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002 病弱な妹中心の世界
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どれだけ部屋の片隅で耳を塞いでいただろうか。
あれだけ降り注いでいた日差しはやや陰り、窓の外がほんのりと薄暗くなってくる。
隣からは笑い声はもう聞こえない。
それが余計に不安にさせる。
マリンの部屋を確認しに行こう。
そう思った瞬間、部屋のドアがノックされた。
「はい」
「ごめん、ぼくだよ」
「リオン!」
私はドアに駆け寄り、彼を出迎えた。
長時間経っているせいか、彼はややバツの悪そうな顔をしている。
「遅くなってごめんな、アイラ」
「ううん。大丈夫よ」
そう言いながらも、私は彼を抱きしめた。
彼はただ優しく、私の頭をなでてくれる。
「久しぶりだから、つい長くなってしまったよ。君に会いに来たのに」
「そう思うなら、今度は二人でどこかデートしてくれる?」
「ああ、もちろんさ。でも、マリンも中々外出もままならなくて、大変だな」
「……そうね」
そう返したものの、あまり私もよくは分かっていない。
マリンは子どもの頃から病弱だ。
普段は元気でいるのに、何かイベントがあると必ずといっていいほど、熱を出してしまう。
こうやってリオンが来るのが決まった日。
お誕生日。何かのお祝い。
その前日までは確かに元気だったというのに……。
だけど病気なのだから仕方ない。
一番悲しんでいるのは、マリン本人なのだから。
どれだけのイベントが中止になっても、そう言われ続けていた。
だから最近は何かイベントがあるとわかったその瞬間から、ああまたなのかと思ってしまう自分がいる。
それが嫌で仕方なかった。
「次のデートはマリンにサプライズのプレゼントが買いたいから、内緒にしていてもいい?」
「ん? 別にぼくは構わないよ。何か買いたいものでもあるのかい?」
「新しいお菓子のお店が出来たみたいなの。あの子ほら、すぐ熱を出してしまうからそういうの食べにもいけないでしょう?」
「あー、確かに。それはよさそうだな。さすがアイラ。君は優しいね」
本心は何も優しくなどない。
ただこの心優しい私の婚約者を一人占めしたいだけ。
彼は今、王立の学園に通っていてあと少しで卒業の身だ。
卒業すれば、彼は王宮の管理官になるらしい。
就職がキチンと決まったあと、私たちは結婚となる。
長かった。
この婚約はまだ私が子どものころに結ばれたものだ。
初め彼はマリンの婚約者になる予定だったらしい。
しかしマリンが病弱なため手元に置きたい両親が、ここの相続をマリンに、彼との婚約を私とした。
私としては家なんかよりも、彼との婚約の方が何倍もうれしかったのを今でもハッキリと覚えている。
「リオン、好きよ」
「なんだい、急に」
ただ伝えたかっただけ。
だけど照れくさく笑うリオンは私の欲しい言葉を返してはくれない。
しかしその代わりに、彼は私のおでこにキスをしてくれた。
早く春が来ないかな。
またイベントをマリンに潰されないかと思いつつも、私はそれが待ち遠しく思えた。
あれだけ降り注いでいた日差しはやや陰り、窓の外がほんのりと薄暗くなってくる。
隣からは笑い声はもう聞こえない。
それが余計に不安にさせる。
マリンの部屋を確認しに行こう。
そう思った瞬間、部屋のドアがノックされた。
「はい」
「ごめん、ぼくだよ」
「リオン!」
私はドアに駆け寄り、彼を出迎えた。
長時間経っているせいか、彼はややバツの悪そうな顔をしている。
「遅くなってごめんな、アイラ」
「ううん。大丈夫よ」
そう言いながらも、私は彼を抱きしめた。
彼はただ優しく、私の頭をなでてくれる。
「久しぶりだから、つい長くなってしまったよ。君に会いに来たのに」
「そう思うなら、今度は二人でどこかデートしてくれる?」
「ああ、もちろんさ。でも、マリンも中々外出もままならなくて、大変だな」
「……そうね」
そう返したものの、あまり私もよくは分かっていない。
マリンは子どもの頃から病弱だ。
普段は元気でいるのに、何かイベントがあると必ずといっていいほど、熱を出してしまう。
こうやってリオンが来るのが決まった日。
お誕生日。何かのお祝い。
その前日までは確かに元気だったというのに……。
だけど病気なのだから仕方ない。
一番悲しんでいるのは、マリン本人なのだから。
どれだけのイベントが中止になっても、そう言われ続けていた。
だから最近は何かイベントがあるとわかったその瞬間から、ああまたなのかと思ってしまう自分がいる。
それが嫌で仕方なかった。
「次のデートはマリンにサプライズのプレゼントが買いたいから、内緒にしていてもいい?」
「ん? 別にぼくは構わないよ。何か買いたいものでもあるのかい?」
「新しいお菓子のお店が出来たみたいなの。あの子ほら、すぐ熱を出してしまうからそういうの食べにもいけないでしょう?」
「あー、確かに。それはよさそうだな。さすがアイラ。君は優しいね」
本心は何も優しくなどない。
ただこの心優しい私の婚約者を一人占めしたいだけ。
彼は今、王立の学園に通っていてあと少しで卒業の身だ。
卒業すれば、彼は王宮の管理官になるらしい。
就職がキチンと決まったあと、私たちは結婚となる。
長かった。
この婚約はまだ私が子どものころに結ばれたものだ。
初め彼はマリンの婚約者になる予定だったらしい。
しかしマリンが病弱なため手元に置きたい両親が、ここの相続をマリンに、彼との婚約を私とした。
私としては家なんかよりも、彼との婚約の方が何倍もうれしかったのを今でもハッキリと覚えている。
「リオン、好きよ」
「なんだい、急に」
ただ伝えたかっただけ。
だけど照れくさく笑うリオンは私の欲しい言葉を返してはくれない。
しかしその代わりに、彼は私のおでこにキスをしてくれた。
早く春が来ないかな。
またイベントをマリンに潰されないかと思いつつも、私はそれが待ち遠しく思えた。
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