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「二度と戻りたくないわね」

「王女様、どうかされたのですか?」

「あー。なんでもないのよ。昨日読んでいた本の内容が、ね」

「王女様は博学でいらっしゃますからね」


 一瞬驚いた様な表情をした侍女が、何もなかったかのように話し出す。

 危ない、危ない。無意識だと、どうしても過去の私が出てきてしまうのよね。なんせあっちでは29年も過ごしたから。ここでの17年に比べたら半分くらしだし。

 しかも王女って思っているよりも職業としては暇。

 やることと言ったら、本を読んだり音楽を聴いたり、たまーーーーーーーに慰問に出かけたり。ほぼこの城の中で過保護に育てられているのよね。

 初めはこんなので大丈夫と思ったけど、慣れてしまえば悠々自適な生活といえる。

 だってほぼゴロゴロして好きなことしかしてないんだもの。

 イケメンの騎士を眺めて目の保養をしつつ、優しい侍女たちとおしゃべりだけでいいなんて。

 前の世界になんて死んでも戻りたくないわ。ま、死ななきゃ戻れないんだけど。


「王女様! 王女様! 大変です!」

「どうしたの、そんなに慌てて」

「王女様の御前でそんな風に取り乱すだなんて」

「で、でもこれは一刻を争うことで……」

「いいわ。どうしたの?」


 息も絶え絶えでなだれ込んできた侍女を叱るほど、私は心が狭くないのよ。


「こ、国王様が王女様をお呼びでして……すぐに来るようにと」

「お父様が? 急に何かしら」


 こんな風に急に呼び出されたのは初めてね。侍女もこんな風に慌てている所を見ると、あんまりいい予感はしないんだけど。


「あなた何か聞いてる? こんな風に急に私をお父様が呼び出すだなんて」

「あの……それは……」

「別に怒りはしないから言ってちょうだい?」


 私の言葉に侍女は膝から床に崩れ落ちた。

 
「ああ。濡れてしまうじゃない」


 驚く私など気にすることなく、侍女は顔を押さえさめざめと泣き出した。


「申し訳ございません……」

「な、何を謝っているの? 言ってくれないと分からないわ」

「王女様の御結婚が決まったと……」

「んんん、え、結婚!?」


 さすがに寝耳に水とはこのことね。今まで一回だって、そんな話は出て来なかったのに。

 しかも泣きながら謝る侍女を見れば、その嫁ぎ先がマトモではないのだろう。

 私は勢いよく湯船から立ち上がると、先ほどまでマッサージや髪を洗ってくれていた侍女たちに指示を出した。


「すぐに用意してちょうだい。謁見します!」

「はい王女様」


 侍女たちは声を揃えながら素早く行動に移した。 
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