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終わりと出会い

男の事情2

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男は俯きながら話し始めた。

「シオンは冒険者だと言ってたがフォルトの街の現状を知らないのか?」
「13日前から街から離れていたから知らないわ」

「そうか・・タイミングが悪かったんだな。突然12日前から隣国サボン王国の情勢が悪化したんだ」
「サボンが?」

サボンは現在居るオーレント王国の南にある国であり、乾燥地帯で砂漠が多く存在する国である。フォルトの街はサボン王国との国境にあり、サボン王国の首都サルドと近いためサボン王国の影響を受けやすい。そのため、サボン王国の情勢が悪化するとフォルトの街は打撃を受けることとなる。

「あぁ本当に前触れもなくいきなりさ。」
「前からサボン王国が情勢が安定していないとは聞いていたけど・・・詳しい情報は入ってきたの?」
「公爵による革命だとよ。王都に軍を率いて現在も交戦中だって聞いた本当に迷惑な話だ。クソッ」

ラドは、忌々しそうに顔を歪め吐き捨てるように言うと地面に拳を打ち付けた。

「サボン王国は、最近先代の王が急死したことによって長男の王太子が王位を継承したって話だけど・・・それからよね、情勢が安定しなくなったのは」
「あぁ・・・情勢安定しなかったが特にフォルトの街に影響は無かっただから油断してたのさ大丈夫だと」

サボン王国の話は冒険者組合でも話題となっていた。先代の王の死因に不可解なことがあることや、王太子による暗殺なのではないかなどが囁かれサボンに行く冒険者は減少していった。冒険者にとって滞在する国が安定しているかは重要な要素である。情勢が安定しなければ、治安が悪くなり安心して滞在できる場所が減り素材の価値も下がったり買い叩かれる可能性があるため冒険者は近寄らなくなってしまう。その影響をフォルトの街も受けたのだろう。

「サボン王国の情勢が悪化してからフォルトの街に居た冒険者はすぐに引き上げてイエリ―の街まで下がっちまった。乗り合いの馬車も来なくなり、フォルトの街から出たら返ってこない。町はピリピリとしてサボン王国から逃げてくる奴らの対応に追われて物資も不足した。普通の街だったのにあっという間にボロボロだ」
「そんなことが・・・イエリ―の街や王都から支援は無かったの?王都やイエリ―の街だって他人事じゃないはずよ」
「領主は、街は安全だと言って支援を申請してないんだ。」
「何故?どう考えても助けが必要な状態でしょ?」
「オーレント王国は、街を持っている貴族が2人しかいないから失態が発覚すれば簡単に切り捨てられるんだ。あのクソ領主」
「自分の街を失いたくないから支援を申請しないのね・・・最悪ね」

段々明らかになるフォルトの街の現状にシオンは顔を歪めながらも状況整理していく。

なるほどね・・・だから街道を通る人影がないのね。町の治安が悪くなれば冒険者が居なくなるのも当然ね。冒険者は身軽だから簡単に街を移動できるし、街の情報を手に入れるのも早いから近づくことも無くなるわね。でも、もっとフォルトの街から逃げてくる人が居ても可笑しくないわよね。

「フォルトの街から逃げてくる人が貴方達以外見てないけどそれはどうしてかしら?」
「領主が街から出ることを制限してるんだ。サボンから逃げてきたもしくは侵入した人が街から逃がさないようにってな」
「サボン王国から重要人物が逃げてきた場合もし、オーレント王国に侵入し取り逃がしたら領主の責任となるしサボン王国から批判を受ける可能性があるものね。そうだとしても、人の出入りを制限するなんて相当逼迫してるのね」
「貴方達はどうして出てこられたのかしら?いえ、訊き方を変えるわ。どうしてそこまでして、街から出てくる必要があったの?」
「俺の娘マナがリンテン病になったんだ・・・」
「リンテン病なら薬があるはずよねそれはどうしたの?」
「街の中でリンテン病の大流行が起きたんだよ。兵士やお偉いさん方も罹って薬が一般人まで回ってこないんだ」
「それは・・・誰かが鱗粉を持ち込んでしまったのね」

リンテン病は、皮膚に輪っかのような模様が浮かび上がり高熱と頭痛、節々に痛みが発生する病気だ。リンテン病に対しての特効薬はあるがフウリン草という高い薬草を使うため薬が高くなる。リンテン病の原因は、ツリーバタフライやツリーモスといった蝶や蛾の魔物の鱗粉を吸い込むことによって発症する。おそらく誰からしらが魔物と戦い鱗粉を街の中に持ち込んでしまったのだろう。それか、冒険者が居なくなったことによって大量発生したか。薬で治療しなけらば命に関わる病気である。大人なら一週間半ほど持つが子供は一週間持つか厳しい。

「なるほどね・・・薬の為にイエリ―の街を目指してたのね」
「そうだ・・・冒険者は居なくなってしまったし、残っているのは荒くれどもだけで雇う金がない。町を抜けるために衛兵に金を渡さなければならなかったし、薬の為の金も必要だったんだ・・・」

後悔が滲み出た声で叫ぶと、ラドはまた俯きながら泣き始めた。

「俺がもっとしっかりしていれば!俺が戦えれば!もっと金が有れば!クソ、クソッ」
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