結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ

文字の大きさ
24 / 55
記憶が戻った後の話

24 自分の容姿

しおりを挟む
 捻挫や打撲が良くなり、私は自由に部屋の中を動き回れるほどに元気になっていた。
 しばらく歩いていなかったので、一人で歩くのは少し不安定になっていたが、いずれここを出て平民として働いて生きていくことを考えると、早く体力を回復させておきたい。

 私の今後の計画としては……

 まずは公爵と円満に離縁する。
 離縁後、実家の伯爵家に私生児の私は帰れないとか上手く言って、修道院に行くフリをする。
 途中で誰にもバレないように行き先を変更し、前世の自分の故郷であるキャンベル侯爵領に行く。
 キャンベル侯爵領は大きな地方都市があり人口も多くて住みやすそうだ。私はそこで職探しをして自由に生きていく。アリシアは平民の使用人の家で、平民らしく掃除や洗濯、裁縫、畑仕事などをして育ってきたから何とかなると思う。

 とりあえず今は体力を回復させつつ、前世の家族や最推しのロミオ、公爵の愛したオーロラの現在を調べたい。
 今は自室の中だけしか自由に歩き回ることを許されていないが、近いうちに邸内は歩かせてもらえないか頼んでみるつもりだ。
 一人で生きていくためには、体力が必要なんだから!

 部屋を歩き回れるようになって気付いたことがある。それは、私の容姿が前世のアリスと瓜二つだということ。
 ベッドで寝たきりだった頃は、鏡をじっくりと見ることはなかったから何とも思わなかった。しかし、ベッドから起き上がれるようになり、寝間着から簡単なドレスに着替え、髪も綺麗に結ってもらった時に衝撃を受けてしまう。

「奥様、久しぶりのドレス姿はとてもお美しいですわ。
 お鏡で見てみましょうか。どうぞこちらへ」

 メイドがドレス姿の私を鏡で見せるために、姿見まで手を引いて連れて行ってくれたのだが、私は驚きとショックでメイドの前でうっかり声を上げてしまった。

「……これが私なの? よりにもよってこの顔? こんな姿だったなんて知らなかったわ……」

 前世の記憶が戻る前は気付かなかったが、今の私はアリスとそっくりでまるで双子のよう。髪や目の色だけでなく、肌の色も顔の作りも、体の体型や身長まで全てがそっくりだった。死ぬ前の17歳の頃のアリスとほとんど変わらない。
 公爵は何を考えて、嫌っていた元婚約者にそっくりな私と結婚したのだろう?
 中身が別人に変わったってことはないよね?

「おっ、奥様……、記憶喪失でご自分のお姿まで忘れられていたのですね。
 ……っ! 奥様は今も記憶を失くされる前も、変わらずお美しいですわ。優しくてお美しい奥様のことがみんな大好きでした。公爵様もそんな奥様を溺愛し、とても大切にされております。
 ですから、どうかご自分の容姿を否定されないでください」

 ヤバいわ……。メイドが泣きそうになっている。優しい人だからなぁ。

 恐らく、今の私は記憶喪失で自分の顔まで忘れていた人に見えている。
 久しぶりに鏡を見て、自分の顔を知ってショックを受けた気の毒な公爵夫人ってとこかな。

「あっ、ごめんなさいね。私は大丈夫よ。
 ドレスも髪型も素敵にしてくれてありがとう」

「……奥様はこんな時でもお優しいのですね。
 久しぶりにドレスに着替えたのですから、公爵様にも見ていただきましょう。
 少々、お待ち下さい!」
 
「えっ、それは必要ないわ……って、行っちゃったよ」

 メイドはすぐに公爵を呼んできてしまった。
 最近、ずっと気になっていたが、使用人たちは何かあると時間に関係なく、すぐに公爵を呼ぼうとする。私は呼ばなくていいって言っているのに。
 そして、公爵も忙しいはずなのに来るのが早すぎ!
 
「アリー! 久しぶりにドレスに着替えたと聞き、嬉しくて来てしまったよ。
 私のお姫様は何を着ても可愛いが、今日のドレス姿もとても美しいな。
 ドレスに着替えることができるまで回復して良かった。
 お祝いに新しいドレスを注文しよう! デザイナーを呼んでくれ。宝石と靴も欲しいから、今すぐ商会も呼ぼう」

「畏まりました」

 そんなの要らないから!
 私が欲しいのは手元に置ける現金。ドレスも宝石も、平民になる予定の私には必要ない。

「公爵様、ドレスは沢山ありますし、今の私は社交をしていませんから必要ありませんわ。
 私にはお金を使わなくていいので、教会や修道院、孤児院に寄付をお願いします」

 それは、いつか公爵家を出て行くことを考え、孤児院や修道院などには恩を売っておきたいという下心から出た言葉だった。
 離縁した後、寄付を沢山しておけば路頭に迷った時に助けてもらえるかもーというだたの邪な心。
 しかし公爵は……

「私のお姫様はなんて優しいんだ……
 君の希望通り、修道院や孤児院に寄付をしよう。公爵家として寄付は沢山してあるから、公爵夫人からの寄付ということで」

 キャラが変わりすぎた公爵に若干引くが、ラッキー! しかし……

「言い忘れていたが、王妃殿下がアリーに会わせろと煩いんだ。来月、アリーを王宮に招待したいと言っている。
 あの方はアリーを自分の妹のように思っているところがあって、階段から落とされて意識を失っている間、専門の医者を手配してくれたり、有名な薬師を呼んでくれたりと、かなり世話になったから招待を受けたいと思っている。
 だから、新しいドレスを仕立てよう」
 
 王妃殿下と聞いてギクっとした。
 あの人に会うのは危険だ。なぜから、王妃殿下はアリスの従姉妹で、仲の良い本当の姉妹のような関係だったから。
 今の私が王妃殿下に会ったら、色々とバレてしまう可能性がある。もしかしたら、あの鋭いお姉様はすでに私がアリスだと気が付いているかもしれない……

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...