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記憶を取り戻す前の私 3
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机に落書きをされた翌日、今日も頑張ろうと決めて登校すると、机の中のノートがビリビリに破かれているのを見つけてしまう。
いつもなら授業の復習をするために持ち帰っていたのに、昨日に限ってうっかり学園に置き忘れてしまっていたのだ。
「……」
言葉が出てこない。ただただショックだった。
「良かったら、余っているノートが沢山あるから使って」
「私のノートで良ければ写していいわよ。ほら、落ち込まないの」
それはクラスメイトの令嬢たちの声だった。
私と仲良くしていると高位貴族の令嬢たちから冷ややかな目で見られることがあったので、普段は距離を置いていたのに、こんな時は迷わずに助けてくれる優しい人たちだ。
「ありがとうございます」
このノートは父が買ってくれた大切なノート。他の貴族の方から見れば質素なノートにしか見えないと思うが、貧乏な私の家では高価な物で、表紙の裏には小さな字で父からのメッセージが書いてある思い入れのある物だった。
後で破られた場所が修復出来ないか、色々考えてみよう。
そして、その日の授業で勉強したのは偶然にも修復魔法だった。
この魔法ならノートを戻せるかもしれない。詳しく教えてもらえないか、先生の所に行って聞いてみようかしら。
昼休みに先生の研究室に行くと、突然訪ねたにも関わらず、研究室の中に迎えてくれる。相変わらず先生の感情は読み取れないが、私の話をじっくりと聞いてくれた。
「魔法は人によって向き不向きがあるのは知っているだろう?」
「はい。それは理解しております」
「君は治癒魔法が得意で魔力も強いと思うが、修復魔法は治癒魔法とは全く違うものだ。私が教えたとしても君が上手く使いこなせるようになるのかは分からない。
それでも学びたいと強く望むなら、昼休みでよければ練習に付き合おう。
だが、君が貴重な治癒魔法の使い手だからと、他の教師のように君を特別扱いしたりはしない。少々厳しくなると思うがいいか?」
先生は教師と公爵家の当主の仕事が忙しいはずなのに、貴重な昼休みに私に魔法を教えてくれると言ってくれる。
そして、他の先生のように私を特別扱いしないと言ってくれた。先生方が身分の低い私を特別扱いすることで、一部の方々から僻まれていた私としてはそれはとても嬉しかった。
「ありがとうございます。
私、頑張ります」
先生は普段は全く笑わないし、完璧な美形で少し冷たそうに見えるけど、心はとても温かい人なのかもしれない。
「ところで、その破られたノートは私が預かっていてもいいだろうか?
時間のある時に私が直しておこう」
「お忙しい先生にそこまでお願いするのは……」
「大丈夫だ。大切なノートなんだろう? 出来るだけ綺麗な状態に戻すようにするから問題ない。こういう時まで遠慮しなくていいんだ」
「あ、ありがとうございます。
よろしくお願いいたします」
今、私の見間違えでなければ先生が一瞬だけ笑ったような……
気のせいかな?
その後、先生の研究室から自分の教室に戻ると、いつもと様子が違うことに気付く。
「エリー、どこに行っていたの?
殿下たちがずっとあなたを待っておられたのよ」
「えっ!」
クラスメイトの令嬢がサッと来て私に耳打ちしてくる。
「エリー! 待っていたんだ。今度はノートを破られたと聞いて心配して来たんだ。大丈夫か?」
不安そうな目で私を見つめるのは殿下。
「エリー、また泣いていたらと不安だったが、思ったよりも元気そうだな」
私を見て安堵のため息をついたのは宰相令息。
「こんなことをするのはイジメだぞ。
殿下、この学園でこんなことをするヤツは退学でしたよね?」
怒りを露わにするのは騎士団長の子息。
「そうだな……。エリーは大袈裟にすることを嫌がっているようだが、これ以上黙っているわけにはいかない。
これは学園長にも報告して、今後の対応を考える必要がある。
それより、エリーにこれを渡したくて待っていたんだ」
殿下は高そうな紙袋を渡してくる。
本能的にこれを受け取ってはいけない気がして、心臓がドクドクしてきた。
「えっと……、殿下……こちらは?」
「ノートを破られたと聞いたから、従者に頼んで急ぎで王宮からノートを持って来てもらったんだ。
沢山あるから、これからはこれを使うといい」
恐る恐る尋ねた私に笑顔を向けてくる殿下。その眩しい笑顔に、周りの令嬢たちから「きゃー!」と声が上がる。
「それは王家の紋章入りの特別なノートで、選ばれた者だけが使える物だ。
殿下から賜ったノートを破くようなバカはこの国にはいないだろう。良かったな……
ノートを写すのが大変なら私が手伝ってやってもいい。ついでに勉強も教えてやろう。放課後、図書室で待っていなさい」
宰相子息は呆れたように話しているが、私は冷や汗が流れていた。
殿下から特別なノートをもらったなんて、あの方にバレたら?
宰相子息と図書室で一緒に過ごしたなんて噂にでもなったら……?
間違いなく、あのお方たちから睨まれてしまう。
「お気持ちだけ頂戴いたしますわ。
いつもご配慮していただき、ありがとうございます」
今回も丁重にお断りさせてもらったが……
「エリーは物欲がなくて慎ましいのは知っているが、こんな時は気にせずに受け取るべきだ」
「コイツの言うとおりだぞ。慎ましすぎて、平民が使うような質素なノートを使うから見下されるんだ。王家の紋章入りの豪華なノートを使っていれば、バカにされないはずだ」
宰相子息と騎士団長子息は、私にノートを黙って受け取るようにと言いたいようだが、私の心は沈んでいた。
慎ましいのではなくて、ただうちの男爵家は貧しいだけ。質素なノートでも、私にとっては父がプレゼントしてくれた大切なノートなのに。
先生は質素でボロボロに破られたノートをバカにすることなく、大切に扱ってくれて嬉しかったのに、今の気分は最悪だわ。
殿下たちは王家の紋章入りのノートを私に押し付けた後、自分たちの教室へと戻ってしまった。
そんなやり取りをした翌日、私の恐れていたことが起こる。
「聞きまして? 例のあの女、自分が虐められていると自作自演をしていたようですわよ」
「ええ、聞きましたわ。放課後、自分の机に落書きをしたり、ノートを破いたりしているところを目撃した方がいるようですわね」
「そこまでして高貴な方々の気を引きたいのかしらねぇ?」
悪意のこもった噂が学園で流れ、学園で私の居場所がなくなりつつあった。
いつもなら授業の復習をするために持ち帰っていたのに、昨日に限ってうっかり学園に置き忘れてしまっていたのだ。
「……」
言葉が出てこない。ただただショックだった。
「良かったら、余っているノートが沢山あるから使って」
「私のノートで良ければ写していいわよ。ほら、落ち込まないの」
それはクラスメイトの令嬢たちの声だった。
私と仲良くしていると高位貴族の令嬢たちから冷ややかな目で見られることがあったので、普段は距離を置いていたのに、こんな時は迷わずに助けてくれる優しい人たちだ。
「ありがとうございます」
このノートは父が買ってくれた大切なノート。他の貴族の方から見れば質素なノートにしか見えないと思うが、貧乏な私の家では高価な物で、表紙の裏には小さな字で父からのメッセージが書いてある思い入れのある物だった。
後で破られた場所が修復出来ないか、色々考えてみよう。
そして、その日の授業で勉強したのは偶然にも修復魔法だった。
この魔法ならノートを戻せるかもしれない。詳しく教えてもらえないか、先生の所に行って聞いてみようかしら。
昼休みに先生の研究室に行くと、突然訪ねたにも関わらず、研究室の中に迎えてくれる。相変わらず先生の感情は読み取れないが、私の話をじっくりと聞いてくれた。
「魔法は人によって向き不向きがあるのは知っているだろう?」
「はい。それは理解しております」
「君は治癒魔法が得意で魔力も強いと思うが、修復魔法は治癒魔法とは全く違うものだ。私が教えたとしても君が上手く使いこなせるようになるのかは分からない。
それでも学びたいと強く望むなら、昼休みでよければ練習に付き合おう。
だが、君が貴重な治癒魔法の使い手だからと、他の教師のように君を特別扱いしたりはしない。少々厳しくなると思うがいいか?」
先生は教師と公爵家の当主の仕事が忙しいはずなのに、貴重な昼休みに私に魔法を教えてくれると言ってくれる。
そして、他の先生のように私を特別扱いしないと言ってくれた。先生方が身分の低い私を特別扱いすることで、一部の方々から僻まれていた私としてはそれはとても嬉しかった。
「ありがとうございます。
私、頑張ります」
先生は普段は全く笑わないし、完璧な美形で少し冷たそうに見えるけど、心はとても温かい人なのかもしれない。
「ところで、その破られたノートは私が預かっていてもいいだろうか?
時間のある時に私が直しておこう」
「お忙しい先生にそこまでお願いするのは……」
「大丈夫だ。大切なノートなんだろう? 出来るだけ綺麗な状態に戻すようにするから問題ない。こういう時まで遠慮しなくていいんだ」
「あ、ありがとうございます。
よろしくお願いいたします」
今、私の見間違えでなければ先生が一瞬だけ笑ったような……
気のせいかな?
その後、先生の研究室から自分の教室に戻ると、いつもと様子が違うことに気付く。
「エリー、どこに行っていたの?
殿下たちがずっとあなたを待っておられたのよ」
「えっ!」
クラスメイトの令嬢がサッと来て私に耳打ちしてくる。
「エリー! 待っていたんだ。今度はノートを破られたと聞いて心配して来たんだ。大丈夫か?」
不安そうな目で私を見つめるのは殿下。
「エリー、また泣いていたらと不安だったが、思ったよりも元気そうだな」
私を見て安堵のため息をついたのは宰相令息。
「こんなことをするのはイジメだぞ。
殿下、この学園でこんなことをするヤツは退学でしたよね?」
怒りを露わにするのは騎士団長の子息。
「そうだな……。エリーは大袈裟にすることを嫌がっているようだが、これ以上黙っているわけにはいかない。
これは学園長にも報告して、今後の対応を考える必要がある。
それより、エリーにこれを渡したくて待っていたんだ」
殿下は高そうな紙袋を渡してくる。
本能的にこれを受け取ってはいけない気がして、心臓がドクドクしてきた。
「えっと……、殿下……こちらは?」
「ノートを破られたと聞いたから、従者に頼んで急ぎで王宮からノートを持って来てもらったんだ。
沢山あるから、これからはこれを使うといい」
恐る恐る尋ねた私に笑顔を向けてくる殿下。その眩しい笑顔に、周りの令嬢たちから「きゃー!」と声が上がる。
「それは王家の紋章入りの特別なノートで、選ばれた者だけが使える物だ。
殿下から賜ったノートを破くようなバカはこの国にはいないだろう。良かったな……
ノートを写すのが大変なら私が手伝ってやってもいい。ついでに勉強も教えてやろう。放課後、図書室で待っていなさい」
宰相子息は呆れたように話しているが、私は冷や汗が流れていた。
殿下から特別なノートをもらったなんて、あの方にバレたら?
宰相子息と図書室で一緒に過ごしたなんて噂にでもなったら……?
間違いなく、あのお方たちから睨まれてしまう。
「お気持ちだけ頂戴いたしますわ。
いつもご配慮していただき、ありがとうございます」
今回も丁重にお断りさせてもらったが……
「エリーは物欲がなくて慎ましいのは知っているが、こんな時は気にせずに受け取るべきだ」
「コイツの言うとおりだぞ。慎ましすぎて、平民が使うような質素なノートを使うから見下されるんだ。王家の紋章入りの豪華なノートを使っていれば、バカにされないはずだ」
宰相子息と騎士団長子息は、私にノートを黙って受け取るようにと言いたいようだが、私の心は沈んでいた。
慎ましいのではなくて、ただうちの男爵家は貧しいだけ。質素なノートでも、私にとっては父がプレゼントしてくれた大切なノートなのに。
先生は質素でボロボロに破られたノートをバカにすることなく、大切に扱ってくれて嬉しかったのに、今の気分は最悪だわ。
殿下たちは王家の紋章入りのノートを私に押し付けた後、自分たちの教室へと戻ってしまった。
そんなやり取りをした翌日、私の恐れていたことが起こる。
「聞きまして? 例のあの女、自分が虐められていると自作自演をしていたようですわよ」
「ええ、聞きましたわ。放課後、自分の机に落書きをしたり、ノートを破いたりしているところを目撃した方がいるようですわね」
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