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 高く取った天窓からは柔らかな光が降り注いでいた。

 私はその光を仰ぎ見ながら、湯船に浸かり込む。

 湯船からは私が入った分のお湯が溢れ出し、浮かべられた花びらが下へと落ちた。

 私を囲む侍女たちはそんなことに気を取られる様子もなく、私が伸ばした腕にマッサージをし出す。

 自分で言うのもなんだけど、白魚のような手は何の苦労も知らない。

 ナイフとフォーク以外の重いものなんて、持ったこともないんだもの。

 侍女たちはその手を優しく、そして慈しむように磨き上げてくれる。

 思わず『あ゛あ゛あ゛』と出そうになる声を必死に抑えた。

 そんな声を出せば、完璧な王女と言われる私の名に傷がついてしまうもの。


「ああ、今日も王女様はお美しいわ」

「ふふふ。ありがとう。みんなのおかげよ」

「そんな。王女様がお美しいのは、もう生まれ持ってのものですわ」

「そうかしら」

「そうですよ。ああ、本当にお綺麗だわ。こんなにお綺麗でお優しい王女様にお仕え出来て幸せです」

「もう、おおげさねぇ」


 侍女が私の細く柔らかく伸びた金の髪を、洗い流していく。

 自分で何もしなくても、ココでは本当に至れり尽くせり。こんな幸せがあってもいいのかしら。

 美人って本当に得ね。ああ、でもただの美人じゃなくて、この国で誰よりも愛される王女様だからかな。

 本当に良かったと思うわ。

 あんなどん底の中で死んだ時は、神様を恨みまくったけど。

 これならプラスマイナス以上の話だし。

 私はこの王女となる前のことを、ぼーっとする頭で考えていた。



     ◇     ◇     ◇



「ねぇ、どうなっているのよ!」

 純白のドレスの裾を強く握りしめた。

 シワは跡になることも気にならないほど、私はスマホの画面を凝視する。

 何通も送ったメールも、何度鳴らした電話も全てスルーされていた。

 何で今日なの? 何で?

 だって今日は……。


「あの……新郎様は……」


 申し訳なさそうに近づいてきたスタッフの一人が声を上げた。

 支度に時間のかかる私よりも彼は一時間遅れてこの会場に入る予定だった。

 付き合って三年。同棲して一年。そして今日は彼氏という立場から、夫となる予定だったのに。

 なんで? なんで電話に出ないの?

 もしかして事故に遭ってしまったとか。でもどっちにしても、最悪の状況であることには変わりなかった。

 今日のこの式の支払いのお金も彼が持ってきてくれるはずだったし。それに主役は二人揃わないと始めることは出来ない。


「なんで電話に出ないのよ!」


 泣いていいのか、怒っていいのか。それすらも分からない。

 しかしその後、自宅を見に行ってくれた真実は私にとっては諦められないものだった。

 一言で言ってしまえば結婚詐欺。

 それでも四年も一緒にいたのに。彼には私に対する愛情は一ミリもなかったのかな。

 家の家具も式のお金も全部持って、彼は綺麗さっぱり消えてしまっていた。


「ホント、馬鹿みたい……」


 慰めてくれる友だちたちさえ振り切り、私はドレスのまま外に飛び出した。

 私の気持ちを汲み取ったように、急に空から大粒の雨粒が降り注ぐ。


「なんで今日だったの? お金ならあげたのに。こんなに惨めな捨て方なんて酷すぎる……」


 私が何をしたというの?

 彼の色に染まりたくて、何でもずっと頑張ってきたのに。その結果がコレって終わっているでしょう。

 結婚したら家庭に入って欲しいって言った言葉はなんだったの。

 今日で私はお金も仕事も恋人も全部なくしてしまった。


「惨めだ……」


 この雨が涙を隠してくれることだけが、せめてもの救いだった。

 街中を足早に行き交う人たちは、私を見ては怪訝そうな表情を浮かべても誰も声をかけてはこない。

 私だけがこの世界で浮いてしまってるみたい。異物、ね。これでは。

 はははっと笑ったところで、いろんな人の悲鳴が耳に入ってきた。

 振り返ると、そこには暴走するトラック。

 全てがスローモーションのようにゆっくりとなっていたが、私にはもう逃げる気力すら残ってはいなかった。

 最低だった人生なんて、こっちから願い下げよ!

 つんざくような音と、冷たくなったアスファルトに体温が奪われていく感じ。

 そして誰かの叫び声が転生前の最後の記憶だった。

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