白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第1章 始まり

第2話ー③ 辿った道

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 それから月日は流れ、俺は無事に教員免許を取得した。

 しかし俺は20歳を超えても能力が衰えないままで、資格を取得できてもどこにも就職することができずにいた。

 やっぱり夢なんて抱くものじゃないのかもしれない。

 俺の未来なんて……叶いっこなかったんだ。

 今できることを俺は全力でやってきたつもりだったが、結局そんなものは無駄だったのかもしれない……。

 ずっとここで能力に未来を奪われたまま、やりたいことを何もできずに俺はここで永遠に過ごしていくのだろうか。

 俺は弱気になって、夢を諦めかけていた。

「所長。俺はこのまま、一生ここにいることになりますか?」

 俺の肩に手を置きながら、所長はその問いに、優しく微笑んで答える。

「君のがんばりはきっと神様がみてくれているさ。だから君は必ず、夢を叶えることができる」

 所長は気休め程度に、俺にそう言った。

 しかしその時は知らなかったが、悩む俺を見て、所長がひそかに動いていたのだった。

 その会話から数日後、俺は自分の部屋で何かするわけでもなく、ベッドの上でゴロゴロと過ごしていた。

 そしてバタバタと足音が聞こえたと思ったら、急に扉が開いた。

「暁君! 今、ちょっといいかい……?」

 突然、俺の部屋にやってきた所長は、なんだかとても嬉しそうだった。

 息が切れるほどの全力疾走をするくらいだ。よほど嬉しいことがあったのだろう。

「大丈夫ですよ。何があったんですか?」

 俺がそう問うと、所長は前のめりで俺に告げる。

「君が今の生活から抜け出す方法が一つだけある。そしてそれは君にとっても朗報だ」

 ここから出る方法……?

 俺はきょとんとしていたが、所長は気にせずにそのまま会話を続けた。

「実は保護施設の教員を政府が探していてね。今期の子供たちはちょっと手に余る存在みたいなんだよ」
「は、はあ……」

 突然のことで困惑したままの俺は、黙って所長が持ってきたその話を聞くことにした。

 そしてその話によると、どうやら所長は俺の知らないところでいろいろと手を回してくれてたようだった。

 教員免許を取得したSS級能力者の俺をS級クラスの担任教師にすることによって、今のS級クラスの生徒たちと上手にやっていけるのではないかと所長は政府に打診していたらしい。

 しかしSS級である俺を教師として派遣するのは、多少なりともリスクがあると考えた政府は所長からの打診後、すぐにゴーサインを出すことはなかったようだ。

 だが、今期の生徒たちの素行の悪さを鑑みた政府は、とうとう所長の打診を受けることにしたということだった。

「どうだ? この話、受けてみないか?」

 所長は、優しい笑顔で俺に問う。

 俺はその所長の話にもしかして夢でも見ているんじゃないかと、そう思った。

「俺、教師になれるんですか……?」

 俺は確かめるように、所長に問う。

「そうだ。これはチャンスだと思う。どうだい? やってみる気はないか?」

「……もちろんです!! もちろん、引き受けさせてください!!」

 まさかこんな奇跡が起こるなんて……。

 俺はそんなことを思った時、胸がぐっと熱くなるのを感じた。
 
 そして気が付くと、俺は嬉しさのあまり泣いていた。



 当時の俺は自分の夢なんて叶わないんじゃないかと何度も諦めそうになったけれど、諦めなければいつかはその夢に手が届くんだってことを知った。

 簡単な道のりではなかったけれど、でも俺は夢への切符をこの手に掴んだのだった。

『できることをやれ』。その言葉からもらった目には見えない力が、俺を変えたんだと思う。

 ――きっとその言葉があったから、俺は教師になるチャンスを引き寄せられたのかもしれない。

 そしてその後、俺は正式に保護施設の教員となることが決まった。

 今でも能力の低下がみられない為、定期的な検査を受けるという条件付きだけど、それでも俺は夢の第一歩を踏み出せたのだ。



「今の俺は、一度暴走を経験して心が崩壊したが、それを修復したことで成人後も能力を持ち続けているのではないかという研究結果が出ている。もちろん仮説段階だから、本当のところはわからないんだけどな」

 そして俺のその話を聞いていた一部の生徒たちは不安そうな表情で、俺の方を見ていた。

 確かにこんな話をされたら、不安になるのも無理はないだろう……。

「もし自分も能力が消失しなかったらって思っているのなら、安心してくれ。この能力は年齢と共に消失をする。それは研究結果で実証されていることだ」

 それを聞いた生徒たちの顔が、少しだけ安堵で顔が緩んでいるのがわかった。

 不安を解消できたのは良かったが、俺はもう一つ、生徒たちにちゃんと伝えなければならないことがあった。

「確かに能力は年齢と共に消失するが、もしその能力が暴走すれば、二度と目を覚まさないか、永遠に能力と共に生きるかのどちらかになる。そのことだけは、胸に留めておいてくれるといいかな。……まあそうは言ったが、あまり重く捉えず、気楽に考えてくれればいいよ」

 俺はそう言いながら、できるだけ笑顔を作ってみたが、俺の話を聞いた生徒たちは静まり返っていた。

「……すまん。ちょっと深く話しすぎたかな……」

 俺は頭を掻きながら、申し訳ないなと思いつつ、生徒たちに伝えた。

「……先生にはそんな壮絶な過去があったのですね。驚きましたわ」

 奏多は目を丸くしながら、俺に告げる。

「そうだな。でも楽しいことも良い出会いもたくさんあったぞ。いろんな大人たちの協力があって、俺はここにいられるんだ」

 俺がそう笑って見せると、

「感動したぜ、先生! 俺は先生にずっとついていくぞ!!」

 剛は号泣しながら、立ちあがる。

「まあセンセーの夢のお手伝いってことなら、協力してあげなくもないかも?」
 いろはがにこっと笑い、俺の方を向く。

「剛、いろは。ありがとうな」

 生徒たちは俺の話を聞いてから、それぞれが何かを考えているようだった。

 もしかしたら、自分も……そんなことを思う生徒だっているかもしれない。

 この話をする必要があったのだろうかと俺は少々考える。

 しかしもう過ぎたことを後悔しても仕方のないことだ。

 俺は今できることをやっただけ。

「よし! 暗い話はこれでおわりだ! 気を取り直して、授業を始めよう!」

 でももし生徒たちが暴走しそうになったら、俺の力で絶対に止める。
 
 俺はこのクラスの担任教師なんだからな!



 そして授業後。キリヤは一人、教室にいた。

 頬杖をつき、考え事をしながら、窓の外を見ている。

「剛もいろはも簡単に信じすぎだよ」

 確かにあんな話を聞いたら、心を許してしまいそうになる。

 自分たちと似た境遇。そしてさらに自分たちよりも遥かに辛い経験。

「あの時とは違うのか……」

 ……でも僕は騙されない。

 大人は醜く、汚い生き物だ。

 それを僕は知っている。

 いくら僕たちと似ているとしても、今は汚い大人に飼いならされた犬だ。

 そんな奴を僕は絶対に信じるもんか。

 それからキリヤは空が暗くなるまで一人、教室にいた。
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