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きそうということ
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最近、同じ夢をよく見る。
ゴールはもう見えているのに、走れど走れどたどり着けない。息が苦しくて、身体中がダルくて、もう目を瞑って倒れ込んでしまいたい。そんな気持ちと戦いながらひたすら走る。コーチが俺を見ながらなにか大きな声を出していて、励ましているのか、怒っているのか、それさえももうよく分からない。まるで泥のようにすぐに地面と同化しそうになる体を必死で動かして、でも結局ゴールとの距離は縮まらなくて、ああ、もう、無理かも__
ピピピピ
軽快なアラームの音で目を覚ます。まるで本当に走った直後のように身体中汗びっしょりで、心臓はバクバクと音を立てていた。もう一度ゆっくり目を閉じて、深呼吸をする。その内にもう一度アラームが鳴って、ベットから体を起こした。
「朝霞、おはよう。今日早いじゃん。」
「お~颯人、おはよう。」
昇降口でこの時間には珍しい後ろ姿を見つけて声を掛けると、振り返った朝霞はふああ、とあくびをしながら右手を挙げる。
「今日生徒会の打ち合わせでさー。」
「そっか。役員だったもんな。」
「そうなの。朝からやる意味あんのかねー。」
そう言って眉を寄せて険しい顔をするから思わず笑ってしまえば、コラ、人の顔見て笑うな、と肩を小突かれる。
朝霞とは保育園からの幼馴染で、家族ぐるみの付き合いもある仲だ。
小学校と中学校はクラスが同じで高校に入ってからは別のクラスになってしまったが、それでもこうやって会えばお互いの近況を報告したりする。
「颯人は朝練?今テスト期間じゃなかったっけ。」
「そ。部活は休みだから、自主練。」
「えらいねえ。」
よしよししてあげようか、なんておどけて手を伸ばしてくるから今度は俺が朝霞の肩を小突く。ケラケラと楽しそうに笑う朝霞を見て、なんか、と思わす口が動く。
「なんか、朝霞変わったな。」
「え!?何やっぱ太ったの分かる!?」
「いやそうじゃなくて…。」
「おばあちゃんの作る料理やたら美味しくてさあ、」
そう言った朝霞は服の上から二の腕をつまんで口を尖らせる。最近、彼女の両親が離婚したというのは母から聞いていた。直接聞いてもいいものなのかと迷っていたら、少し前に朝霞からも直接打ち明けられた。
やっぱり少し落ち込んでいるようだったが、その時も今も彼女の笑顔はなぜかとても穏やかに見えた。
「別に体型の変化とかは分かんないけど。・・・なんかさ、いい事でもあった?」
「うーん、いい事かあ。パッと思いつかないなあ。」
「そっか。」
「・・・ああでも。」
「ん?」
「運命の出会いは、しちゃったかも?」
「・・・は?」
怪訝そうな俺の顔を見て朝霞はなぜか満足げに笑う。じゃ、とヒラヒラと手を振ってそのまま廊下を歩いていくから、ポーッとその背中を眺めてしまった。運命の出会い?アイツ、彼氏でも出来たのか?へえ、クラスの奴かな、なんて考えてしまって慌てて首を振る。いや出来ていたとして俺には関係ない事だ、うん。
気付けば時計の針が30分を回っていて、慌てて部室へと急いだ。
ゴールはもう見えているのに、走れど走れどたどり着けない。息が苦しくて、身体中がダルくて、もう目を瞑って倒れ込んでしまいたい。そんな気持ちと戦いながらひたすら走る。コーチが俺を見ながらなにか大きな声を出していて、励ましているのか、怒っているのか、それさえももうよく分からない。まるで泥のようにすぐに地面と同化しそうになる体を必死で動かして、でも結局ゴールとの距離は縮まらなくて、ああ、もう、無理かも__
ピピピピ
軽快なアラームの音で目を覚ます。まるで本当に走った直後のように身体中汗びっしょりで、心臓はバクバクと音を立てていた。もう一度ゆっくり目を閉じて、深呼吸をする。その内にもう一度アラームが鳴って、ベットから体を起こした。
「朝霞、おはよう。今日早いじゃん。」
「お~颯人、おはよう。」
昇降口でこの時間には珍しい後ろ姿を見つけて声を掛けると、振り返った朝霞はふああ、とあくびをしながら右手を挙げる。
「今日生徒会の打ち合わせでさー。」
「そっか。役員だったもんな。」
「そうなの。朝からやる意味あんのかねー。」
そう言って眉を寄せて険しい顔をするから思わず笑ってしまえば、コラ、人の顔見て笑うな、と肩を小突かれる。
朝霞とは保育園からの幼馴染で、家族ぐるみの付き合いもある仲だ。
小学校と中学校はクラスが同じで高校に入ってからは別のクラスになってしまったが、それでもこうやって会えばお互いの近況を報告したりする。
「颯人は朝練?今テスト期間じゃなかったっけ。」
「そ。部活は休みだから、自主練。」
「えらいねえ。」
よしよししてあげようか、なんておどけて手を伸ばしてくるから今度は俺が朝霞の肩を小突く。ケラケラと楽しそうに笑う朝霞を見て、なんか、と思わす口が動く。
「なんか、朝霞変わったな。」
「え!?何やっぱ太ったの分かる!?」
「いやそうじゃなくて…。」
「おばあちゃんの作る料理やたら美味しくてさあ、」
そう言った朝霞は服の上から二の腕をつまんで口を尖らせる。最近、彼女の両親が離婚したというのは母から聞いていた。直接聞いてもいいものなのかと迷っていたら、少し前に朝霞からも直接打ち明けられた。
やっぱり少し落ち込んでいるようだったが、その時も今も彼女の笑顔はなぜかとても穏やかに見えた。
「別に体型の変化とかは分かんないけど。・・・なんかさ、いい事でもあった?」
「うーん、いい事かあ。パッと思いつかないなあ。」
「そっか。」
「・・・ああでも。」
「ん?」
「運命の出会いは、しちゃったかも?」
「・・・は?」
怪訝そうな俺の顔を見て朝霞はなぜか満足げに笑う。じゃ、とヒラヒラと手を振ってそのまま廊下を歩いていくから、ポーッとその背中を眺めてしまった。運命の出会い?アイツ、彼氏でも出来たのか?へえ、クラスの奴かな、なんて考えてしまって慌てて首を振る。いや出来ていたとして俺には関係ない事だ、うん。
気付けば時計の針が30分を回っていて、慌てて部室へと急いだ。
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