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記憶が戻る前の話

15 意外なプロポーズ

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 公爵様が声を張り上げた後、その場がシーンと静まり返る。私と王妃殿下だけでなく、王妃殿下の護衛騎士やメイド達までもがギョッとしていた。

「アンダーソン公爵、私が陛下が婚約したのは12歳の時よ。貴方だってそれくらいの時には婚約者がいたでしょう? 婚約者を決めないと周りが煩いのは貴方が一番知っているはずよね?
 何よりも、今のアリシアを守ってくれそうな婚約者が必要なのよ」

 微妙な雰囲気の中、王妃殿下は諭すように公爵様に話をしている。さすが人の上に立つお方は凄い。
 それにしても、公爵様に婚約者がいたなんて知らなかった。
 その方とはどうなってしまったのだろう? 前から気になっていたけど、公爵という身分で跡継ぎが望まれるはずなのに、独身でいるのはどうして?
 でも、公爵様の過去を詮索するのは失礼ね。これは私が気にすることではないわ。

「取り乱して申し訳ない……
 確かに王族や高位貴族は、幼い頃に婚約者を決められる場合が多いですね。
 しかし、最近は社会の風潮が変わりつつあり、婚約者を決める時期は前ほど急がなくなっている。恋愛結婚も多いし、急いで相手を探さなくてもいいと思います」

「アンダーソン公爵は私の話を理解しているのかしら?
 伯爵夫人や姉に変な人を選ばれてしまう前に、良い人を探しましょうって言っているのよ」

 サァーっと、王妃殿下から冷気のようなものが放たれる。
 あのお優しい王妃殿下の目が……こっ、怖いわ! 王妃殿下のメイド達もビクッとしているわよ。
 そんな王妃殿下を見て、公爵様は消え入りそうな声で驚くことを口にする。

「分かりました。しかし私は……身分、財力、能力、人柄、容姿など、ベント伯爵令嬢を守るために必要なものを全て兼ね備えた者でないと認めることは出来ないと思います」

 ……この言葉の意味は何?

「アンダーソン公爵、その言葉の真意が分からないわ。
 父親が娘の結婚相手を探す時に言い出しそうな言葉だけど、聞き方によっては別の意味があるようにも感じるわね。そんなにアリシアが心配なら、公爵もアリシアの婚約者探しに協力してちょうだい。
 アンダーソン公爵家の配下の貴族なら心配ないでしょう?」

「……畏まりました」

 楽しいはずのお茶会なのに、私の縁談話をした後からピリピリした雰囲気になってしまい、早めにお開きになった。

 お茶会の翌日から公爵様は忙しそうにされていて、外出することが多く、ほとんど顔を合わせない日が続く。
 家令の話では、公爵家の騎士団に顔を出したり、分家や領地に行っているらしい。
 そして、そんな日々がしばらく続いたある日、私は公爵様の執務室に呼ばれる。

「ベント伯爵令嬢、忙しいのに呼び出してすまない。
 重要な話をしたい。時間は大丈夫か?」

 久しぶりに会った公爵様は、寝不足のような疲れた顔をしていた。

「はい。大丈夫です」

 私の返事を聞いた公爵様は、秘書官達に目配せをして部屋から退出させる。
 重要な話でピンときた。恐らく、私の縁談相手の話をするのだろう。
 ソファーに座るように言われて腰をかけると、私の正面に座った公爵様は神妙な面持ちで語り始めた。

「君に相応しい相手を探そうと思い、公爵家の親戚や騎士団にいる年頃の令息達と面談をしてきた」

「面談をですか? そこまでされなくても……
 私なんかのために申し訳ありませんでした」

 忙しそうに外出していたのは私の縁談相手を探すためだったと知り、申し訳ない気持ちになってしまった。

「君にはどうしても幸せになって欲しくて、相手選びに妥協はしたくなかった。
 直接会って自分の目で確かめてみないと分からないから、一人ひとりと面談をした。だが、良いと思える人物はほとんどいなくて、我慢してもいいと思える者はすでに恋人や婚約者がいたりした……」

 そうよね……。良い人は人気があるから、女性達が放っておかないもの。仕方がない……
 公爵様は何も悪くないから、そんなに悲しそうにしないで欲しいわ。

「私は気にしませんから大丈夫です。
 実は父と産みの母のこともあって、あまり結婚に希望が持てなかったのです。
 結婚相手が見つからないなら、実家の伯爵家と縁を切って平民になる方法を探そうと思っています。王都に来る前はずっと平民として生活していたので、あの頃が懐かしいのです」

 すると、公爵様は更に傷ついた顔をする。
 私よりも彼の方がショックを受けているのかしら? 優しい人だわ。

「ベント伯爵令嬢……、君は年の離れた男は嫌だよな?
 やはり、同世代の若くてカッコいい男の方がいいよな……」

 この質問は、同世代の人はいないけど年上の人ならいるってことかしらね?

「いえ。少しくらい年が離れているのは気にしませんわ。私を家族として大切にして下さる方なら、何歳でも構いませんし、子供が好きなので後妻でも大丈夫です。
 あっ、ヨボヨボのお爺さんで結婚した翌日に亡くなりそうな人は遠慮したいです。跡目争いのある家の方もちょっと……」

 すると、深刻な顔つきになった公爵様はスッと立ち上がり私の前に来て跪く。
 そして私をジッと真っ直ぐに見つめた後……

「私を君の夫にしてくれないか?」

 突然あり得ないことを言われて、私の頭の中はパニック状態になってしまった。



  
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