目覚めたらバッドエンドを迎えた後のヒロインだった件

せいめ

文字の大きさ
6 / 30

記憶を取り戻す前の私 4

しおりを挟む
 根も葉もない噂で傷付いた私は、人気のない校舎の裏で泣いていた。

「……っ。ううっ……」

 私はただ魔法が学びたくてこの学園に来ただけ。どうしてこんなことに……
 早く男爵領に帰りたい。家族や幼馴染たちに会いたい。

 その時、人の歩いて来る音が聞こえる。

「昼休みは修復魔法の練習をする約束だったはずだが、ここで何をしているんだ?」

「……っ! 先生、申し訳ありません」

 突然、声を掛けられてビクッとしてしまうが、その相手が先生だと知って安堵してしまった。

 私に敵意を向ける高位貴族のご令嬢や面倒に絡んでくる令息たちでなくて良かったわ。
 こんな姿を見られたら、また何と言われるか分からないもの。

「今は泣くことよりも、優先すべきことがあるはずだ」

「は、はい」

「私の研究室からここは丸見えだ。他の部屋からも見えている可能性もある。少しは場所を考えるように。
 そういえば、私の研究室の隣の倉庫なら誰も来ないな……引きこもるにはちょうどいい」

 先生の口調は全然優しくないけど、私を見る目は温かい気がした。

「ふふっ……。では、次に泣きたくなったら、先生の研究室の隣をお借りしますね」

「泣いていたと思ったら笑ってみたり、君は感情表現がハッキリしているな」

「申し訳ありません。気を付けてはいるのですが……」

「私の前では気にしなくていい。だが、人の粗探しが趣味の女狐たちの前では気を付けるように」

 女狐って言ってるわ。
 先生は色々気付いてくれているのね。

 その後、先生の研究室に行き、魔法を練習した後に渡されたのは、破られた後に預けていた私のノートだった。
 ノートは破られる前の綺麗な状態に戻っている。

「ありがとうございます。
 先生の魔法は本当に素敵です!」

「これくらいは大したことはない」

「私も先生のように、周りの人を幸せに出来る魔法を使えるようになりたいです」

 修復魔法が使えたら貧しい領民のためになるはず。男爵領の人たちは新しい物が買えなくて、古い物を直して大切に使っているから。

「幸せか……。そう言ってもらえたのは初めてだな」

 その後、先生は私が学園で一番信頼する人になっていた。

 先生と打ち解けたことで気持ちがゆるんでいたのが良くなかったのかもしれない。
 あんなことに巻き込まれるなんて……


⭐︎⭐︎


 ある日の昼休み、教室に戻ろうと階段を上っていて踊り場まで来た時だった。

「まあ! バタバタと騒がしく階段を上ってくる下品な人がいると思ったら、やっぱり貴女だったのね」

 冷ややかに話しかけてきたのは、王太子殿下の婚約者である公爵令嬢だった。

「ごっ、ご機嫌よう」

 この方は私のことが大嫌いで、顔を合わせるたびにチクチク言ってきたり、蔑んだような視線を向けてきたりと、非常に苦手で関わりたくない人だった。

 気のせいかしら? いつもと様子が違う気がする。
 いつも引き連れている取り巻きの令嬢たちがいないわ。お一人でいらっしゃるなんて珍しい。

「……最悪の気分よ。貴女、何も知らないのね」

「え……?」

 自信に満ちて堂々としていたはずの公爵令嬢の表情が抜け落ちている。

「宰相子息が婚約破棄を宣言したわ。婚約者が貴女の机に落書きをしていたことが判明したとかで」

「……」

「騎士団長子息の婚約者は、貴女のノートを破いていたことが判明して、近々婚約破棄されるだろうと言われているの」

「……っ!」

 このような内容の話を静かに口にする公爵令嬢が不気味に見えてゾクっとしてしまう。

「貴女と仲良くしている魔法教師の公爵閣下が、学園長や騎士団と協力して二人の罪を暴いたようね。
 学園で虐めは大罪で退学処分になるの。いつもならこれくらいのことは虐めとは言わず、些細な嫌がらせとして処理されるはずなのに、殿下や先生方は虐めだと言って聞かなかったわ。しかも、貴女の周りの下位の貴族たちまで同調して……
 あの二人は退学になるだろうって、殿下から話をされてきたところなのよ」

 そんなことを先生は何も言っていなかった。
 自分も関係しているのに、何も知らなかったことがショックだった。

「殿下から言われたわ……
 『君が二人に虐めるように命令したんじゃないのか?』って。次はあの酷い噂話を広めた犯人を追っているから、また退学者が増えるかもしれないと話されていたわ。
 私はただ愛されたかっただけよ。殿下の隣に立つためにずっと努力してきた。
 それなのに治癒魔法が出来るだけの平民と変わらない田舎貴族の貴女に、どうして私の全てを奪われなければならないの?」

「ひっ!」

 徐々に取り乱す公爵令嬢はとても恐ろしく、声が出てこない。
 私は何も奪っていませーん! と言いたくても怖くて身動きすら出来ない。

「どうせ落ちるなら貴女も道連れにしてやるわ」

 ニヤッと不気味に微笑んだ公爵令嬢はその瞬間、大声で叫ぶ。

「キャー! エリーさん、やめてー! 殺さないでー!」

 突然のことで何が起きているのかわからなかった。
 ハッとした時には、公爵令嬢は自ら階段を落ちていったのだ。

「キャー! 誰かが階段から落ちたわ」

「誰か先生を呼んでくれ」

 叫び声で駆けつけてきた学園の生徒たちが、血を流して倒れている公爵令嬢と、階段の上で動けずにいる私を交互に見つめている。

 私、嵌められたの……?
 それでも今、私がやるべきことは一つだけ。

 ふらつく体を何とか動かし、急いで公爵令嬢の所に向かう。頭から血を流して倒れる公爵令嬢に治癒魔法をかけるが……

「どうして目覚めてくれないの?」

 強い治癒魔法をかけているはずなのに、公爵令嬢の意識が戻る様子はなく出血も続いている。
 その時にふと思い出してしまった。まだ治癒魔法を覚えたての頃に教会のシスターが話していたことを。

『治癒魔法はね、〝生きたい〟とか〝元気になりたい〟って強く望んでいる人の方が効きがいいみたいよ。
 人は心も健康でないと幸せとは言えないわね』

 公爵令嬢は本気で死ぬ気でいたのね。そこまで思い詰めていたなんて……

「神様、どうか私に力を……」

 更に強く魔法をかけ続ける。

「出血が止まってきたぞ!」

「凄い魔法だ」

「エリー、頑張って!」

 顔見知りの令嬢が声を掛けてくれたその時、公爵令嬢の顔色が良くなってきていることに気付く。

「あと少し。お願い、目覚めて……」

 体が辛い。でも諦めるわけにはいかない。
 そして、

「目覚めたぞー!」

 公爵令嬢の意識が戻ったらしく、彼女と目が合ってしまった。

「良かった……。良かった……です。
 ごめんなさい。私、自分だけが辛いとばかり……」

 私の体力は限界を迎え、涙も溢れていた。息苦しく、気持ち悪くて目眩もする。

「ゲホッ、ゲホッ……」

 その瞬間、激しく咳き込んでしまう。

 みんなの見ている前で、またみっともない姿を見せてしまったわね。

「エリー、口から血が!」

「キャー!」

 令嬢たちが私の顔を見て顔色を悪くしている。

「えっ?」

 よく見ると、私の手のひらに血がベットリと付着していた。

「エリー、魔力切れだ!」

 それは焦ったような先生の声だった。

 先生が来てくれた……
 いつも冷静で感情が分かりにくい人なのに、珍しく声を張り上げているわ。

 慌てて駆けてくる先生の姿を見たら、安堵感から体の力が抜けていく。

「先生……」

 その後、何が起きたのか分からない。私は意識を手放していた。



 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります!

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...