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娘にならない?

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 神官様は、今日も普通に優しく私を迎えてくれた。


「このお茶は、なかなか美味いのだ。
 温かいうちに飲んでみてくれ。」

「ありがとうございます。」


 一口頂くと、確かに美味しい紅茶だった。
 偉い神官様だと聞いていたが、それに相応しい、良い生活をしているように見える。


「香りが豊かで、とても美味しい紅茶ですわ。」

「そうか……。それは良かった。」


 私が紅茶が美味しいと言うと、フッと笑いかけてくれる神官様。
 さすがイケオジだけあって、素敵な笑顔だと思う。

 しかし、その後の話が続かない。
 早く話を終わらせて帰りたい私は、神官様に呼び出された理由を聞くことにした。
 

「神官様……。今日はどのようなお話でしょうか?」

「……私は、君の生まれた国を離れて20年以上経つ。
 国を離れてから、実家や友人達とのやりとりは最低限で、最近は全く連絡を取っていなかった。
 そんな私の元に、最近、古い友人が訪ねて来てくれたのだ。
 その友人も数年前に国を離れて異国で暮らしているんだが、せっかく会ったから私が国を離れた後の、ステール伯爵家のことを聞いてみたのだ。
 勿論、友人には君のことは話していないから安心してくれ。」

「……はい。」

「君の言っていた通りだった……。
 ステール伯爵家が没落したことも、ステール伯爵夫妻の不仲説に別居の噂、アンジェラが変わってしまったことも聞かされた。
 今更、君に話すことではないかもしれないが、ステール伯爵は、アンジェラと婚約する前に、必ず彼女を幸せにすると私に約束してくれたのだ。
 だから私は、アンジェラもその子供達も、きっと幸せに暮らしているだろうと思っていた。」


 私の話に衝撃を受けて、古い友人にわざわざ確かめたのね。
 毒母の本性にもショックを受けていたようだし。
 
 
 
「アンジェラや君の不幸の原因は私なのだよ。」 

「……はい?」

「詳しくは話せないが、私が悪いのだ。
 私は許されないことをして、君達を不幸にした。」

「……?」


 イケオジ神官は項垂れているようだが、意味が分からない。

 私としては、何があったのかが気になってしまうから、詳しく話せないことを中途半端に言わないで欲しかった。
 ただ、このイケオジ神官の話の感じだと、やはり毒母の元カレか、それに違い関係だったということで間違いないように思う。
 

「私は君に幸せになって欲しいと思っている。」

「……ありがとうございます。
 私は今の生活が幸せです。」

「今の生活が幸せ?真面目に働いているのは、勤勉で素晴らしいと思うが、たった一人で何かあったらどうするつもりだ?
 急に病で倒れるかもしれないし、怪我で働けなくなる可能性もある。
 悪い男が近付いてくるかもしれないし、また犯罪に巻き込まれるかもしれない。」


 イケオジ神官が私を心配してくれているようだけど、すごくネガティブなことばっかり口にしているのが気になる。

 将来に不安があるから、お金を貯めようと必死に頑張っているんだけどな。


「前に君から、今までどんな風に生きてきたのかを教えてもらって、私は君のことが頭から離れなくなってしまった。」

「………」


 元カノの娘が不幸に見えて、同情しているって言いたいのかな?
 神官って職業柄、貧しい人や病気の人達のために祈りを捧げるんだろうから、人の不幸話を聞いて心を痛めたのかもしれない。


「私は、君を放っておけないようだ。君に何かあったらと考えると気が気でない。
 それで色々と勝手に考えてみたのだが……」


 このイケオジ神官は何を言うつもり?


「私の娘にならないか?」

「えっ……、娘ですか?」


 また凄いことを言ってくるなぁ。


「私の養子になって欲しい。
 君の生活の面倒を見るし、私はそれなりの立場があるから、君に何かあっても守ることが出来る。」

「神官様。私はそんなことは望んでおりませんわ。
 私の母と神官様が、親しい関係だったのかもしれませんが、今の私は母とは関係がありませんので、そのような配慮は必要ありません。
 私は一人で頑張ろうと決めているのです。」
 
「急にこんなことを言って、君を困らせているのは分かっているのだが、私なりに悩んで決めたことだ。
 私なりの方法で君を守りたいのだ。分かってくれないか?」


 イケオジ神官様は、マジで話しているらしい。


「私は、今の生活が幸せだと伝えました。
 それに、急に養子を迎えたりなんてしたら、神官様のご家族はどう思うでしょうか?もしかしたら、私を神官様の婚外子だと勘違いする方も出てくるかもしれません。
 私は波風を立てるつもりはありません。」

「私は結婚していないから家族はいない。
 子供が作れない体だから、婚外子も存在しないのだ。
 君を養子に迎えて、煩く口を挟むような者は身近にいないから大丈夫だ。」


 この世界の人って、すぐに養子にならないかって言ってくるよね。
 
 あれっ?前にもこんな風に、誰かと養子縁組の話をしたんだっけ……?

 それよりも今、イケオジ神官は子供が作れない体だと言っていた。
 もしかして……、子供が作れない体だから、毒母との結婚を諦め、遠い異国で神官をやっているとか?

 

 何だか私の心が痛んできたような気がする……。



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