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記憶を取り戻す前の私 2
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翌日に登校すると、私の机になぐり書きしたような落書きがある。
〝死ね〟〝偽善者〟〝退学しろ〟
「……」
思い当たる人が数人いて、犯人探しをしたいとも思わなかった。
悲しいけど、これで動揺したり学園を休んだりしたら相手の思う壺だわ。こんな時ほど冷静でいないと。
あまり騒ぎ立てないで、静かにしていよう。
しかし、クラスの誰かが王太子殿下と取り巻きたちにこのことを報告したらしく、私が落書きを自分で消そうとしていたその時、彼らが私の所に来てしまった。
「エリー、嫌がらせを受けたと聞いた。大丈夫か?」
あの完璧な王太子殿下が珍しく取り乱している。
このクラスは下位貴族ばかりなのに、そんな場所に殿下や高位貴族の取り巻き達が来てしまったらとても目立つ。
騒ぎ立てずにやり過ごしたかった私は、緊迫感を漂わせている殿下たちを見て萎縮してしまった。
「体調を崩しているエリーにこんな酷い仕打ちをするなんて、一体誰がこんなことを……」
いつもは無表情な宰相子息が怒りを滲ませている。
「エリー、誰か心当たりはないか?
お前を苦しめるヤツは私が倒してやる」
騎士団長の子息は怒りを隠すこともせず、青筋を立てていた。
「……い、いえ。私は何も知りません。これくらいのことは気にしておりませんので大丈夫ですわ」
「大丈夫なわけないだろう!」
「ひっ!」
怒りを含んだ騎士団長子息の声にビクッとしてしまう。
私が怒られているみたい……
泣きたいのを必死に我慢しているのに。みんな放っておいてよ。
「落ち着け! エリーが怯えているじゃないか。
エリー、ここに居るのが辛いなら、少し医務室で休むかい? 机の落書きは私が消しておくから、少し休んでくるといい」
張り詰めた空気の中、比較的落ち着いて優しく声を掛けてくれたのは神官長の子息だ。
彼はとても穏やかで、この中では一番関わりやすい人だと思っている。神官長の子息として慈善活動に熱心で、誰にでも親切な彼は孤児院の子供達にも人気らしい。
「ご心配ありがとうございます。しかし、私はこれくらいのことで授業を休むわけにはいきません。
治癒魔法が使えるからと特待生として学園に迎えていただきましたが、勉学の成績は今ひとつなんです。授業を休んでしまったら、更に勉強についていけなくなってしまいます。
私は大丈夫ですわ。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
成績が良くないことを周りに打ち明けるのはとても恥ずかしいが、今更見栄を張りたいとも思わなかった。
貧しい生活の中、王都の貴族学園で学ぶことを許してくれた父や兄、笑顔で送り出してくれた男爵領の子供たちのためにも今は頑張らなくてはならないのだから。
殿下たちには失礼にならぬよう、丁寧に・遠回しに、放っておいて欲しいと言ってみたが……
「……エリー、健気に頑張る君を放ってはおけない。
君は国の宝だ。私達身分の高い者には、君を守る義務がある」
「殿下の仰る通りだ。エリーに危害を加えるヤツは私達が捕まえてやる」
私はただ正直に自分の置かれた状況を話しただけで健気に振る舞ってなどいないのに。
この人たちは私が何を言ってもいいようにしか取らないのかしら?
今は静かに勉強に集中したいのに、この身分の高い方たちが自分に絡んでくるせいで、落ち着いて勉強も出来ない!
「……っ! ほ、本当に大丈夫なんですっ」
イライラが最高潮に達し、気付くと涙が流れていた。
人前で泣くなんて貴族として絶対にしてはいけないのは知っている。しかし、私は平民と同じように育ってきたので、まだ感情を上手くコントロール出来なかったのだ。
醜態を晒した私はまた陰口を叩かれてしまうわ。
その時、バサっと音がしてハッとすると、私の泣き顔が見えないように頭からジャケットが掛けられていた。それを見ていた令嬢たちから『キャッ!』と声が上がる。
「エリーが何と言おうと、私は君を放っておけないんだ。
行こう! 勉強は私達でカバーするから、心配しなくていい」
これは殿下の制服だったのね。殿下の高価な香水の匂いがする。
本当にお優しい方だと思う……
殿下をお慕いしている方なら嬉しいのかもしれないけれど、私はあの恐ろしいお方を思い出してしまい、嬉しさよりも恐怖を感じていた。
殿下のジャケットを借りたなんてバレたら、殿下の婚約者とその取り巻きの令嬢たちに何て言われるか。
こんな姿で、殿下とその取り巻きの人たちと一緒に廊下を移動なんてしたら絶対にヤバいわ!
そんな私の気持ちなんて知らず、殿下たちは私の手を引いて教室を出て行こうとする。
誰か助けてー!!
その時、教室のドアが開く音が聞こえる。
「王太子殿下、こちらの教室は下位貴族のクラスだったと思いますが、ここで一体何をされているのです?
授業開始のお時間ですが、王族として他の生徒の模範となることを望まれている殿下が時間を守れないのはどうかと……
お前たちも、殿下の側近候補としての自覚が足りないのではないか?」
この学園で最も身分の高い殿下を淡々と諌めることが出来るのは、あの先生しかいない。
「公爵、私は特待生のエリーが嫌がらせを受けて困っていると報告を受けてここに来ているだけだ。私達王族は貴重な治癒魔法の使い手であるエリーを守る義務がある」
「ええ、その通りです。しかし今は授業の時間。
エリーの対応は、教師であり王族の端くれでもある私にお任せ下さい。私も陛下と学園長から彼女のことを頼まれておりましてね。
それと、あまり彼女ばかり構ってないでたまには婚約者様も気に掛けて下さい。婚約者のいる身でありながら、治癒魔法の使い手だからとその令嬢ばかりにうつつをぬかすなど、時期国王としてあるまじき行為かと」
「婚約者とは決まった日に交流しているから何の問題もない。しかし……公爵の言うことは理解している。
エリー、また来るよ」
殿下たちはそのまま教室を出て行ってしまった。
ホッとしたその時、
「いつまで立っているんだ? 授業を受ける気があるなら早く座りなさい」
「は、はい」
全く感情の読めない声。でも、私はいつもと変わらない先生の態度に安堵していた。
この先生は公爵という高い身分ながらも、素晴らしい魔法の使い手であり、この学園の魔法学を担当している。まだ二十代で見目麗しい先生に恋をする令嬢は沢山いるらしい。
「これは私から殿下に返しておこう。
それと……目障りな落書きはそこだけか?」
先生は私の席まで来ると、殿下の置いていったジャケットを引き取ってくれた。
正直なところ、殿下のジャケットをどうすればいいのか困っていたので、先生が引き取ってくれると聞いて安心してしまう。
「申し訳ありません。落書きはすぐに消します」
「君は悪くないから謝る必要はない」
先生はそう言った後、パチンと指を鳴らす。その瞬間、机の落書きは綺麗に消えていた。
「あ……」
驚きで言葉を失う私。
「浄化魔法だ。応用出来るようになれば、日常生活で意外と役に立つ」
「先生、凄いです!」
「無詠唱であれは凄い!」
「まあ! 何て素晴らしい魔法なのかしら」
クラスメイトたちは一瞬にして先生の魔法に引き寄せられている。
居心地の悪さを感じていた私は、先生のさりげない気遣いが嬉しくてたまらなかった。
私、頑張ろう……
※隠しキャラの公爵とは、殿下たちとの恋愛よりも勉強を優先しているとルートが開かれます。
また、クラスメイトの中にお助けキャラが数人存在し、ヒロインがピンチになると殿下たちに助けを求めに行ってくれるようです。
〝死ね〟〝偽善者〟〝退学しろ〟
「……」
思い当たる人が数人いて、犯人探しをしたいとも思わなかった。
悲しいけど、これで動揺したり学園を休んだりしたら相手の思う壺だわ。こんな時ほど冷静でいないと。
あまり騒ぎ立てないで、静かにしていよう。
しかし、クラスの誰かが王太子殿下と取り巻きたちにこのことを報告したらしく、私が落書きを自分で消そうとしていたその時、彼らが私の所に来てしまった。
「エリー、嫌がらせを受けたと聞いた。大丈夫か?」
あの完璧な王太子殿下が珍しく取り乱している。
このクラスは下位貴族ばかりなのに、そんな場所に殿下や高位貴族の取り巻き達が来てしまったらとても目立つ。
騒ぎ立てずにやり過ごしたかった私は、緊迫感を漂わせている殿下たちを見て萎縮してしまった。
「体調を崩しているエリーにこんな酷い仕打ちをするなんて、一体誰がこんなことを……」
いつもは無表情な宰相子息が怒りを滲ませている。
「エリー、誰か心当たりはないか?
お前を苦しめるヤツは私が倒してやる」
騎士団長の子息は怒りを隠すこともせず、青筋を立てていた。
「……い、いえ。私は何も知りません。これくらいのことは気にしておりませんので大丈夫ですわ」
「大丈夫なわけないだろう!」
「ひっ!」
怒りを含んだ騎士団長子息の声にビクッとしてしまう。
私が怒られているみたい……
泣きたいのを必死に我慢しているのに。みんな放っておいてよ。
「落ち着け! エリーが怯えているじゃないか。
エリー、ここに居るのが辛いなら、少し医務室で休むかい? 机の落書きは私が消しておくから、少し休んでくるといい」
張り詰めた空気の中、比較的落ち着いて優しく声を掛けてくれたのは神官長の子息だ。
彼はとても穏やかで、この中では一番関わりやすい人だと思っている。神官長の子息として慈善活動に熱心で、誰にでも親切な彼は孤児院の子供達にも人気らしい。
「ご心配ありがとうございます。しかし、私はこれくらいのことで授業を休むわけにはいきません。
治癒魔法が使えるからと特待生として学園に迎えていただきましたが、勉学の成績は今ひとつなんです。授業を休んでしまったら、更に勉強についていけなくなってしまいます。
私は大丈夫ですわ。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
成績が良くないことを周りに打ち明けるのはとても恥ずかしいが、今更見栄を張りたいとも思わなかった。
貧しい生活の中、王都の貴族学園で学ぶことを許してくれた父や兄、笑顔で送り出してくれた男爵領の子供たちのためにも今は頑張らなくてはならないのだから。
殿下たちには失礼にならぬよう、丁寧に・遠回しに、放っておいて欲しいと言ってみたが……
「……エリー、健気に頑張る君を放ってはおけない。
君は国の宝だ。私達身分の高い者には、君を守る義務がある」
「殿下の仰る通りだ。エリーに危害を加えるヤツは私達が捕まえてやる」
私はただ正直に自分の置かれた状況を話しただけで健気に振る舞ってなどいないのに。
この人たちは私が何を言ってもいいようにしか取らないのかしら?
今は静かに勉強に集中したいのに、この身分の高い方たちが自分に絡んでくるせいで、落ち着いて勉強も出来ない!
「……っ! ほ、本当に大丈夫なんですっ」
イライラが最高潮に達し、気付くと涙が流れていた。
人前で泣くなんて貴族として絶対にしてはいけないのは知っている。しかし、私は平民と同じように育ってきたので、まだ感情を上手くコントロール出来なかったのだ。
醜態を晒した私はまた陰口を叩かれてしまうわ。
その時、バサっと音がしてハッとすると、私の泣き顔が見えないように頭からジャケットが掛けられていた。それを見ていた令嬢たちから『キャッ!』と声が上がる。
「エリーが何と言おうと、私は君を放っておけないんだ。
行こう! 勉強は私達でカバーするから、心配しなくていい」
これは殿下の制服だったのね。殿下の高価な香水の匂いがする。
本当にお優しい方だと思う……
殿下をお慕いしている方なら嬉しいのかもしれないけれど、私はあの恐ろしいお方を思い出してしまい、嬉しさよりも恐怖を感じていた。
殿下のジャケットを借りたなんてバレたら、殿下の婚約者とその取り巻きの令嬢たちに何て言われるか。
こんな姿で、殿下とその取り巻きの人たちと一緒に廊下を移動なんてしたら絶対にヤバいわ!
そんな私の気持ちなんて知らず、殿下たちは私の手を引いて教室を出て行こうとする。
誰か助けてー!!
その時、教室のドアが開く音が聞こえる。
「王太子殿下、こちらの教室は下位貴族のクラスだったと思いますが、ここで一体何をされているのです?
授業開始のお時間ですが、王族として他の生徒の模範となることを望まれている殿下が時間を守れないのはどうかと……
お前たちも、殿下の側近候補としての自覚が足りないのではないか?」
この学園で最も身分の高い殿下を淡々と諌めることが出来るのは、あの先生しかいない。
「公爵、私は特待生のエリーが嫌がらせを受けて困っていると報告を受けてここに来ているだけだ。私達王族は貴重な治癒魔法の使い手であるエリーを守る義務がある」
「ええ、その通りです。しかし今は授業の時間。
エリーの対応は、教師であり王族の端くれでもある私にお任せ下さい。私も陛下と学園長から彼女のことを頼まれておりましてね。
それと、あまり彼女ばかり構ってないでたまには婚約者様も気に掛けて下さい。婚約者のいる身でありながら、治癒魔法の使い手だからとその令嬢ばかりにうつつをぬかすなど、時期国王としてあるまじき行為かと」
「婚約者とは決まった日に交流しているから何の問題もない。しかし……公爵の言うことは理解している。
エリー、また来るよ」
殿下たちはそのまま教室を出て行ってしまった。
ホッとしたその時、
「いつまで立っているんだ? 授業を受ける気があるなら早く座りなさい」
「は、はい」
全く感情の読めない声。でも、私はいつもと変わらない先生の態度に安堵していた。
この先生は公爵という高い身分ながらも、素晴らしい魔法の使い手であり、この学園の魔法学を担当している。まだ二十代で見目麗しい先生に恋をする令嬢は沢山いるらしい。
「これは私から殿下に返しておこう。
それと……目障りな落書きはそこだけか?」
先生は私の席まで来ると、殿下の置いていったジャケットを引き取ってくれた。
正直なところ、殿下のジャケットをどうすればいいのか困っていたので、先生が引き取ってくれると聞いて安心してしまう。
「申し訳ありません。落書きはすぐに消します」
「君は悪くないから謝る必要はない」
先生はそう言った後、パチンと指を鳴らす。その瞬間、机の落書きは綺麗に消えていた。
「あ……」
驚きで言葉を失う私。
「浄化魔法だ。応用出来るようになれば、日常生活で意外と役に立つ」
「先生、凄いです!」
「無詠唱であれは凄い!」
「まあ! 何て素晴らしい魔法なのかしら」
クラスメイトたちは一瞬にして先生の魔法に引き寄せられている。
居心地の悪さを感じていた私は、先生のさりげない気遣いが嬉しくてたまらなかった。
私、頑張ろう……
※隠しキャラの公爵とは、殿下たちとの恋愛よりも勉強を優先しているとルートが開かれます。
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