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しおりを挟む数名の侍女とアシスタントを連れて、子爵夫人がこの部屋へとやってきた。
この人が王妃様お抱えのデザイナーさんなのね。
歳は50近いだろうか。
ひっつめた髪をお団子のようにまとめ上げ、大きなメガネをかけている。
髪はベージュに近く、薄いブロンドといった感じだ。
首まで詰まったドレスとメガネが、キチンとした性格を表しているように思えた。
メガネあったんだ、なんてのんきなことを思う間もなく、やや厳しめな目線と言葉が飛ぶ。
「初めてお会いいたします、クランツ令嬢。この度は殿下のたっての願いということで引き受けさせていただきましたマリナと申します」
「わざわざ離宮までご足労ありがとうございます、マリナ子爵夫人」
ルドたってのってところからも、棘が痛い。
たぶんルドたってのじゃなければ、引き受けなっかったのよって言ってるようなものだもの。
「さっそくですが、お茶会へのドレスということでいくつかのパターンをお持ちさせていだきました。ご覧になりながら、まずは採寸をさせていただきます」
私の挨拶など華麗に無視し、そのままアシスタントたちに採寸の指示を送る。
アシスタントたちは無言のまま私に一礼したあと、手際よくドレスを脱がし採寸を始めた。
いきなりほぼ裸だし。
普通、採寸失礼しますとかなんかないのかな。
まるでオーナーの意向をくみ取っているかのように、アシスタントたちの動きも機械的だ。
横に立っていたサラがかなり険悪な顔をしているが、私はなだめるように首を横に振った。
急ぎで、さらに無理にお願いしているのはこっちだもの。
きっと彼女たちも、私が他に想い人が~なんて公爵家が流した噂をしんじているのかもしれないし。
そうじゃなくってもルドが囲った令嬢がワガママを言ってドレスをねだったとおもっているのかもしれない。
まぁどっちにしても、良く思っていないということだけは伝わってきた。
「どのようなドレスが令嬢はお好みなのですか?」
侍女たちにマネキンに着せたドレスたちを並べさせた。
ああ、ここから選べってことか。
ん-、どれって言われても何がいいのかさっぱり分からないし。
ドレスはピンクやグリーン水色など色とりどりで、若い子が好きそうな色が並べられている。
きっと私のために鮮やかな色を選んできてくれたのだろうなということが伝わる。
嫌だとかは思いながらも、そこは一応お仕事って思ってくれているんだろうな。
「あまり派手ではないドレスがいいのですが、私は流行りなどが分からなくて」
「……ワタクシが作るドレスはどれも伝統的な物ばかりですからね」
んんん? え、私の言葉を嫌味みたいに思ったのかな。
言葉通りの意味だったのに、きっとこの中には流行りのドレスがないって裏の意味で取られてしまったみたい。
違うのに、そうじゃないのに。あああ、もぅ。
「えっと、私ではふわふわしたような綺麗なドレスは似合わなくて」
「ではワタクシのドレスでは合わないかもしれませんね」
ちがーーーーう。
全然、話が通じてない。
こういうのって、どう言えばいいのよ。
かみ合わないのを通り越して、言葉を交わせば交わすほど険悪になっていった。
たぶんこれ以上しゃべらずに、きっと選んだ方が良さげね。
でも形がほぼプリンセスラインのように膨らんだ裾のドレスで足が見えないタイプなのよね。
これが主流だというのは分かるけど、この手のタイプは座ったり歩いたりするのはドレスが邪魔。
もっとこう、シュっとしたマーメイドみたいなのがいいんだけど。
ああ、言う勇気はもうないよ。
ふにゃりと溶けたくなる私に比べて、子爵夫人はまっすぐっていうか、堂々としているわね。
いい意味で、仕事熱心で自分の仕事にプライドを持ってる人なんだろうな。
「色は青か紫が好きなので、この水色のがいいかなぁ」
「お嬢様は淡い色よりも濃いめがお似合いですが、春ですので薄いピンクもいいのではないですか?」
ドレスを前に、ただ困り果てている私を見かねたサラが声を上げた。
その様子に、なぜかその場の全員の視線がサラに集まる。
ん? 何か変なコト言ったかな。あ、色を侍女であるサラが言ったらダメだった感じ?
でもサラ以外に誰も意見くれないんだもん、仕方ないじゃない。
「ピンクかぁ~、確かに春だしねー。それもいいかも。それにあんまり濃い色だとほら、強く見えちゃうし?」
「え、そこは強く見えても別にいいんじゃないですかお嬢様」
「えー。こんなに優しくか弱いのに?」
「でもほらお嬢様、お茶会は貴族令嬢の戦争なのですよ」
「それどうなの……」
「ファイトです!」
「うん。勝てる気がしないんだけど。お嬢様ならきっと大丈夫です」
そんな風にガッツポーズして見せてもダメです。
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