【完結】妹の代わりなんて、もううんざりです

美杉日和。(旧美杉。)

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003 突然の提案

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 その夜の食事は、久しぶりに家族四人でとることとなった。
 
 普段王宮に出入りする父はとても忙しく、中々こうやって食事を囲むことが難しいのだ。

 朝から熱を出していたマリンも、リオンと話しているうちに元気になったのだという。
 思うことはたくさんある。
 だけどそれを口にすることは、我が家では許されないことだった。

「いやぁ、本当に今は大変だよ」

 ワインをかたむけながら、父が一番に口を開いた。
 父の忙しさの原因は、数か月前に王位継承が行われたためだ。

 しかもただ普通にそれが行われたのではなく、恐ろしいほどの争いがあったのだという。
 その中身までは広く表ざたにはなっていないものの、本来継承するはずだった第一王子ではなく、末の第三王子がその席についた。

 その混乱もあって、王宮内は今総入れ替えの最中らしい。

「あなた無理はなさらないで下さいね」

 城に寝泊まりすることも多い父が体を崩すのではないか。
 心配性の母は、いつもそればかり気にかけていた。

「ああ、分かってるよ。だが少し問題が起きてな」
「何かあったんですの?」

 父と母の話を小耳にはさみながら、私もマリンも食事を続ける。
 熱が下がったというマリンは確かに顔色も良かったが、この話にはどこか興味がなさそうだ。

 リオンと会話していた時と違い、私の真正面に座るマリンはこちらを見ようともしなった。

 別にマリンと会話したいわけでもないけど、なんだかなとだけは思う。
 
「即位された国王陛下には、元より婚約者なども誰もいなくてな。急遽、その選定が行われることとなったんだ」

 この国のお妃さまになるための選定ね。
 お妃教育とかもあるってことよね。

 試験とかそういうのを行って、その中から選ばれるのかしら。

 今まで国王陛下となられるような方は、即位されるよりも前から婚約者がいるのが普通だった。
 貴族だってそう。
 基本的には子どもの頃に、親たちが決めてしまうのだ。

 だけど今回即位された方は末弟だったこともあって、婿にでもと考えられていたはず。
 外交的な意味合いからして、婚約者がいなかったってことかしら。

 でも、年頃の貴族の娘でってなったら、みんなすでに婚約している人たちばかりじゃないのかしら。

「わたし、それに参加したいわ、お父様!」

 先ほどまで全く興味なさそうにしていたマリンが、声を上げた。
 
「マリンは確かにその要項には当てはまるが……」
「でもその選定は厳しいのではないの?」
「大丈夫よ、お母さま。わたし頑張れるわ。だって、この国の王妃さまになれるかもしれないのよ? こんなチャンス二度とないじゃない」

 マリンの言葉に、父と母は顔を見合わせていた。
 確かにマリンには婚約者はいない。

 しかしそれはこの子が体が弱く、この屋敷を継ぐから。
 いつかこの家のために婿となる候補を見つけるつもりだったはず。

 それに私の婚約はすでに決定していて、結婚もそう遠くはない。
 結婚すれば私はこの家から出て行く身なのだ。

 もし仮にマリンが王妃になったら。
 この家はどうなるのかしら。

 私のそんな心配などまったく気にする様子もなく、マリンはただ夢を見ているようだった。
 
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