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ゆったりとした二人だけの時間が過ぎていった。
冗談を言い合いながら朝ごはんを食べ、その後ルドが手ずから入れてくれた紅茶を飲む。
端から見たら、これが監禁生活などと誰が思うのだろう。
本当に愛の巣にでも入れられた恋人同士としか思えない。
ただルドは王太子であり、私は貴族令嬢。
しかも、まだ婚約すら仮でしかない。
家族からの同意もなければ、私は昨日牢屋から連れられてきただけ。
幸せそうに見えても、その実は違うのだということをふとした瞬間に思い知らされる。
「本当によろしかったのですか、ルド様」
「何がだい、アーシエ?」
今ほど王宮からの遣いを、ルドはやや怒りながら追い返したところだ。
少し落ち着いたタイミングで、私は言葉を選びながら声をかけた。
「先ほどお見えになられていた方のことです。お仕事などの急用だったのではないかと、心配になってしまって……」
「君と過ごす以上のコトなど何も存在しないよ。放置しておけばいい」
「ですが……」
ルドの立場上、そういうわけにはいかないことなどルド自身も分かっているはず。
でも私から目を離すことが出来ない。
鳥籠に閉じ込めても、そう。ルドは安心出来ないんだ。
ううん。もしかしたら、信用出来ないっていう方が当たってるんじゃないかな。
どういう経緯で毒を盛ったのか、盛られたのか分からないけど、まぁ目は離せないわよね。
しかも、他の人間の瞳にすら私を写したくないって言ってる以上、警備を付けるわけにもいかないし。
あー。なんだかなぁ。
上手く行かないっていうか、なんていうか。
あまりの信用のなさに、少し寂しくなる。
「アーシエ、君は僕と過ごせてうれしくないのかい?」
「いいえ。それはとてもうれしいですけれども……」
「だったら、何かほかに問題でもあるのかい?」
「他にって、そんなことはないですけど」
「本当はやはり、他に想い人がいるんじゃないのか?」
「想い人、ですか?」
「そうだよ。僕以外に好きだった人がやっぱりいたってことじゃないのか?」
「え……」
え。そうなのですか、アーシエさん。
それが真実なら、ちょっと……いや、かなり不味いと思うんですよ。
ルドと言う人がいながら、何してるのよー。
やめてよ、私の命の危機がきてしまうじゃないの。
ほらまた、ルドが不穏な雰囲気になってしまったし。
もーさぁ、そんな真実とか絶対にいらないから。まだ死にたくないんです。
それにアーシエに想い人がいたとしても、もうアーシエはいない。
だからどっちにしても、変わらないのだけどね。
「私にはルド様だけですわ!」
良く分かんなくても、きっぱりココは否定しておかないと。
「だが……」
「こんなにただルド様のコトだけを想っているアーシエを、ルド様は信じてはくださならいのですか?」
「信じたいさ僕だってね」
「だったら」
でもこんなことを言う私も、ある意味卑怯よね。
ルドの想いは知っているのに。
「私には本当にルド様だけです。あの時何が起きたのか、まだ記憶は戻らないですが……。それが今の私には全てで、真実ですわ」
「そうか……」
「だからこそ、王太子であられるルド様のことが心配なのです。私などにかまけて、もし何かあったらと思うと」
「そんなことにはならないさ」
「それならいいのですか……。でも、ルド様のことが本当に心配です」
「アーシエは心配性なのだな」
「ルド様にだけですわ」
「そうか」
少なくとも、見も知らない人に満遍なく優しく出来るほどの広い心は私にはない。
だって、あくまでもココはゲームの世界。
もしかすると、ルド以外は全て敵かもしれないし。
今のところ、誰とも会ってないから何とも言えないけど。
ってそうだ。あの話はどうなったんだろう。
冗談を言い合いながら朝ごはんを食べ、その後ルドが手ずから入れてくれた紅茶を飲む。
端から見たら、これが監禁生活などと誰が思うのだろう。
本当に愛の巣にでも入れられた恋人同士としか思えない。
ただルドは王太子であり、私は貴族令嬢。
しかも、まだ婚約すら仮でしかない。
家族からの同意もなければ、私は昨日牢屋から連れられてきただけ。
幸せそうに見えても、その実は違うのだということをふとした瞬間に思い知らされる。
「本当によろしかったのですか、ルド様」
「何がだい、アーシエ?」
今ほど王宮からの遣いを、ルドはやや怒りながら追い返したところだ。
少し落ち着いたタイミングで、私は言葉を選びながら声をかけた。
「先ほどお見えになられていた方のことです。お仕事などの急用だったのではないかと、心配になってしまって……」
「君と過ごす以上のコトなど何も存在しないよ。放置しておけばいい」
「ですが……」
ルドの立場上、そういうわけにはいかないことなどルド自身も分かっているはず。
でも私から目を離すことが出来ない。
鳥籠に閉じ込めても、そう。ルドは安心出来ないんだ。
ううん。もしかしたら、信用出来ないっていう方が当たってるんじゃないかな。
どういう経緯で毒を盛ったのか、盛られたのか分からないけど、まぁ目は離せないわよね。
しかも、他の人間の瞳にすら私を写したくないって言ってる以上、警備を付けるわけにもいかないし。
あー。なんだかなぁ。
上手く行かないっていうか、なんていうか。
あまりの信用のなさに、少し寂しくなる。
「アーシエ、君は僕と過ごせてうれしくないのかい?」
「いいえ。それはとてもうれしいですけれども……」
「だったら、何かほかに問題でもあるのかい?」
「他にって、そんなことはないですけど」
「本当はやはり、他に想い人がいるんじゃないのか?」
「想い人、ですか?」
「そうだよ。僕以外に好きだった人がやっぱりいたってことじゃないのか?」
「え……」
え。そうなのですか、アーシエさん。
それが真実なら、ちょっと……いや、かなり不味いと思うんですよ。
ルドと言う人がいながら、何してるのよー。
やめてよ、私の命の危機がきてしまうじゃないの。
ほらまた、ルドが不穏な雰囲気になってしまったし。
もーさぁ、そんな真実とか絶対にいらないから。まだ死にたくないんです。
それにアーシエに想い人がいたとしても、もうアーシエはいない。
だからどっちにしても、変わらないのだけどね。
「私にはルド様だけですわ!」
良く分かんなくても、きっぱりココは否定しておかないと。
「だが……」
「こんなにただルド様のコトだけを想っているアーシエを、ルド様は信じてはくださならいのですか?」
「信じたいさ僕だってね」
「だったら」
でもこんなことを言う私も、ある意味卑怯よね。
ルドの想いは知っているのに。
「私には本当にルド様だけです。あの時何が起きたのか、まだ記憶は戻らないですが……。それが今の私には全てで、真実ですわ」
「そうか……」
「だからこそ、王太子であられるルド様のことが心配なのです。私などにかまけて、もし何かあったらと思うと」
「そんなことにはならないさ」
「それならいいのですか……。でも、ルド様のことが本当に心配です」
「アーシエは心配性なのだな」
「ルド様にだけですわ」
「そうか」
少なくとも、見も知らない人に満遍なく優しく出来るほどの広い心は私にはない。
だって、あくまでもココはゲームの世界。
もしかすると、ルド以外は全て敵かもしれないし。
今のところ、誰とも会ってないから何とも言えないけど。
ってそうだ。あの話はどうなったんだろう。
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