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20,骨入り
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「じゃー、背中流すぞー! ザバーン!!」
冬夜の口にする擬音と同時に、熱めのお湯が背中の泡を洗い流していく。
「これで背中はぴっかぴかだなー。なんなら尻のもっと際どいとこまで洗うぞ?」
ここはビーチから徒歩数分のところにある温泉施設。類の背中を流す冬夜はやけに楽しそうだ。
類は彼の強引な誘いを断る元気もなくて、ここまでついてきてしまっていた。
「聞いてんのかよ、類っち!」
あまりに無反応な類に耐えかねて、冬夜がバシッと背中を叩く。
「わっ!」
夕方の大浴場に、大きな音がこだました。
「痛たた……犬束さん、それ痛い……」
「にゃはは! ごめん、手型ついた」
「えー……?」
類は後ろにいる冬夜を裸の肩越しににらんでみせる。類より上背のある冬夜の体は、しなやかな筋肉に覆われていた。
腰に巻かれたタオルの向こうで、彼の細長い尻尾がパタパタと水を弾いて揺れている。
「なー、そろそろ元気出せって。オイラいつもの元気いっぱいな類っちに会いたいよ」
「ぼく、普段からそんな元気キャラじゃないと思うけど……」
「そういやそうだった! にゃはは」
冬夜がとがった犬歯を見せて笑う。
「アンニュイなのが類っちのカラーか? でもさ、さっきゴミ拾いしてた時はもっと元気に見えたぞ?」
「それは……」
類はあの時、人の役に立てるかもしれないという考えに、充実感を得ていたからだ。結果的にあれは全部、無駄な行動だったわけだけれど……。
「今は凹みたいんだ、凹ませてよ……」
「じゃあオイラも一緒に凹む……ぐすん!」
「えっ、なんで犬束さんまで……」
泣きそうな顔をされてドキリとする。
「ウソだよ。犬束さんじゃなくて冬夜って呼んで? それかアニキ」
「…………。冬夜」
「アニキはイヤなんだな?」
「だってぼくより年下だし……」
「体はオイラの方が大きいけどなっ。あとち○こも!」
「は……!?」
濡れたタオルが貼り付いた股間を、ニヤニヤしながら見られていた。
類はぴたっと脚を閉じる。
「セクハラ……」
「ごめん、見ないから触らせて?」
冗談かと思ったけれど、冬夜はじっと類の返事を待っていた。
「え……なんで触りたいの?」
類が聞くと、彼はこそこそと耳打ちしてくる。
「聞いた話だけど、人間のち○こには骨ないんだろ?」
「え、逆に犬型獣人のにはあるの?」
「普通ある! ほかの獣人たちにも」
「………!? いや、何それ衝撃の事実……」
でも思い出してみると、虎牙部長のそれは行為後も角度を保っていて……。
「骨……骨なの……!?」
「しっかり交わるにはホネ必要だと思うんだよなー。それ考えるとやっぱ人間は受けちゃんだわ……」
そんな理由で冬夜から受け認定された類だった。
「ってなわけで、類っちのち○こ触りたい!」
「イヤ……!」
「なんで?」
「普通イヤだって……」
類は座っているお風呂いすをずらして彼から距離を取る。
「えー、なんでだよ? ケチ」
冬夜は口をとがらせてみせた。その顔を見るに、怒っているわけではないらしい。
「あのさ……。前から思ってたけど、冬夜ってほんと自由だよね?」
だからついていけないけれど、類もそんな彼のことがけっして嫌じゃない。
「ん、どういう意味だ?」
「自由でいいなってこと」
説明するのも面倒で、ただそれだけ返した。とはいえ「自由でいいな」というのも、類の本音で……。
「ぼくは冬夜がうらやましいよ」
「え、骨入りち○こが?」
「え、違ッ……そんなんじゃない!」
「なんだー、違うのか」
「ぶはっ!」
ガマンできず、天井に響く声で笑ってしまった。
それで他の客に見られてしまったけれど、笑ったら気持ちが少し軽くなった気がした。
「ははっ、もういいや……」
「何が?」
「ん……、こっちの話」
類は洗い場を離れ、浴槽に入っていく。
「ぼく、バカだけど、バカは簡単には治らないしね……」
冬夜も後ろからついてきた。
ふたりで湯船に浸かる。
「類っちはバカっていうより、不器用なんじゃないのか? んー、いい湯だ!」
「不器用……そうだね。少なくとも器用ではないと思う」
「いいんだよ、不器用でも正直なら! よくかあちゃんが言ってる」
冬夜が胸を張ってみせた。
「そっか、冬夜は正直に生きてるんだ……」
類はちょっと、彼のことを見直しかけたけれど……。
「いやー。遅刻ごまかすためにタイムカードの時計ずらしてたら、ついこないだ帝サンにバレて殺されかけたばっかり!」
どっちかというとずる賢いタイプみたいだった。
冬夜の口にする擬音と同時に、熱めのお湯が背中の泡を洗い流していく。
「これで背中はぴっかぴかだなー。なんなら尻のもっと際どいとこまで洗うぞ?」
ここはビーチから徒歩数分のところにある温泉施設。類の背中を流す冬夜はやけに楽しそうだ。
類は彼の強引な誘いを断る元気もなくて、ここまでついてきてしまっていた。
「聞いてんのかよ、類っち!」
あまりに無反応な類に耐えかねて、冬夜がバシッと背中を叩く。
「わっ!」
夕方の大浴場に、大きな音がこだました。
「痛たた……犬束さん、それ痛い……」
「にゃはは! ごめん、手型ついた」
「えー……?」
類は後ろにいる冬夜を裸の肩越しににらんでみせる。類より上背のある冬夜の体は、しなやかな筋肉に覆われていた。
腰に巻かれたタオルの向こうで、彼の細長い尻尾がパタパタと水を弾いて揺れている。
「なー、そろそろ元気出せって。オイラいつもの元気いっぱいな類っちに会いたいよ」
「ぼく、普段からそんな元気キャラじゃないと思うけど……」
「そういやそうだった! にゃはは」
冬夜がとがった犬歯を見せて笑う。
「アンニュイなのが類っちのカラーか? でもさ、さっきゴミ拾いしてた時はもっと元気に見えたぞ?」
「それは……」
類はあの時、人の役に立てるかもしれないという考えに、充実感を得ていたからだ。結果的にあれは全部、無駄な行動だったわけだけれど……。
「今は凹みたいんだ、凹ませてよ……」
「じゃあオイラも一緒に凹む……ぐすん!」
「えっ、なんで犬束さんまで……」
泣きそうな顔をされてドキリとする。
「ウソだよ。犬束さんじゃなくて冬夜って呼んで? それかアニキ」
「…………。冬夜」
「アニキはイヤなんだな?」
「だってぼくより年下だし……」
「体はオイラの方が大きいけどなっ。あとち○こも!」
「は……!?」
濡れたタオルが貼り付いた股間を、ニヤニヤしながら見られていた。
類はぴたっと脚を閉じる。
「セクハラ……」
「ごめん、見ないから触らせて?」
冗談かと思ったけれど、冬夜はじっと類の返事を待っていた。
「え……なんで触りたいの?」
類が聞くと、彼はこそこそと耳打ちしてくる。
「聞いた話だけど、人間のち○こには骨ないんだろ?」
「え、逆に犬型獣人のにはあるの?」
「普通ある! ほかの獣人たちにも」
「………!? いや、何それ衝撃の事実……」
でも思い出してみると、虎牙部長のそれは行為後も角度を保っていて……。
「骨……骨なの……!?」
「しっかり交わるにはホネ必要だと思うんだよなー。それ考えるとやっぱ人間は受けちゃんだわ……」
そんな理由で冬夜から受け認定された類だった。
「ってなわけで、類っちのち○こ触りたい!」
「イヤ……!」
「なんで?」
「普通イヤだって……」
類は座っているお風呂いすをずらして彼から距離を取る。
「えー、なんでだよ? ケチ」
冬夜は口をとがらせてみせた。その顔を見るに、怒っているわけではないらしい。
「あのさ……。前から思ってたけど、冬夜ってほんと自由だよね?」
だからついていけないけれど、類もそんな彼のことがけっして嫌じゃない。
「ん、どういう意味だ?」
「自由でいいなってこと」
説明するのも面倒で、ただそれだけ返した。とはいえ「自由でいいな」というのも、類の本音で……。
「ぼくは冬夜がうらやましいよ」
「え、骨入りち○こが?」
「え、違ッ……そんなんじゃない!」
「なんだー、違うのか」
「ぶはっ!」
ガマンできず、天井に響く声で笑ってしまった。
それで他の客に見られてしまったけれど、笑ったら気持ちが少し軽くなった気がした。
「ははっ、もういいや……」
「何が?」
「ん……、こっちの話」
類は洗い場を離れ、浴槽に入っていく。
「ぼく、バカだけど、バカは簡単には治らないしね……」
冬夜も後ろからついてきた。
ふたりで湯船に浸かる。
「類っちはバカっていうより、不器用なんじゃないのか? んー、いい湯だ!」
「不器用……そうだね。少なくとも器用ではないと思う」
「いいんだよ、不器用でも正直なら! よくかあちゃんが言ってる」
冬夜が胸を張ってみせた。
「そっか、冬夜は正直に生きてるんだ……」
類はちょっと、彼のことを見直しかけたけれど……。
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どっちかというとずる賢いタイプみたいだった。
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