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記憶が戻った後の話
22 会いたい人
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前世の時とは別人のような公爵を見て、私は戸惑いっぱなしだった。
……嘘でしょ? 本来の貴方はそんな男じゃなかった。冷たくて無関心で素っ気なくて、いつも私を蔑むような目で見ていたクズだったじゃない。らしくない事を言わないで!
そういえば、今の私に向ける優しい笑顔はあの頃のオーロラに向けていた笑顔と一緒だわ。
ああ、イライラするー! でも、ここは冷静にならないと……
「しかし公爵様、無礼を承知で申し上げますが、今の私にとっての貴方は初対面の人のようなものです。
初対面の男性にあまり密に関わられるのはちょっと……」
「そうだな……。非常にショックだが、記憶を失っている君から見たら、私は初対面の男と一緒だ。身の回りのことはメイド達に頼むようにしよう。
だが、体調が戻ったら食事やお茶は一緒にしたいし、君の顔を見にくることは許して欲しい。
君が私を忘れていても、私にとって君は最愛の妻なんだ」
「はい。分かりました」
ということで、私達は別々の部屋を使うことになった。
しかし、部屋は別と言ってもすぐ隣の部屋にはあの男がいるから落ち着かない。私としては離れの邸か、階の違う客室あたりに移動したかった。
でも、目覚めたばかりで記憶が曖昧な私がワガママを言って相手を困らせるのはよろしくない。実家の伯爵家に帰れない私としては、公爵は敵に回さずに円満に離縁したいのだから。
この邸から出て行く時に、身一つで追い出されないように上手くやろう。
◇◇
意識が回復したとはいえ、足首は捻挫して歩けないし、打撲した背中は痛いし、意識が戻らなかった期間がしばらく続いたせいで体力も食欲もなかった。なかなか体調は良くならず、ベッドで安静にする日が続く。
前世で活発な性格だった私にとって、何もしないで一日中寝ているというのは拷問のような日々だった。
今だから思うけど、アリシアの姉は馬鹿力で思いっきり突き飛ばしてきたから、本気で私を殺そうとしたのね。
あの女……歩けるようになったら文句を言いに地下牢まで行ってやる。それまで死なずに待ってろよ!
前世の記憶が戻った私は、気になることが沢山あった。私が死んだ後、両親や弟はどう過ごしたんだろう?
今世のアリシアとして社交した時、前世の両親と顔を合わせたことはない。そして私が死んだ時にまだ7歳だった弟は、今は25歳になっているはず。姉が大好きだったシスコン弟が大人になった姿を見てみたい。
そういえば、公爵の真実の愛の相手であるオーロラはどこにいるの?
あの女は辺境の貧しい男爵令嬢で成績は今ひとつだった。可愛いんだけど、礼儀がなってなくて色々な令息に馴れ馴れしくするから、令嬢達に嫌われまくっていたのよね。令息数人と友人以上に親しくしているって噂もあったし、令嬢と令息との前で態度をあからさまに変える性格だったから、令嬢は誰も相手にしなくなって孤立していた。オーロラが孤立しているのは、私が裏で虐めているからと公爵が文句を言いに来たことが何度もあって最悪だったな。
婚約者の私が死んだから、きっと当時の公爵はラッキーって思ってオーロラを婚約者にしようとしたはず……
でも、あれでは公爵夫人は務まらないから公爵の両親は絶対に認めなかったと思う。
もしかして……、私の知らないどこかで今も愛人として囲っていたりして?
オーロラとの間にすでに子供がいるから、アリシアとの子供は要らないって考えだった? だから跡取りは急がなくていいって言って、しっかり避妊していたのかもしれない。
それとも、公爵より良い条件の男を見つけて、私が死んだ後にあっさり捨てられたとか? でも、この国で公爵より良い条件の男なんてそうはいない。他国の大富豪にでも嫁いだのかな?
そして、私には前世の家族の次くらいに会いたい人物がいる。それは私の最推しの舞台俳優ロミオだ。
あの日、ロミオに会うのが楽しみで頑張って走ったのに……
ロミオはあの時、まだ駆け出しの俳優でヒロインの弟や護衛騎士、主人公の恋敵の役など、脇役ばかりだった。
でも、美しい金髪に綺麗な瑠璃色の瞳を持つ美形のロミオは、理想の王子様のような容姿をしていて、ちょい役であっても熱心にこなす彼を応援するファンは沢山いた。あの時はまだ20歳だったから今は38歳か……。彼はまだ俳優をやっているかな? アリシアに生まれ変わってから観劇に行ったことがないから会いたいなぁ。
体調がなかなか良くならず精神的に弱っていた私は、前世の家族や最推しのロミオを思い出したことで恋しさと悲しさで胸がいっぱいになり、一人で涙を流していた。
「ロミオの成長を沢山見ていたかった……
いつか主役を務める日が来ることを楽しみにしていたのに。
私の部屋に隠していたロミオの姿絵や観劇のパンフレットは処分されちゃったかな? いつか渡そうと思って書いておいたファンレターも、勝手に読まれていたら嫌だなぁ。
お母様は私があんな死に方をして呆れたかしら?
私を可愛がってくれたお父様は泣いちゃったかも……っ、……うっ……、みんなに会いたいよぉ」
すると最悪なことに、そのタイミングでメイドが来てしまった。
「失礼致します。奥様、公爵様がいらしておりますが……
キャー! 奥様どうされました? どこか痛みますか?」
メイドに鼻水を垂らして泣いている姿を見られてしまう。すると、慌てたメイドの声が邸中に響き、心配した公爵が部屋の中に入ってきてしまった。
「アリー、どうしたんだ? どこか痛むのか?
おい、侍医を呼べ! アリーが苦しんでいるから早く来るように伝えろ」
貴方はお呼びじゃないって……
……嘘でしょ? 本来の貴方はそんな男じゃなかった。冷たくて無関心で素っ気なくて、いつも私を蔑むような目で見ていたクズだったじゃない。らしくない事を言わないで!
そういえば、今の私に向ける優しい笑顔はあの頃のオーロラに向けていた笑顔と一緒だわ。
ああ、イライラするー! でも、ここは冷静にならないと……
「しかし公爵様、無礼を承知で申し上げますが、今の私にとっての貴方は初対面の人のようなものです。
初対面の男性にあまり密に関わられるのはちょっと……」
「そうだな……。非常にショックだが、記憶を失っている君から見たら、私は初対面の男と一緒だ。身の回りのことはメイド達に頼むようにしよう。
だが、体調が戻ったら食事やお茶は一緒にしたいし、君の顔を見にくることは許して欲しい。
君が私を忘れていても、私にとって君は最愛の妻なんだ」
「はい。分かりました」
ということで、私達は別々の部屋を使うことになった。
しかし、部屋は別と言ってもすぐ隣の部屋にはあの男がいるから落ち着かない。私としては離れの邸か、階の違う客室あたりに移動したかった。
でも、目覚めたばかりで記憶が曖昧な私がワガママを言って相手を困らせるのはよろしくない。実家の伯爵家に帰れない私としては、公爵は敵に回さずに円満に離縁したいのだから。
この邸から出て行く時に、身一つで追い出されないように上手くやろう。
◇◇
意識が回復したとはいえ、足首は捻挫して歩けないし、打撲した背中は痛いし、意識が戻らなかった期間がしばらく続いたせいで体力も食欲もなかった。なかなか体調は良くならず、ベッドで安静にする日が続く。
前世で活発な性格だった私にとって、何もしないで一日中寝ているというのは拷問のような日々だった。
今だから思うけど、アリシアの姉は馬鹿力で思いっきり突き飛ばしてきたから、本気で私を殺そうとしたのね。
あの女……歩けるようになったら文句を言いに地下牢まで行ってやる。それまで死なずに待ってろよ!
前世の記憶が戻った私は、気になることが沢山あった。私が死んだ後、両親や弟はどう過ごしたんだろう?
今世のアリシアとして社交した時、前世の両親と顔を合わせたことはない。そして私が死んだ時にまだ7歳だった弟は、今は25歳になっているはず。姉が大好きだったシスコン弟が大人になった姿を見てみたい。
そういえば、公爵の真実の愛の相手であるオーロラはどこにいるの?
あの女は辺境の貧しい男爵令嬢で成績は今ひとつだった。可愛いんだけど、礼儀がなってなくて色々な令息に馴れ馴れしくするから、令嬢達に嫌われまくっていたのよね。令息数人と友人以上に親しくしているって噂もあったし、令嬢と令息との前で態度をあからさまに変える性格だったから、令嬢は誰も相手にしなくなって孤立していた。オーロラが孤立しているのは、私が裏で虐めているからと公爵が文句を言いに来たことが何度もあって最悪だったな。
婚約者の私が死んだから、きっと当時の公爵はラッキーって思ってオーロラを婚約者にしようとしたはず……
でも、あれでは公爵夫人は務まらないから公爵の両親は絶対に認めなかったと思う。
もしかして……、私の知らないどこかで今も愛人として囲っていたりして?
オーロラとの間にすでに子供がいるから、アリシアとの子供は要らないって考えだった? だから跡取りは急がなくていいって言って、しっかり避妊していたのかもしれない。
それとも、公爵より良い条件の男を見つけて、私が死んだ後にあっさり捨てられたとか? でも、この国で公爵より良い条件の男なんてそうはいない。他国の大富豪にでも嫁いだのかな?
そして、私には前世の家族の次くらいに会いたい人物がいる。それは私の最推しの舞台俳優ロミオだ。
あの日、ロミオに会うのが楽しみで頑張って走ったのに……
ロミオはあの時、まだ駆け出しの俳優でヒロインの弟や護衛騎士、主人公の恋敵の役など、脇役ばかりだった。
でも、美しい金髪に綺麗な瑠璃色の瞳を持つ美形のロミオは、理想の王子様のような容姿をしていて、ちょい役であっても熱心にこなす彼を応援するファンは沢山いた。あの時はまだ20歳だったから今は38歳か……。彼はまだ俳優をやっているかな? アリシアに生まれ変わってから観劇に行ったことがないから会いたいなぁ。
体調がなかなか良くならず精神的に弱っていた私は、前世の家族や最推しのロミオを思い出したことで恋しさと悲しさで胸がいっぱいになり、一人で涙を流していた。
「ロミオの成長を沢山見ていたかった……
いつか主役を務める日が来ることを楽しみにしていたのに。
私の部屋に隠していたロミオの姿絵や観劇のパンフレットは処分されちゃったかな? いつか渡そうと思って書いておいたファンレターも、勝手に読まれていたら嫌だなぁ。
お母様は私があんな死に方をして呆れたかしら?
私を可愛がってくれたお父様は泣いちゃったかも……っ、……うっ……、みんなに会いたいよぉ」
すると最悪なことに、そのタイミングでメイドが来てしまった。
「失礼致します。奥様、公爵様がいらしておりますが……
キャー! 奥様どうされました? どこか痛みますか?」
メイドに鼻水を垂らして泣いている姿を見られてしまう。すると、慌てたメイドの声が邸中に響き、心配した公爵が部屋の中に入ってきてしまった。
「アリー、どうしたんだ? どこか痛むのか?
おい、侍医を呼べ! アリーが苦しんでいるから早く来るように伝えろ」
貴方はお呼びじゃないって……
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