ただ今ヒツジ電話番

夏目はるの

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まなぶということ

3

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「ばあちゃん、僕、会わない。」
「そう、分かったよ。」
「今はまだ、会わない。」

朝ごはんのお味噌汁を飲みながら、僕の言葉にばあちゃんはいつもと同じように優しく微笑みかけてくれた。今はまだ、会わない。でもいつかは会いたいと思っている。これが今の僕が出せる精一杯の答えだった。ばあちゃんに自分の気持ちを伝えたら無性に千隼にも伝えたくなってきて、ご飯を食べ終えた後、思わずスマホを手に取った。

プルル、プルル。

『もしもし?なんかあった?』
『いや、そういうわけじゃないんだけど、今大丈夫?』
『大丈夫だけど。珍しいな電話なんて。』

少し戸惑ったような千隼の声がして、そういえば千隼と電話で話すのは初めてな事に気がついた。なんだか面白くて少し笑ってしまう。

『僕、今はまだ、会わないことにした。』
『・・・そっか、うん、良いと思うよ。』
『あとさ、僕、勉強がしたい。勉強して、もっともっといろんなことを知りたい。』
『うん。』
『電話番を、きちんとした仕事にしたい。』

僕の言葉に電話話の向こうで千隼が優しく笑ったのが分かった。うん、と彼は呟いて、僕の名前を呼ぶ。

『天音なら、出来るよ。』
『うん、ありがとう。』
『⋯俺、新聞社のインターン行くんだ。俺も、知りたい。自分の周りのことだけじゃなくて、もっと広い、色んな世界のことを、知りたい。』
『うん。』

ねえ、千隼。

『変わっていくのって、ドキドキするね。楽しみね。』
『⋯はは。お前は本当に、強いなあ。』

初めて言われた強いという言葉にキョトンとしてしまったけれど、なんでもない、と言って千隼はまたケラケラと笑う。電話を切って、部屋の窓を開けた。外は見事な快晴で、なんだか泣きたくなるくらいの青空が広がっていた。




ハッ、と目が覚める。別に悪い夢を見ていた訳でもないのに、心臓がバクバクと音を立てる。時計を見れば深夜2時を回った頃で、これはまた寝付けそうにないなあ、と苦笑いしてしまった。

僕の眠れない夜はまだ続いている。きっとこれからも続くんだとも思う、でも、前ほど夜は怖くないし、あの目を瞑っている時間も嫌いじゃなくなった。眠れない夜は敵じゃないと千隼が教えてくれて、夜に取り残されているのは自分だけじゃないといろんな人が教えてくれたからだ。


深呼吸をして、もう一度目を閉じた。
僕は、もう大丈夫だよ。



『眠れない夜は怖いものじゃない。眠れない夜はあなたのせいじゃない。』




『では、おやすみなさい。』


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