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「ずいぶんとしつけがなっていない姫が来たものだ」


 赤と金で統一された謁見の間で、ふんぞり返るこの国の王は大変ご立腹のようだった。

 まぁそれもそのはずだ。

 怯え、衰弱しきった姫が送り届けられると思っていたのだろうが、私は勝手知ったるとばかりに馬車が到着するとすぐにそこから飛び出したのだから。

 目的はお手洗いとお水。

 城の造りというのは、構造上どこも似たような造りになっている。

 だからその場にいた者たちを無視し、強引にでも場所を見つけることが出来た。

 そして散々国王を待たせた挙句、今に至るという。

 だってねぇ。私、我慢とか嫌いだし? それに全部が思い通りに行くとか思ってるあたりが許せないのよね。

 
「あら、お待たせしてしまって申し訳ありません。ですが王よ、女と言うものは支度に時間がかかる生き物なのですよ? そうですわよね、王妃様方」


 私は国王の両横にずらりと並ぶ王妃様たちに声をかけた。

 総勢12名。結構な顔ぶれね。みんな今日出るように言われたのだろうけど。どの王妃たちも国王の顔意ををちらちらと窺っているだけだし。

 そうみると、関係性が良く分かる気がする。

 まぁ初めから良好な夫婦関係なんて無理だとは分かっていたけど。ホント大概だなぁ。



「ここにいる王妃たちはどれもお前と違って従順な者たちしかおらぬわ」

「まぁ。では私は毛色の違う猫という感じなのですね」

「よく回る口だな」

「そうですか? 知っていて娶りたいとおっしゃられていたのかとお思いでしたわ。これは申し訳ございません」


 中身を知りもしないで、強引に娶ろうとするからでしょう。自業自得よ。当面、扱いずらいくらいに思っていただかないと。

 簡単に屈してあげたりなんてしないんだから。


「これは本格的に慣らさないとダメだな。どこに嫁いできたのかと言うことを」


 こっちだって嫁ぎたくて嫁いできたわけじゃないのよ。そんな風に睨んだところで、私には効果はないから。

 ただ涼やかな顔で微笑み返せば、ますます国王の顔は赤くなっていった。

 青筋まで立てる様子に、王妃たちはソワソワし始める。

 
「お、王女様、この方は夫となるお方なのですよ。そんな風にわざと怒らせるような真似はおやめください」


 いたたまれなくなったのか、王のすぐ隣にいた王妃の一人が声を上げる。震えているものの、明らかにその目はやめた方がいいと私に訴えかけていた。

 私だって別にこの王を刺激したいわけではないし、このままこの国で生きていくのなら怒らすのが得策じゃないことなど分かってはいる。

 でも無理して結婚した先に、不幸しかないのにそのまま生きていたくなんてない。そう思えてしまうのだもの。

 もちろん前回みたいに次があるなんて限らないし、私は私でしかないから出来れば長生きはしたいけど。

 苦痛の中で長生きしても楽しくないんだもん。


「私は私として思ったままを口にしていたのですが、不快にさせてしまったのならば謝りますわ」

「本当に分からないようだな」


 玉座からずかずかと音がしそうなほど大股で、国王は私に近づいてきた。

 背は私の頭一つ分ほど大きく、ガタイもいい。齢60を超えていると思えないほど、茶色く焼けた肌は艶やかだ。

 しかしその赤い瞳はかけらも笑ってなどいない。

 そしてその太い腕を振り上げ、私の頬をそのまま叩いた。

 大きな、そしてやや高い音が室内に響き渡る。


「いっっっつつたぁーーーい」


 しびれるような感覚に、耳の奥にキーンという甲高い音が鳴り響く。

 私はそのまま横に吹き飛ぶように倒れ込む。

 焼けつくような、と表現がぴったりくるほど叩かれた頬が痛い。

 頬だけじゃなく頭もだ。

 最低。本当に最低。よりによって手を上げるだなんて。

 私は国王を見上げ、睨みつけた。

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