結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ

文字の大きさ
22 / 55
記憶が戻った後の話

22 会いたい人

しおりを挟む
 前世の時とは別人のような公爵を見て、私は戸惑いっぱなしだった。

 ……嘘でしょ? 本来の貴方はそんな男じゃなかった。冷たくて無関心で素っ気なくて、いつも私を蔑むような目で見ていたクズだったじゃない。らしくない事を言わないで!
 そういえば、今の私に向ける優しい笑顔はあの頃のオーロラに向けていた笑顔と一緒だわ。
 ああ、イライラするー! でも、ここは冷静にならないと……

「しかし公爵様、無礼を承知で申し上げますが、今の私にとっての貴方は初対面の人のようなものです。
 初対面の男性にあまり密に関わられるのはちょっと……」

「そうだな……。非常にショックだが、記憶を失っている君から見たら、私は初対面の男と一緒だ。身の回りのことはメイド達に頼むようにしよう。
 だが、体調が戻ったら食事やお茶は一緒にしたいし、君の顔を見にくることは許して欲しい。
 君が私を忘れていても、私にとって君は最愛の妻なんだ」
 
「はい。分かりました」

 ということで、私達は別々の部屋を使うことになった。
 しかし、部屋は別と言ってもすぐ隣の部屋にはあの男がいるから落ち着かない。私としては離れの邸か、階の違う客室あたりに移動したかった。
 でも、目覚めたばかりで記憶が曖昧な私がワガママを言って相手を困らせるのはよろしくない。実家の伯爵家に帰れない私としては、公爵は敵に回さずに円満に離縁したいのだから。
 この邸から出て行く時に、身一つで追い出されないように上手くやろう。

◇◇

 意識が回復したとはいえ、足首は捻挫して歩けないし、打撲した背中は痛いし、意識が戻らなかった期間がしばらく続いたせいで体力も食欲もなかった。なかなか体調は良くならず、ベッドで安静にする日が続く。
 前世で活発な性格だった私にとって、何もしないで一日中寝ているというのは拷問のような日々だった。

 今だから思うけど、アリシアの姉は馬鹿力で思いっきり突き飛ばしてきたから、本気で私を殺そうとしたのね。
 あの女……歩けるようになったら文句を言いに地下牢まで行ってやる。それまで死なずに待ってろよ!
 
 前世の記憶が戻った私は、気になることが沢山あった。私が死んだ後、両親や弟はどう過ごしたんだろう?
 今世のアリシアとして社交した時、前世の両親と顔を合わせたことはない。そして私が死んだ時にまだ7歳だった弟は、今は25歳になっているはず。姉が大好きだったシスコン弟が大人になった姿を見てみたい。

 そういえば、公爵の真実の愛の相手であるオーロラはどこにいるの?
 あの女は辺境の貧しい男爵令嬢で成績は今ひとつだった。可愛いんだけど、礼儀がなってなくて色々な令息に馴れ馴れしくするから、令嬢達に嫌われまくっていたのよね。令息数人と友人以上に親しくしているって噂もあったし、令嬢と令息との前で態度をあからさまに変える性格だったから、令嬢は誰も相手にしなくなって孤立していた。オーロラが孤立しているのは、私が裏で虐めているからと公爵が文句を言いに来たことが何度もあって最悪だったな。
 婚約者の私が死んだから、きっと当時の公爵はラッキーって思ってオーロラを婚約者にしようとしたはず……
 でも、あれでは公爵夫人は務まらないから公爵の両親は絶対に認めなかったと思う。
 もしかして……、私の知らないどこかで今も愛人として囲っていたりして?
 オーロラとの間にすでに子供がいるから、アリシアとの子供は要らないって考えだった? だから跡取りは急がなくていいって言って、しっかり避妊していたのかもしれない。
 それとも、公爵より良い条件の男を見つけて、私が死んだ後にあっさり捨てられたとか? でも、この国で公爵より良い条件の男なんてそうはいない。他国の大富豪にでも嫁いだのかな?

 そして、私には前世の家族の次くらいに会いたい人物がいる。それは私の最推しの舞台俳優ロミオだ。
 あの日、ロミオに会うのが楽しみで頑張って走ったのに……
 ロミオはあの時、まだ駆け出しの俳優でヒロインの弟や護衛騎士、主人公の恋敵の役など、脇役ばかりだった。
 でも、美しい金髪に綺麗な瑠璃色の瞳を持つ美形のロミオは、理想の王子様のような容姿をしていて、ちょい役であっても熱心にこなす彼を応援するファンは沢山いた。あの時はまだ20歳だったから今は38歳か……。彼はまだ俳優をやっているかな? アリシアに生まれ変わってから観劇に行ったことがないから会いたいなぁ。

 体調がなかなか良くならず精神的に弱っていた私は、前世の家族や最推しのロミオを思い出したことで恋しさと悲しさで胸がいっぱいになり、一人で涙を流していた。

「ロミオの成長を沢山見ていたかった……
 いつか主役を務める日が来ることを楽しみにしていたのに。
 私の部屋に隠していたロミオの姿絵や観劇のパンフレットは処分されちゃったかな? いつか渡そうと思って書いておいたファンレターも、勝手に読まれていたら嫌だなぁ。
 お母様は私があんな死に方をして呆れたかしら?
 私を可愛がってくれたお父様は泣いちゃったかも……っ、……うっ……、みんなに会いたいよぉ」

 すると最悪なことに、そのタイミングでメイドが来てしまった。

「失礼致します。奥様、公爵様がいらしておりますが……
 キャー! 奥様どうされました? どこか痛みますか?」

 メイドに鼻水を垂らして泣いている姿を見られてしまう。すると、慌てたメイドの声が邸中に響き、心配した公爵が部屋の中に入ってきてしまった。

「アリー、どうしたんだ? どこか痛むのか?
 おい、侍医を呼べ! アリーが苦しんでいるから早く来るように伝えろ」

 貴方はお呼びじゃないって……
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...