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004 おしとやかな令嬢終了のお知らせ
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会場にいた者たちは一瞬で国王陛下の方を向き、最上礼をする。
そう。先ほどまでの喧騒など、何事もなかったかのように。
しかし陛下の顔をちらりと伺えば、両脇に女性をはべらかすヒューズを睨んでいるようにも思えた。
「皆、楽しんでいるか? 今日は大事な発表があったのだが……。それは、どうも難しそうだな」
「……」
大きなため息を漏らす陛下を見ていると、こちらまで悲しくなってきた。
本当だったらこの場にはヒューズと共に入場するはずだった。
そして仲睦まじく会話などした後に、陛下から婚約の正式な発表がなされるはずだった。
この婚約はどうなるのかしら。
いえ、もうそんなものはどうでもいい。
ただそれよりも、今まで私がしてきた努力って一体なんだったのだろう。
私は唇を噛みしめた。
それでも必死に下を向かず、笑顔を作る。
「今日はゆっくり楽しんで行ってくれ」
陛下の話など、ほどんど頭に入っては来なかった。
ただ去り際に、陛下と視線があったことだけは覚えている。
「……」
このままこの場にいて何になるのかしら。
もう、帰ろう。
泣きそうになってしまうから。
こんなにつらいのに、笑顔を作っている元気もない。
公爵に挨拶をし、帰ろうとした私の前にヒューズがいた。
顎に手を当てながら、下から上まで私のことをジロジロと見て何かを確認しているようだった。
「あ、あの……ヒューズ様?」
「ん-。まだ記憶が戻ってないのか? 間違いないと思うんだけどなぁ。……だから選んだっていうのに」
「何を言っておられるのですか……」
意味不明な言葉をヒューズは独り言のように呟いた。
記憶? 間違いない?
そのために選んだ?
何に選んだのか。たぶんそれだけは分かる。
私をお妃に、ということよね。
でも、記憶って……。
「記憶は別にどうでもいいが。ただ違ったら、お前なんて必要ないからな……」
傾げたヒューズ首に、やや大きめのほくろが見えた。
その瞬間、何とも言えない気持ち悪さが背中を駆け抜ける。
ああ、知ってる。
このほくろ。
ううん、そうじゃない。
私、知ってるわ。
この人、を。
「いくら殿下であろうとも、婚姻前の女性にお前とは失礼ではありませんか?」
「ああ? お前は初めからずっとオレのものだからいいだろ」
そう言いながらヒューズは私の手首を掴んだ。
振りほどこうとしてふと、自分の手首にあるほくろが見える。
ほくろ……そう、またほくろ。
ああ、なんだ。
そういうことね。
同じだ。
前と同じところにある。
だからそれで、判断したってことなのね。
ホント、頭が悪いくせによく気づいたものだわ。
「気分が優れませんので、失礼いたします」
自分でも驚くほどの力で、ヒューズの手を上下に振り払う。
まさか私がそこまですると思っていなかったようで二人は、私を見た。
しかしもう、礼儀作法などどうでもいい。
先に仕掛けたのは、そっちなんだもの。
私はその場に似つかわしくないほどの笑みを浮かべると、周りの静止など聞くこともなく一目散に部屋に戻った。
「アマリリス様、どうされたのですか!!」
部屋に残っていた侍女たちが、扉を勢いよく開けた私を呆然と見つめていた。
「お願い。今すぐ湯浴みの用意をしてちょうだい」
「は、はい」
用意された湯船に、私は頭から浸かった。
体に移った残り香も、アイツに触られたところもすべて、洗い流してしまわなければ気がすまなかった。
よりもよって、この同じ世界にアイツがいただなんて。
私は戻ってきた嫌な過去の記憶に、吐き気すら覚えた。
そう。先ほどまでの喧騒など、何事もなかったかのように。
しかし陛下の顔をちらりと伺えば、両脇に女性をはべらかすヒューズを睨んでいるようにも思えた。
「皆、楽しんでいるか? 今日は大事な発表があったのだが……。それは、どうも難しそうだな」
「……」
大きなため息を漏らす陛下を見ていると、こちらまで悲しくなってきた。
本当だったらこの場にはヒューズと共に入場するはずだった。
そして仲睦まじく会話などした後に、陛下から婚約の正式な発表がなされるはずだった。
この婚約はどうなるのかしら。
いえ、もうそんなものはどうでもいい。
ただそれよりも、今まで私がしてきた努力って一体なんだったのだろう。
私は唇を噛みしめた。
それでも必死に下を向かず、笑顔を作る。
「今日はゆっくり楽しんで行ってくれ」
陛下の話など、ほどんど頭に入っては来なかった。
ただ去り際に、陛下と視線があったことだけは覚えている。
「……」
このままこの場にいて何になるのかしら。
もう、帰ろう。
泣きそうになってしまうから。
こんなにつらいのに、笑顔を作っている元気もない。
公爵に挨拶をし、帰ろうとした私の前にヒューズがいた。
顎に手を当てながら、下から上まで私のことをジロジロと見て何かを確認しているようだった。
「あ、あの……ヒューズ様?」
「ん-。まだ記憶が戻ってないのか? 間違いないと思うんだけどなぁ。……だから選んだっていうのに」
「何を言っておられるのですか……」
意味不明な言葉をヒューズは独り言のように呟いた。
記憶? 間違いない?
そのために選んだ?
何に選んだのか。たぶんそれだけは分かる。
私をお妃に、ということよね。
でも、記憶って……。
「記憶は別にどうでもいいが。ただ違ったら、お前なんて必要ないからな……」
傾げたヒューズ首に、やや大きめのほくろが見えた。
その瞬間、何とも言えない気持ち悪さが背中を駆け抜ける。
ああ、知ってる。
このほくろ。
ううん、そうじゃない。
私、知ってるわ。
この人、を。
「いくら殿下であろうとも、婚姻前の女性にお前とは失礼ではありませんか?」
「ああ? お前は初めからずっとオレのものだからいいだろ」
そう言いながらヒューズは私の手首を掴んだ。
振りほどこうとしてふと、自分の手首にあるほくろが見える。
ほくろ……そう、またほくろ。
ああ、なんだ。
そういうことね。
同じだ。
前と同じところにある。
だからそれで、判断したってことなのね。
ホント、頭が悪いくせによく気づいたものだわ。
「気分が優れませんので、失礼いたします」
自分でも驚くほどの力で、ヒューズの手を上下に振り払う。
まさか私がそこまですると思っていなかったようで二人は、私を見た。
しかしもう、礼儀作法などどうでもいい。
先に仕掛けたのは、そっちなんだもの。
私はその場に似つかわしくないほどの笑みを浮かべると、周りの静止など聞くこともなく一目散に部屋に戻った。
「アマリリス様、どうされたのですか!!」
部屋に残っていた侍女たちが、扉を勢いよく開けた私を呆然と見つめていた。
「お願い。今すぐ湯浴みの用意をしてちょうだい」
「は、はい」
用意された湯船に、私は頭から浸かった。
体に移った残り香も、アイツに触られたところもすべて、洗い流してしまわなければ気がすまなかった。
よりもよって、この同じ世界にアイツがいただなんて。
私は戻ってきた嫌な過去の記憶に、吐き気すら覚えた。
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