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第3章 獅子と牝山羊

第8話

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「ユァン、1日ぶりだね」

昨日会った白いローブの青年だった。
もしかしたらこの部屋でバルトロメオと再会できるのでは……、そんな期待はそこで消える。

「ユァン、ヒエロニムスに会ったそうだね」
「ヒエロニムス?」
「彼の名前だ」

シプリアーノ司教が紹介した。

「彼は以前、私が教鞭きょうべんっていた神学校の教え子でね。今は法王庁で書記官をしている」

そんな立場の人がどうしてここに? ユァンのその疑問は、次の司教の言葉で解決した。

「彼にはブラザー・バルトロメオの件で来てもらったんだ。よく分からない人物に、これ以上痛くもない腹を探られるのは敵わない。それでなんとかお引き取り願えないかと、ヒエロニムスに相談していたんだ」

司教の言葉に、ヒエロニムスは肩をすくめてみせる。

「僕とバルトロメオとは同期なんだ。それに以前も、彼の起こした事件の尻ぬぐいをさせられていて……」
「事件……?」

(それ、昨日言っていた、人殺しっていう言葉と関係があるんじゃ?)

思わず聞き返すユァンに、司教が座るよう目で示した。
そこからは3人、テーブルを囲んでの話になる。

「バルトロメオはね」

ヒエロニムスはユァンを見て話しだす。

「過去に、ある事件を起こしているんだ。だけど彼は特別な家柄の人間で、彼の叔父である枢機卿すうききょうがその事件をもみ消した。僕は当時から法王庁本部で裁判所の書記官をしていたから、その時のことを具体的に知っている」

ヒエロニムスが一旦口を閉じたところで、シプリアーノ司教が話を引き継いだ。

「彼によると、その事件というのがソドミーに関するものらしい」

(えっ――?)

ユァンの心臓は大きく脈打つ。
胸に十字を切り、ヒエロニムスがまた話し始めた。

「バルトロメオと特別な関係にあった若い修道士が、ソドミーの罪を苦に命を絶ったんだ。可哀想にね。その彼は、恋人のために命をささげたともいえる。罪深い関係が周囲に知れ渡れば、いくらバルトロメオが枢機卿のおいでも、教会での地位を失いかねない。だったらいっそ自分がと……思い詰めてしまったんだろうね」

彼は祈る仕草をしてみせ、そして続ける。

「彼の死後、バルトロメオは一時教会を離れたが、枢機卿の口利きで法王直属の調査部門に……。罪人が人の罪を調べるなんて、僕は笑ってしまうけどね。教会上層部も身内には甘いっていうことさ」

ユァンはまばたきをして、テーブルの向かいにいるヒエロニムスを見つめる。
にわかには信じられなかった。
まるで物語の中の話を聞かされているみたいに現実味を感じられない。

「じゃあ、彼のことを人殺しと言ったのは……」

ユァンの絞り出したつぶやきに、作りもののような顔がうなずいた。

「そうだよ、バルトロメオが罪を犯さなければ、ひとりの若者の命が失われることはなかった。キミには同じ目にあってほしくない」
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