異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉日和。(旧美杉。)

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015 ぴょ??

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「ルルド!」

 逃げなければ、と頭では理解していても、新しい命が目の前で生まれてくる。
 そんな神秘的な光景から、ボクはどうしても目を離すことが出来なかった。

 卵の殻を破ったくちばしが外に少し出て来たかと思うと、勢いよく頭、次に足が外に出てくる。
 ぽろぽろと崩れていく殻を踏みながら、ヒナは転げるように姿を現した。

「……すごい」

 全体がかなりもふもふとした灰色の羽に覆われたひな鳥。
 あの親鳥とは色がまったく違い、羽にその模様もない。

 これは大きくなったら羽は変わる感じなのかな。

 ただただそんなぼんやりとヒナを見ていると、その黒く大きな瞳と視線がぶつかる。
 そこで初めて、意識が浮上した。

 いけない。リーシャを連れて逃げなきゃ。

 リーシャの位置を確認するために視線を逸らす。

「ぴょ?」
「え、あ。ぴ、ぴょ?」

 ボクに近いくらいの大きさがあるヒナの、似つかわしくないほど可愛らしい声。
 思わず返事を返すと、ヒナは小首をかしげながら真っすぐにボクを見ていた。

「ぴーよーーーーー」

 鼓膜が破れてしまうのではないかというような、大きなヒナの声。
 その声に、その場にいた全員が戦闘態勢に入ったのを感じた。

 やっぱりこんなに小さくてもモンスターであることは変わりないんだ。

 俊敏に動けないボク目がけてヒナが距離を詰めてくる。
 
 避けられない。
 そう思ったボクはキツク目を閉じた。

 しかしいくら待っても、衝撃は訪れなかった。
 むしろ、もふもふした羽がボクにぼよんぼよんと当たっている。

「えええ。な、なに?」

 ヒナはボクとの距離を詰め、まるで体を撫でろとばかりにこすりつけていた。

 えっと、この状況はなんていうのかな。
 え、これどーするの。

「ランタス、これ、どうなってるの?」

 思わず意見を求めると、ランタスは額に手を置きながら大きくため息をついていた。
 
 その様子を見て、なんとなくボクは事態を理解しつつあった。

「もしかしてボク……親鳥って間違われてる?」
「ぴょ?」
「ぴ、ぴよ……」

 ヒナと同じ言葉を返すと、ヒナは目を細めて満面の笑みを表現しているようだった。
 
 えええ。さすがにこれはマズイよね。
 だって相手はモンスターだし。
 ペットじゃないんだから。

「ランタスぅ」
「ランタス、アレどうするんだ?」
「どうするも何も……」

 ランタスは息絶えている親鳥に視線を落とした。
 そうだ。
 ボクたちが親鳥を殺してしまった。

 人を襲い、討伐対象だったとはいえ、この子の親であることは変わりない。
 しかも親鳥が人を襲った理由も、この子のため。

 本当は、どうすれば正解だったのかな。
 モンスターである以上、親鳥は追い返しても追い返しても人を襲っていたようだった。
 だから本来なら討伐対象ではなかったのに、結果はコレだ。

 だけど今目の前にいるこの子には、それは何にも関係のない話で。
 ボクたちはこの子の敵でしかない。

 あの親鳥が必死で守りたかったもの……。

「その鳥は討伐対象ではない。元々その種族は狂暴化などする例はほぼなく、今回の討伐は特例だと言われただろう」
「じゃあ、そのまま放置しておくのか?」
「本来ならば、な。だが……。ルルド、一度こっちに降りてきてくれ」
「ああ、うん」

 足元にすり寄ってきていたリーシャを抱きかかえると、ボクは巣から脱出する。
 
「わっ、わぁ」

 寄せ集めた木で出来た巣に足をとられ、思わず転びそうになる。
 そんなボクの服を、上から誰かが掴んだ。

「あ、ありがとう。って……」

 転ばないようにボクのフードを掴んでいたのは、ヒナのくちばしだった。
 ボクがお礼を言って見上げると、ヒナはやはり満面の笑みだ。

「あ、あのね? ボクは君の親じゃないんだよ?」
「ぴょ?」
「ぴよぴよ」

 ぴよぴよ言ったって、言葉が通じないことくらいは分かる。
 いくらボクが獣人だって、モンスターとは会話出来ないよ。
 どうしたらいいんだろう。

「うーーー」

 ボクが歩けば、その後ろをぴったりと付いてくるヒナ。
 これ、本当に完璧に勘違いしちゃってるよね。

「やはり親鳥だと思われているようだな」
「……だよね?」

 ヒナの行動を見ていたランタスが声を上げた。
 これを確認するために、ボクを呼んだらしい。

 どうすればいいんだろう。
 言葉が通じない以上、何を言っても意味がないし。

「どうするんだ、これ。想定外すぎるだろう」
「……確かにそうだな」

 ランタスがボクとヒナを交互に見た。
 そしてもう一度ため息をついた後、ボクに問いかける。

「ルルドはどうしたい?」
「どうって、どういうこと?」
「このままではヒナはルルドを親として、ずっとついていくことになる。だが今ここで殺してしまっても、誰も分かりはしない」
「え?」
「ここには証言者などいない。ルルドが迷惑ならば……」
「おい! ランタス、おまえなんてコト言うんだよ‼」

 ものすごい形相のガルドが、ランタスの胸ぐらをつかんだ。
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