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店に行きたい
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「エリーゼ……。先程、出店の串焼きを食べたばかりでクレープまで食べて気持ち悪くならないのか?」
「お義兄様。これはデザートですから別腹ですわ。
甘くて美味しいので、お義兄様も一口食べてみませんか?」
「……私はいいから、エリーゼが食べなさい。」
私は義兄と二人で市場に行った後、平民街に来て食べ歩きをしている。
義兄は基本的に、私が行きたいと言った所にはどこにでも付き合ってくれる。
食べたい物は何でも買ってくれるし、公爵令息が足を踏み入れないような店にだって一緒に入ってくれるし、実は面倒見のいい人のようだ。
この人に足りないのはやっぱり笑顔だよね。笑顔で声を掛けてくれたら、美丈夫なんだから絶対に素敵だと思うのに。勿体ない……
でも『お義兄様、笑って!』とは、私の立場では馴れ馴れしくて言えない。気難しい偏屈だから、無理に踏み込んでいけない領域があるのよ。
「エリーゼ。ずっと食べ歩いていたから、少し休もう。店に入って飲み物でも飲まないか?」
「はい。ずっと歩いて疲れましたし、喉も渇いてきたので、カフェにでも行きましょうか。
急いでクレープを食べてしまいますので、少しお待ちください。」
「食べ終わるのを待つから慌てなくていい。」
「……はい。」
クレープを食べ終わったところで、ちょうどカフェを見つけたので、その店に入ることにした。
ウッド調のお洒落なカフェは温かみがあって、ゆっくりとお茶をするのにちょうどいい雰囲気の店だ。
ブラックのコーヒーを飲んでいる義兄は様になっていて、他のお客さん達がチラチラと見ている。
黙っていれば普通にカッコいいからね。でも、うっかり声なんて掛けたら、底冷えする目で瞬殺されるから気をつけて。
あ、せっかくだからあの話を聞いてみようかな!
「お義兄様……」
「……何だ?」
「お義兄様は結婚を考えていないのでしょうか?」
「……は?」
義兄の『は?』という一言は、予想以上に冷たくて恐ろしかった。怖くなった私は、それ以上聞くのはやめることにした。
偏屈に結婚の質問をしてはいけないようだから、今後は気を付けよう。
「失礼しました。忘れて下さい。」
「……エリーゼはどうするんだ?」
質問返しされちゃった……
「私は難しそうなので……お義兄様には頑張って欲しいなぁ……なんて思っていたのですが……、余計なお世話でしたね。申し訳ありませんでした。」
「無理そうではないだろう?
相手を選ばなければすぐにでも決まる。」
それは貴方もですよね……
「そういえば、王宮で王女殿下にお会いした。
エリーゼの店に行きたいと話していたぞ。」
「王女殿下からの手紙には、来週店に来るというようなことが書いてありましたわね。
来週は店に出るようにします。」
「そうか……」
そして義兄とお出かけした次の週、私は久しぶりにサンドイッチの店に来ていた。
可愛いティーナが来るかもしれないなら、売り子をしながら待っていよう。
そんな私が店に出て、売り子をしていて気がついたことがある。売上が増えているのは知っていたけど、裕福そうな平民の若い女の子のお客様が増えているのだ。
「若い女の子のお客様は、うちの店に来る王宮の文官や近衛騎士が目当てで来ているみたいですね。
文官や近衛騎士には平民出身の人がいるようですし、平民女性から見たら彼らはエリートですから、お近づきになりたいのでしょう。」
私の疑問に店長が分かりやすく答えてくれる。
「なるほど……」
「王宮で働く家族や恋人の差し入れを買いにくるご令嬢もいらっしゃいますよ。」
「それは良かったわ。」
ランチの混雑する時間帯が過ぎた頃、店の前に護衛数人を引き連れた女の子が現れる。
目立たぬように控えめなデザインのワンピースを着ているけど、可愛い顔は隠せなかったようだ。
「お姉様ー!」
私が店にいることに気付いて笑顔で手を振るティーナは、今日も妖精のように可愛かった。
「お義兄様。これはデザートですから別腹ですわ。
甘くて美味しいので、お義兄様も一口食べてみませんか?」
「……私はいいから、エリーゼが食べなさい。」
私は義兄と二人で市場に行った後、平民街に来て食べ歩きをしている。
義兄は基本的に、私が行きたいと言った所にはどこにでも付き合ってくれる。
食べたい物は何でも買ってくれるし、公爵令息が足を踏み入れないような店にだって一緒に入ってくれるし、実は面倒見のいい人のようだ。
この人に足りないのはやっぱり笑顔だよね。笑顔で声を掛けてくれたら、美丈夫なんだから絶対に素敵だと思うのに。勿体ない……
でも『お義兄様、笑って!』とは、私の立場では馴れ馴れしくて言えない。気難しい偏屈だから、無理に踏み込んでいけない領域があるのよ。
「エリーゼ。ずっと食べ歩いていたから、少し休もう。店に入って飲み物でも飲まないか?」
「はい。ずっと歩いて疲れましたし、喉も渇いてきたので、カフェにでも行きましょうか。
急いでクレープを食べてしまいますので、少しお待ちください。」
「食べ終わるのを待つから慌てなくていい。」
「……はい。」
クレープを食べ終わったところで、ちょうどカフェを見つけたので、その店に入ることにした。
ウッド調のお洒落なカフェは温かみがあって、ゆっくりとお茶をするのにちょうどいい雰囲気の店だ。
ブラックのコーヒーを飲んでいる義兄は様になっていて、他のお客さん達がチラチラと見ている。
黙っていれば普通にカッコいいからね。でも、うっかり声なんて掛けたら、底冷えする目で瞬殺されるから気をつけて。
あ、せっかくだからあの話を聞いてみようかな!
「お義兄様……」
「……何だ?」
「お義兄様は結婚を考えていないのでしょうか?」
「……は?」
義兄の『は?』という一言は、予想以上に冷たくて恐ろしかった。怖くなった私は、それ以上聞くのはやめることにした。
偏屈に結婚の質問をしてはいけないようだから、今後は気を付けよう。
「失礼しました。忘れて下さい。」
「……エリーゼはどうするんだ?」
質問返しされちゃった……
「私は難しそうなので……お義兄様には頑張って欲しいなぁ……なんて思っていたのですが……、余計なお世話でしたね。申し訳ありませんでした。」
「無理そうではないだろう?
相手を選ばなければすぐにでも決まる。」
それは貴方もですよね……
「そういえば、王宮で王女殿下にお会いした。
エリーゼの店に行きたいと話していたぞ。」
「王女殿下からの手紙には、来週店に来るというようなことが書いてありましたわね。
来週は店に出るようにします。」
「そうか……」
そして義兄とお出かけした次の週、私は久しぶりにサンドイッチの店に来ていた。
可愛いティーナが来るかもしれないなら、売り子をしながら待っていよう。
そんな私が店に出て、売り子をしていて気がついたことがある。売上が増えているのは知っていたけど、裕福そうな平民の若い女の子のお客様が増えているのだ。
「若い女の子のお客様は、うちの店に来る王宮の文官や近衛騎士が目当てで来ているみたいですね。
文官や近衛騎士には平民出身の人がいるようですし、平民女性から見たら彼らはエリートですから、お近づきになりたいのでしょう。」
私の疑問に店長が分かりやすく答えてくれる。
「なるほど……」
「王宮で働く家族や恋人の差し入れを買いにくるご令嬢もいらっしゃいますよ。」
「それは良かったわ。」
ランチの混雑する時間帯が過ぎた頃、店の前に護衛数人を引き連れた女の子が現れる。
目立たぬように控えめなデザインのワンピースを着ているけど、可愛い顔は隠せなかったようだ。
「お姉様ー!」
私が店にいることに気付いて笑顔で手を振るティーナは、今日も妖精のように可愛かった。
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