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 誰にも見送られることもなく、無言のまま一人向こうが用意した馬車に乗り込んだ。

 馬車は明らかに王族が乗るようなそれではなく、簡素なものだった。

 それが余計に惨めさを誘う。

 
「はぁ」


 かの国まではここから一日はかかるだろう。

 それなのにこの馬車って失礼すぎでしょう。クッションもぺったんこだし。

 せんべい座布団って表現がむしろぴったりよ。

 今時ここまで使い古されたのとか、ある?

 絶対にお尻も腰も痛くなるし。嫌がらせもここまでくると極まれりね。

 おまけに御者は愛想もなく、一人で馬車に乗りこまなきゃいけなかったし。

 あり得なさすぎ。これは私じゃなければ心折れてるわ。

 んで、こっからの俺の心は寛大だとかやっちゃう系かしら。

 落としてから優しくするとかって常套手段だけど、イマイチ古臭いのよね。


「どこかで休憩をはさむのですか?」


 安定に私の質問はスルーなのね。ホント、雇い主が雇い主なら、その下も同じようなものね。

 考えるのはやめよう。どうせ泣き叫ぶの待ってるだけだろうし。

 馬が疲れたら休憩しないわけにもいなかいから、それまで寝ちゃおう。

 残念ね、私は思い通りには動かない女なのよ!

 そんなことをぶつぶつと一人呟きながら、私はせんべい座布団を丸めて枕にし、横になった。

 どれだけお腹が空いても、馬車は休むことなく走り続けた。

 日が傾きかける頃にはすでに街並みはどこにもなく、見えるのは鬱蒼と茂った木々だけ。

 城から出たことがない王女には、さぞ心細いことだろう。

 ああ、可哀そうな私。

 そろそろさすがに喉も乾いたけど、飲むとトイレ問題が発生するのよね。でもそれは私だけではないはず。

 御者だって人間だもの。そろそろだと思うのよね。

 すると、ガタガタという大きな音を立てながら馬車が止まる。


「いったーい!」


 その勢いで座席から滑り落ち、尻もちをついた。

 無防備に寝っ転がって私も悪いのだが、さすがにこれはない。

 打ち付けたのが尻だけだったからいいものの、顔などに傷が付いていたらシャレにならないし。


「止まるなら止まるって、言いなさいよ、ホントになんなのよまったく。いくら扱い雑でいいって言われてたってねぇ、物事のは限度があると思うんだけど?」


 これでも貢物なのよ、貢物。プレゼントは丁重にって言葉はあの国にはないのかしら。 

 腹に据えかねた私は自分で馬車の扉を開け、外に出る。

 逃げ足が速いのか、よほど用を足すのを我慢していたのか御者はその席にいなかった。

 不安がらせようとしているのでしょうね。こんなところでも。

 真っ暗な闇深い森の中に一人残されるわけだもの。たった17歳で国から出たこともない王女だったら……。


「ああ、可愛そうな私」


 お水探しに行きたいところだけど、さすがにトイレ我慢できなくなっちゃうからやめとこう。

 それにきっとそのうち戻って来るでしょう。だって私はあの王の大切な貢物なんだから。

 気配はないものの、きっとどこか遠くから騎士か何かが監視している。

 そんな気がしてならなかった。
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