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23、やっと退院

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冷司の病状は時に悪くなり、内科病棟とリハビリ病棟を行ったり来たりで、退院が許されたのはすでに4ヶ月超えてしまっていた。
結局退院してもまだ車いすが必要で、リハビリにはできるだけ光輝が付き合うことになった。

光輝はすでに樹元家に越してきていて、階段が上れない冷司の為に兄の美紗貴と2人で色々と受け入れ準備を始めていた。
お父さんの書室兼仕事部屋から、デスクと椅子を別の部屋に移動し、壁の本棚に入らない本をお父さん達の部屋に移動させて、部屋を1つ作る。
それほど広くない部屋だが、二重窓で冷暖房効率がいいらしい。
ベッドは美紗貴が知り合いの家具屋にセミダブルを頼んだのに、何故かダブルが来て、途中で変更の電話があったからと言われた。
誰がと教えてくれない家具屋に、光輝は真っ赤な顔で自分じゃ無いと否定したけど、信じてくれない。
光輝は夜遅く帰るので、ベッドの横に布団敷いて寝ますと美紗貴に言い張った。

「いいんじゃないの?君ら恋人なんだし、一緒のベッドで。その為のダブルでしょ」

「ちっ違いますって!マジ俺じゃ無いんですってば。俺は~、横に布団敷いて寝ますから!」

「意地張るなよ、光輝クン。うんうん、僕はなんっとも思ってないから!」

「だから~違うんですってば!」

くっ、これで余計一緒に寝にくくなった。
あー、冷司になんて言おう。

悩む光輝をよそに、兼ねてから段差解消工事は始まる。
冷司にとって今回の現場が自宅だけに、父親も来てリフォームをすることになった。
車いすでも生活出来るようにと言うのは、なかなか大変だ。
しかし、それより問題は。

「冷司のお父さん、あの……ベッドは……」

「んー?何のことかわからんな」

「俺まだなんも聞いてませんけど?」

「はっはっはっは、仲良きことはいいことだよ。
まあ、冷司をよろしく頼む」

「それはもちろんですけど~、ですね。ベッドを大きくしたの冷司のお父さんでしょ?」

「その冷司のお父さんって、聞いてて面倒くさいねえ、お父さんでいいよ光輝クン」

何だか冷司の父親は笑ってごまかし、答えてくれない。
美紗貴はニヤけてるし、光輝は何だか居場所がない。
そうしてバタバタしているうちに、ようやくの退院の日が来た。
休日交代してもらって、光輝は冷司の兄美紗貴と2人で迎えに行く。
母親は、すでに家を出て父と暮らしている。
父親は仕事が忙しく、また来ると帰ってしまった。

兄のデカいRV車に乗ると、冷司が嬉しそうにはしゃいで、見たこと無いほど笑っている。
よほど退院が嬉しいんだろう。
光輝も美紗貴も彼が嬉しそうな姿は嬉しい。
喜ぶことなら何でもしたくなる。

「冷司、家が随分変わったからビックリするぞー」

「ほんと?僕の部屋、下に作れた?お父さん達の部屋じゃ無いよね。」

「オッケーオッケー、大丈夫。でもマジで大変だった。
俺と美紗貴さん、腰が死んだわ」

「あー、どこに作ったかわかった-」

「バレたか、ははっ」

「今日は冷司ご希望の、寿司将中村の寿司と茶碗蒸し頼みましたー
マスターがお祝いに穴子2本入れてやるって、頑張って食べろよ~
あと、これからは、たまには食いに来いってさ」

「わー、久しぶりぃ!おじさん大好き。頑張りまーす!
ほんと、お父さん向こう行って行かなくなっちゃったよね。
今度、光輝と2人で行く~」

「僕も連れてってよ冷司~お兄ちゃんも食いたい」

「あはは!勝手についてきてくださーい!」

車内が明るく笑いに満ちる。
美紗貴のRV車は収納も余裕ある。
家につくと車いす下ろして冷司を先に家に入れ、長期入院で増えた荷物を美紗貴と2人でどんどん下ろす。

「片付け明日からにして、お茶にするか。寿司は持ってきてくれるそうだし」

「そうっすね、使う物だけ出しときます。
下着や服なんかは1度洗ってタンスに入れますわ。
病院の匂いついてると嫌でしょうから」

光輝が洗面具など出して、下着に服やタオルは洗濯かごにどんどん放り込んだ。
ここのドラム式洗濯機は大きい。しかも、隣にガス式乾燥機完備だ。
いつでも洗える。生乾きの臭いとはさようならだ。
光輝はこの洗濯セット見て、もの凄く喜び、美紗貴は大笑いした。
美紗貴は一緒に暮らして驚いていたのだが、光輝のフットワークの軽さと妙に気が利く頭の回転の良さに驚く。

「光輝君、ほんと気が利くよね。
きれい好きだし、僕の部屋にも来て欲しいくらいだよ」

「ははっ、まあ、ガキの時からやってるんで、慣れですよ。
爺さん死ぬ前はずっと介護だったし、冷司の世話もあんま苦にならないんですよね」

籠をランドリーに持っていくと、早速洗濯機に放り込んでスイッチを押す。
この2台を見ると、光輝は毎日でも洗濯したい。

「お母さんが選んだのかな?はー、いい、いいよ、この2台。
クソババアと思ってたけど、これで俺のお母さんの評価は爆上がりした」

スリスリしてため息を付いた。

キッチンでは美紗貴がコーヒーの準備しているのか、いい香りが漂う。
変わった室内を車いすで見ていく冷司に、光輝が声をかけた。

「冷司ー、家ん中では出来るだけ歩けよ」

「うん、わかってる。
ねえねえ、リビングとダイニングの家具全部替えたの?
あー、トイレも替えてあるね。横にバー付いて立ちやすくなってる」

「お前、家ん中で嫌なことあっただろ?
居間とダイニング、家具引き取ってもらって新しいの買ったんだよ。
ゲーゲーやった嫌な思い出あるだろうからって、お父さんがトイレも替えるようにって工務店に言ってたから」

「うん、なんか形がシンプルで綺麗になってる。
あ、お父さんに退院の連絡入れとかなきゃ」

久しぶりに自分のスマホをいじって、父親にラインを送る。
父親からはすぐに、ウサギがVサインしてるイラストと、お母さんと2人で何故か家庭菜園で桑持って、軍手でほおかむりの写真が送られてきた。

「あはは!何これ、畑やってるんだ。
お父さん相変わらずこのスタンプかー、懐かしいな。
ああ……お母さんだ。お母さんに戻ってる……」

お母さんは恥ずかしそうにして表情が穏やかで、別人のようだ。
3人で写真見て、良かったなーとつぶやいた。


その日はリビングで寿司パーティで、光輝も食べたことが無い高級寿司屋の寿司に美味い美味いとたらふく食べた。
冷司も何だか凄く体調がいいようで、食が進んでニコニコしてる。

「あーー、冷司と並んでご飯食べられて、俺幸せ」

「僕も、光輝と食べると十倍美味しー」

「僕は1人で寂しく食ってるけど、普通に美味い」

2人のカップルは妙に幸せそうで、美紗貴は横でやれやれとすねていた。



美紗貴は冷司の退院後もひと月ほど家から大学に通っていたが、片道2時間に辟易してマンションに帰っていった。
冷司は家に帰ったら随分元気が出てきて、食欲も出てきた。
2人の生活も時間配分に工夫が必要で、2人で相談して決めて行く。
冷司が1人で家にいる時が心配だからと、お父さんが駆けつけサービスの警備会社頼んでくれた。
これで光輝も安心して仕事に行ける。
そうして、だんだん2人それぞれの生活サイクルに合わせて慣れていった。
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