室に響くだけだ。何度声をあげようとそのたびに自分の声が夜の闇に吸い込まれていくような気がして、アオイが焦りを感じていると「どうしたのですか?」と聞き慣れた男の声が返ってきた。
はっとして扉の方を見れば、ヒジリが立っていた。ヒジリは座り込んでいるナツメを見ると表情を険しくして駆け寄ってきた。
「何があったのですか?」
そう早口で尋ねるヒジリにアオイは混乱しながらも起こったことを彼に伝える。
「ナツメ先生が、突然座り込んでしまって……」
ヒジリはそれを聞いて顔をしかめたまま、
「ナツメ先生を保健室に運びます。あなたは職員室から保健室の鍵を持ってきてくれませんか」と早口で言った。
「分かりました」とアオイも早口で言うと立ち上がり、音楽室を飛び出した。
職員室に向かって一直線に走る。すぐに息が上がって苦しくなってきたが足を止めることは出来なかった。ナツメが大丈夫かどうか不安でたまらなかった。
ようやく職員室にたどり着いたときには、まるで校庭を三周したかのようにどっぷりと疲れていた。
息を整えながら鍵置き場に向かう。
(えーっと、保健室の鍵は……)
そう心の中で呟きながら保健室の鍵を探していると、不意に手元が暗くなった。振り返れば手元を覗き込む形でツカサが立っていた。
「アオイ先生、どうしたの?やけに息が荒いけど」
「あ、えっと……」
どぎまぎしながら先ほどまでに起こったことを述べるとツカサが考え込んだ。
「ふうん、そんなことが……」
何かを思案しているツカサの隣でようやく鍵を見つけたアオイが立ち上がる。
「私、保健室に行ってきます!」
そう言って走り出そうとしたアオイにツカサが声をかける。
「俺も行くよ」
「え?」
振り返ればツカサが笑みを作った。
「なんだか面白いことになりそうだからさ」
人が一人倒れているというのに不謹慎なことを言うツカサを怪訝に思いながら、アオイはツカサと共に保健室へと急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる